本日夜9時からスタートする日曜劇場『陸王』。原作は同枠の大ヒット作『半沢直樹』や『下町ロケット』などを生み出した池井戸潤のベストセラー小説。
これまで池井戸作品のドラマ化を手がけてきたスタッフが再集結し、鉄壁の布陣で送る秋ドラマの四番バッターだ。
池井戸潤ドラマ「陸王」今夜スタート。試写会場はすすり泣きの嵐、なんでこんなに泣けるのか
原作小説/集英社

ヒロインは阿川佐和子!? 個性的なキャスト陣



足袋の町・埼玉県行田市にある創業100年の足袋の老舗「こはぜ屋」社長・宮沢紘一が、周囲の人々と協力しながら新規事業としてランニングシューズ「陸王」開発に悪戦苦闘するという物語。キャッチフレーズは「感動の企業再生ストーリー」だ。

主演の宮沢紘一役は、連続テレビドラマ出演は15年ぶりとなる役所広司。業績が先細りになる中、資金繰りに苦悩する地方零細企業の四代目社長を演じる。異様なオーラも放たず、しょぼくれすぎでもない、本当に等身大の演技が見事。

主要キャストは、宮沢に反抗的な態度を取り続ける長男の大地役に山崎賢人、ダイワ食品の陸上競技部員・茂木裕人役に竹内涼真、宮沢の長女・茜役に上白石萌音、こはぜ屋を支援する埼玉中央銀行の融資担当・坂本太郎役に風間俊介、こはぜ屋の縫製課リーダー・正岡あけみ役に阿川佐和子、世界的なシューズメーカー・アトランティス社の営業担当・佐山淳司役に小籔千豊、アトランティス社の日本支社営業部長・小原賢治役にピエール瀧、「陸王」開発の鍵を握る男・飯山晴之役に寺尾聰という布陣。

ほかに、カリスマシューフィッター・村野役に市川右團次、宮沢を応援するランニングインストラクター・有村役に光石研、こはぜ屋の経理担当・富島役に志賀廣太郎、宮沢の妻・美枝子役に檀ふみ、埼玉中央銀行の支店長・家長役に桂雀々、茂木のチームメイト・平瀬役に「オールスター感謝祭」で快走を見せた和田正人、茂木のライバル・毛塚役に佐野岳がキャスティングされている。

おなじみの歌舞伎枠、落語枠も駆使した個性的かつ行き届いたキャスティングだが、見事なまでに女っ気がない。実質、ヒロインは演技初経験(!)の阿川佐和子だ。第1話では思いのほか出番が多く、見せ場も用意されている。ちなみに阿川は池井戸のゴルフ仲間なんだとか。

注目は、こはぜ屋の係長・安田役の内村遥。
宮沢の片腕を務めており、とにかくずっと画面に映っている。いわば『下町ロケット』の安田顕的なポジションだ。第1話で憎まれ役を務める埼玉中央銀行の大橋役・馬場徹も要チェック。

『陸王』は弱者目線の庶民を力づけるドラマ


筆者は一足先に試写会で第1話を観たのだが(舞台挨拶レポ)、これがすごかった。クライマックスからエンディングにかけて、会場はすすり泣きの嵐! 200名の女性客だけでなく、すれっからしだらけの記者席でもあちこちで涙を拭く姿が見られて驚いた。その後、記者会見に登場した竹内涼真の目にも光るものが見えたような気がする。かくいう筆者も目頭が熱くなっていたのだが……。誰かが死ぬわけでもなければ、難病になるわけでも、辛い別れをするわけでもないのに、なんでこんなに泣けるんだろう……? まだ第1話なのに!

「企業再生ストーリー」なんて言われると、トヨタをモデルにした『LEADERS』や『ガイアの夜明け』的な、ちょっと大仰なストーリーをイメージしてしまいがちだし、企業の第一線で働いていない人にしてみれば「関係ないや」と思ってしまいそうになるが、『陸王』はそうではない。役所広司はこんなコメントをしている。

「池井戸潤先生の小説は本当に弱者に対する目線が優しいんですよ。そうして応援されることによって、我々庶民はすごく元気が出るような気がしますね」

八津弘幸の脚本はこの「弱者に対する目線」をさらにブーストし、福澤克雄の演出はそれをどっしりと真正面から描き出す。もちろん、役所をはじめ、キャスト陣もいい仕事をしている。
いつものように画面いっぱいの太陽も出るぞ。

老人だらけの吹けば飛ぶような地方企業が奮闘努力し、巨大なグローバル企業に挑戦する。零細企業版『がんばれベアーズ』のようなストーリーとでも言えそうだが、当然ながら一筋縄ではいかない。そのためには何が必要なのか。何を変えなければいけないのか。何を守らなければいけないのか。これはどこにでもある話だし、あなたの話でもあり、私の話でもある。

誰もが自分ごとのように思えるから、涙も出るし、元気も出る。それがドラマ本来の役割なんじゃないかとも思う。初回は2時間スペシャル、ハンカチを用意してテレビの前で待とう。
(大山くまお)
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