「今日は日曜日、起こしいただきありがとうございます。映画が見れるわけでもないのに、すみません……。」

5月29日(日)に行われた「Meet the Filmmaker @Apple Store,Ginza」。

第一線で活躍する映画作家の生の声が聞けるトークイベントに、映画「TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ」(6月25日(土)全国ロードショー)の監督、宮藤官九郎と、美術を担当した桑島十和子、小泉博康が登壇した。
長瀬くんの面白さを引き出そうと思うと、人間じゃなくなった「TOO YOUNG TO DIE!」
仲が良い3人。軽快なトークから和やかな現場の雰囲気が感じられた。

「プロモーション期間長すぎた」宮藤監督と生々しいトーク


映画も見れないのにと、登場してまもない挨拶ですでに笑いがおこる会場。客席は満席で立ち見も出た。超満員のなかイベントがスタートした。

「こんにちは。誰ですかって思われていますが、地獄の桑島です。美術っていう仕事をしています。
今日は宜しくお願いします」
骸骨が転がり、炎が燃えたぎる地獄を担当したのが桑島。丸いメガネをかけた小柄な女性だ。

「黄色い鬼役の小泉です。えと、現世の美術をちょっとだけやりました……
桑島とは対照的に、サイドを刈り上げてモヒカンのようなスタイルのイカツイ男性が小泉博康。現世の美術を担当した。
「ちょっとだけ(笑)全体的にやりましたよね?」
控えめなコメントに宮藤監督がすかさず突っ込む。

ここからは着席。おもしろくなりそうな予感しかしない。
長瀬くんの面白さを引き出そうと思うと、人間じゃなくなった「TOO YOUNG TO DIE!」
左から桑島十和子、宮藤官九郎、小泉博康

――地獄の映画を作ろうと思ったきっかけからお聞かせください。
宮藤「色んな雑誌とかで取材……なにしろプロモーション期間が長いんで(笑)毎回それをまず聞かれるんですけど、自分の中で毎回その答えを変えてやろうかと思ってるうちに、どれが本当の理由かわからなくなってしまったんですけど。あのー、たぶん本当なのは、地獄に何回も何回も高校生の男の子が堕ちてくる、そこに地獄になったら長瀬くんがいて。何回も何回も『おまえが地獄に堕ちた』と何回も歌うっていうシチュエーションがはじめに浮かんだんですよね。
こっから広げていけないかなと思って。それは長瀬くんと今まで以上にぶっとんだ映画をやりたいなというとこからの発想だと思うんですけど。そっから後付けで理由を考えていったっていう感じなんですよね」

――地獄の赤鬼のキラーKが長瀬智也さんで、地獄に堕ちる高校生の大助が神木隆之介さんですが、なぜこの二人がぴったりだと思ったのですか?

宮藤「長瀬くんは…もう長瀬くんから発想してキラーKなので。自分の中では長瀬くんがやるってことは大前提だったんですね。大助に関してはもっとあの…ふわーっとしてたんですけど自分のイメージの中では。なんか台本を書いていくうちにどうも大助が変なヤツだなこいつって思って。
で、地獄を全く理解してないっていう設定にだんだんなっていって、その辺から誰がやったらいいかイメージしてたら神木くんが一番いいかなって。へらへらしてる感じでやってもらえるかなって」
場内からクスクスと笑いが漏れる。

宮藤「なので…長瀬くんは長瀬くんの面白さを引き出そうと思うと、人間じゃないぐらいにいかないとダメかなと。今回、それで赤鬼って思ったので、わりとストレートに…。顔芸ですかね(笑)」

――実際に地獄でのお二人の様子はいかがでしたか?
宮藤「思ってた通りだし、思ってた以上に…長瀬くんが顔芸っていいましたけど、表現力の…。あの長瀬くんと仕事しすぎて、長瀬くんがカッコいいっていうことを、この格好をして初めてステージでライブシーンを撮ったときに、“この人カッコいいんだ”って久しぶりに思い出して。
カッコいいんですよね。なんだろうな…あの角も込みのフォルムはやっぱりすごい、こんな人いないな。あ、まあ人じゃないんですけど(笑)」
監督が改めて惚れ直すほど、鬼に扮してもカッコいい長瀬智也。

宮藤「神木くんは、地獄の方は伸び伸びやってもらって。で、ちょっと行き過ぎたなってところだけちょっと調整してもらって。とかやってるうちに、いつも元気なんで、あの特に言うことなかったですね、はい(笑)」
現世では冴えない高校生・大助を演じる神木。
現世での演技についてはディスカッッションしたものの、地獄は神木に委ねた。
「元気でいてくれさえすればそれでいい」と監督。なんだかお父さんのよう。

桑島「長瀬さんは本当に作られた鬼じゃなくて、最初に見たときもう鬼だったんですよね。なので、おお鬼キタ!と思って見てました。お芝居してるときもすごくおもしろかったし、できればその鬼に直接あってもらいたいですよ」
現場では聞けない感想だったのか、声に出して笑う宮藤監督。

――小泉さんは現世の美術担当でありつつ、黄色の鬼で共演された唯一の方ですが、いかがでしたか?
小泉「長瀬さんはやっぱカッコ良かったですね。スタジオの外で鬼同士、ちょっと色々しゃべったりして。あの…バイクの話とか(笑)神木くんの印象は、その時に発売されたファッション誌の街頭インタビューで、女の子の写真が出てて『好きな俳優 神木隆之介』って書いてあるの、ちっちゃいの見つけてきて。テンション高くなってヤッターって喜んでて、それが印象的で(笑)」

地獄と現世…美術を二人に分けた理由とは?



オファーするときから美術を二つに分けることを伝えていた宮藤監督。現世と地獄を分けたのにはどんな理由があったのだろうか。

宮藤「絶対、二人にした良さがスクリーンに出るっていうのだけは、思ってたんですよ。だって地獄と現世ですから。地獄の人が現世のことを知らないわけじゃないですか。逆もそれで…。だから相談して欲しくないっていう、地獄の人と現世の人が」
桑島「部屋同じでしたけど」
小泉「よく相談されてましたけど(笑)」
宮藤「統一感が出るというのも、普通はそうするだろうなっていうのはありましたけれど。それが全然、こう、交わらないというか。…うん、それによって良さが出るんじゃないかなと」

――お二人はどう思いましたか?
小泉「ラインプロデューサー的には、なんかちょっと空気で感じたんですけど、『もうやってらんねーよって、どちっちかが言うんじゃねーか』と、そんな感じが。『二人分のギャラはねーんだよ』みたいな感じがちょっとあったんですよ(笑)」
宮藤「生々しい(笑)」
たまらず爆笑する宮藤監督。

宮藤「俺も言われましたもん、本当に二人ですか?って。本当に何でですか?から。あやふやな言い方でもよかったけど、お金を司る人から言われたから、ウソな理由答えた気がします。絶対これでやりたいんだっていうのを。何回も目を見て言われましたよ」
美術の二人も笑うしかない赤裸々トーク。現世と地獄へのこだわりは、監督がプレゼンの末に勝ち取ったものだった。

小泉の遊び心に監督も感心


公開前なので詳しいことは言えないとしながら、現世と地獄で一定の時間経過があるという。

小泉「現世は時間経過が同じ場所であるってことで、そこはちょっとおもしろくしようかなと。建物の外観とかはっきり変えようかなと考えた…時代をわかりやすくっていうのが大きな一本の柱ですね」

宮藤監督が「さすが!」と感心していたのが、映らない細部へのこだわり。(ロケを行った店の画像がスクリーンに映し出される)
冷麺が霊麺、円が元に、飲食店によくある有名人のサインも小泉が書いた。宮藤監督のサインを完コピしたと語る小泉に対して監督が、
「俺が書けばよかった……」

小泉「それでね、もう何人かに宮藤さんのサインしたんですよ。下にじぇじぇじぇって書いてあるのはニセモノですから(笑)」

宮藤「変な勘違いとかが美術にあらわれるのが、小泉さんの持ち味ですよね。ある意味。すごいなーと」
誰よりも先に小泉のこだわりに驚かされた監督。

ストリートビューで探したロケ現場は、形はそのままに音楽スタジオや焼き肉店に変わる。ロケハンに5〜6回ほど通い、店主に少しずつ交渉。最終的に、「屋根から火だして燃やしていい?」と打診しOKをもらったものの……。
宮藤「さすがにね、それ撮ってるとき僕の後ろにいたんですけど、さすがに不安げな顔してて(笑)」

地獄を作った女性



手書きの地獄の地図が映されると、愛おしそうに眺めながら話す宮藤監督と桑島。細かく描かれているが、敷地面積は意外とコンパクトだった。

桑島「まず最初に思ったのは見てもらうと小泉さんの方が地獄で、私のほうが現世って感じしませんか?って思って。あたし地獄なんだって」

かつて行われた大人計画フェスティバルで、お化け屋敷の美術を担当したのが桑島だった。予算がないにも関わらず、怖い仕掛けを準備していたことが宮藤の記憶に残っていた。

宮藤「なんか知らないけど、髪の毛だけがすごくあったんですよ。多量に。その髪の毛がずーっとやってんのを見て、この人いい人なんじゃないかとちょっと思って」
お化け屋敷が地獄へとつながっていった。またしても予算が思うようにとれず、同じスタジオでの撮影という制限があった。

宮藤「言い訳じゃないですけど、狭苦しいのがいいなと思ったんですよね。地獄だから果てしなく広いとそれはそれでちょっと逃げられそうだし。なんかそうじゃなくて、閉じ込められて暑苦しい奴らに取り囲まれてる感じがいいなーと思って。その感じが良く出たなって思いますね」
長瀬くんの面白さを引き出そうと思うと、人間じゃなくなった「TOO YOUNG TO DIE!」
超満員の客席。笑いが絶えないあっという間の1時間だった。

――閉塞感を出すためにどんな工夫をされたんですか?
桑島「スタジオに限界があるんで、奥にはすごくバカみたいなパースがついていて。『もうバレてもいいじゃん』と監督がおっしゃっていたので、わざと色んなことがバレてもいいよね地獄だからっていう、いわゆるファンタジーだから。決まりがないから、何でもできるということで考えていきました」

CGだと色んなことを誤摩化しながらやることになると宮藤監督。地獄を自然に見せるために「変だなここ」という違和感をあえて残した。
地獄の象徴である炎も幕に描いた。
スタジオの真ん中を仕切るように、コの字型のカーテン状になっていたので、撮影のたびに背景をスタッフの手で切り替えた。監督もまわした。

――ブルーバックにしてCGにしようという発想は?
宮藤「最初っからなかったっていうのもあれですけど、それだったら俺よりもうまい人いっぱいいそうな気が…俺よりっていうか、ジャッヂをするのも何もないし、CGのことわかんないし、見てる人もCGに慣れてる。お客さんの方が……もう、それ俺やんなくていいかなと。もっとアイディアで逃げ切りたいなみたいな」

――演劇的な手法を映画に入れたかったというのが最初のアイディアにあったそうですが
宮藤「演劇ってお客さんに委ねることが多くて、ちょっとこういう風に変えたらこういう風に見せる。全部揃えるわけじゃないじゃないですか。想像力に頼るというか、それを映画でも。映画でそれをやってこなかったっていうか。なんかわかんないけど、今まで使ってこなかった。僕は元々演劇からスタートしたんですけど、それをやってなかったなって」
監督と桑島は映画『楢山節考』(深沢七郎の短編小説、木下惠介監督)にヒントを得て、イメージを共有した。

宮藤「それが、場面転換が演劇みたいで、ちょっとおもしろかったんですよね。それまで正直この映画できんのかなって思ってて、それを見たら昔の人やってんじゃんって思って。あ、こういうの演劇得意なはずなのに、やってこなかったんだろうなって思って。映画は映画らしくしなきゃいけないっていうのに縛られてたんじゃないかなって。それを一回取っ払おうかなっていうのもありました」
神木がその場で走る演技をして、風を吹かしながらバックの幕だけを動かすアナログな手法の撮影もあった。
「撮りながら、これ正直使えるのか?」
カメラをまわしつつ、実は不安だった宮藤監督。実験のような撮影に、美術陣の想像を超えた遊び心。キャストと共に、スタッフの挑戦が一つの作品になった。
映画「TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ」は6月25日(土)全国ロードショー。

(柚月裕実)