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殺人、薬物、銀行強盗の囚人たちの生き甲斐が読書会だった。カナダ刑務所事情

2016年10月27日 10時00分 ライター情報:香山哲
『プリズン・ブック・クラブ』は、カナダの刑務所で実際に行われている「読書会」のことについて書かれた本だ。
『プリズン・ブック・クラブ』アン・ウォームズリー著、向井和美訳/紀伊国屋書店

殺人、銀行強盗、薬物の売買、さまざまな罪で服役している囚人たちが、読んだ本についてみんなで話し合う。司会や運営をおこなうボランティアとして参加した著者が、その経験を詳細に書いたノンフィクション。素晴らしい本だった。

そして、あまり他の本では感じないことが多く、珍しい読書体験ができた。出会って損はさせない本だ。それでこの文章も、書くのにずいぶんかかってしまった。まずは概要から、簡単に説明しよう。

どこかの大学の何かの研究で、「文学作品を味わうことは、共感する力や社会性が高まる助けになる」というような結果があるようだ。本書はそのことについて触れ、刑務所で読書会をやることの意義について書いている。登場人物の視点に没頭したり、舞台を想像したり、今とは違う時代のことを考えたりして名著・傑作を読む機会が多くなれば、そういうこともあるのだろう。

熱心に刑務所での読書会を運営し、寄付を集めたり選書をおこなっている友達にさそわれて、著者は2011年、読書会ボランティアを始める。読書会は月に1度で、それまでに各自は決められた本を読んでおく。ボランティアは全員が平等に発言し、互いがケンカにならないように、そして会の質が高くなるように進行させる。刑務所は、外部から本が入るときに何かがページの間に隠されないか、ボランティアと囚人の間で余計なやりとりや事件が発生しないかなど、全方面の注意をする。

読書会でもらえるクッキーを目当てに「読まずに参加」する輩がいたり、何かあって突然刑務所からいなくなる者もいる。大声が聞こえてきたり、荷物チェックがあったり、「刑務所で読書会をおこなう」ということの緊張感や難しさが、色んな風景やできごとの描写から伝わって来る。それでも著者たちは続ける。

次は、本について。刑務所読書会、どんな本が読まれるのか。古典?最新ベストセラー?そして囚人たちの読解力は?答えは「色々」だ。その時のメンバーが興味を持って取り組めるであろうものを、様子を見ながら進めていく。

たとえば「登山家が慈善団体を率いてパキスタンとアフガニスタンに女子校を建設する」という自伝を読んでも、「感心した」「こいつはドジばっかりだ」と、意見はそれぞれだったりする。「回顧録に脚色はつきものだ。人間の記憶も変化するものだから、多めに見てやる必要もある」なんて擁護も出る。

ライター情報

香山哲

漫画やゲームを制作するチーム「ドグマ出版」主催。著作に『ランチパックの本』や『香山哲のファウスト1』(文化庁メディア芸術祭推薦作品)など。

URL:Twitter:@kayamatetsu

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