連続テレビ小説「べっぴんさん」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)第10週「商いの聖地へ」第56回 12月6日(火)放送より。 
脚本:渡辺千穂 演出:安達もじり
「べっぴんさん」56話。夏菜子のエクボが悲しみの落とし穴に
イラスト/小西りえこ

56話はこんな話


大急への委託販売に向けてはりきるすみれ(芳根京子)たち。目玉商品を考えようとして、お弁当箱にイラストをつけることを思いつく。

盛り上がっていくキアリス面々だったが、良子(百田夏菜子)が、手の焼ける息子・龍一(原知輝)の行動に徐々に追い詰められはじめる。

 とりあえずセーフ


すみれ(芳根京子)が君枝(土村芳)の住居の2階を作業場にするためミシンなどを運びこぶと、聞いてないと戸惑う義母さん・村田琴子(いしのようこ)。本当に、お母さんに何も話せない昭一(平岡祐太)のダメさが浮き彫りになるが、そこは深入りしないままだが、鍵盤をポツンポツンと叩くような劇伴が、人間関係のぎくしゃく感を煽る。
「大急に?」と驚く義母さん。結局「もう1ヶ月だけですよ!」と許可した。大急ブランド強し!
というところで、主題歌へー。
前の回の終わりで何かが起こるか、と思わせて、次の回の冒頭であっさり解決は、連ドラの視聴者対策のひとつではあるが、「べっぴんさん」はその手際がじつにスマートだ。


 想像する力に泣ける


「たけちゃん、ごちそうさんね」
「おそまつさんです」
明美(谷村美月)と武(中島広稀)の会話が微笑ましい。武がお金さえあったら美味しいものをごちそうすると言うと、ごちそうしてもらったことを想像して満足する明美。その御礼に美味しい手料理をつくるという。
このふたり、世界的、慎ましいカップルNo.1の「賢者の贈り物」の夫婦を超える勢いだ。

 今日の紀夫君


お弁当箱にイラストをつけるというアイデアの元になるエピソード・・・さくら(粟野咲莉)を保育所に預けるのをやめようということになったとき、さくらに微笑みかける紀夫君の表情は、ネットに流れてくる癒される動物の動画を見たときのような気分で、今日の萌え は、今日の紀夫君(永山絢斗)萌え に変えたくなった。毎日、今日の紀夫君が書けますように。


 相手を見つめる表情がいい


紀夫君のさくらへの笑顔も良かったし、すみれが、悦子様(滝裕可里)の売り子訓練を見つめる表情もいい。
うんうん、と満足そうに小さく頷いている顔を見ると、安心感が沸く。
芳根京子は、オープニングで、雨があがったと手をかざしたところに蝶がとまるのを嬉しそうに見る表情も迫真で、見ているほうまで笑顔になってしまう。

「べっぴんさん」はなんだか、ドールハウスのなかの精密な人形や調度品の数々を大切に扱い、心から幸福な気分になっていた子供の頃を思い出させる。
言葉で笑わせるのではなく、相手を思いやる表情で笑顔を引き出す。そんなドラマだ。

本来、ふたりの俳優のアップを交互に見せるという物理的な手法であるカットバックが、見つめ合う人の気持ちををつなげるものとして機能していることが気持ち良い。

良子と龍一のことは心配だけれど・・・、この先にはきっと笑顔が待っている。
(木俣冬)