マーベルで最も脳筋な雷様、ソーとは
「ソー」というのは北欧神話の雷神を元にした、マーベル・コミックスに登場するスーパーヒーローである。元ネタの通り神様で、主神オーディンを父に持つ神々の世界アズガルドの王子。
という設定ではあるのだが、マーベルによる一連のスーパーヒーロー映画「マーベル・シネマティック・ユニバース」(以下MCU)では脳筋のバカ枠という扱いが作品を追うごとに強まっている。最初の『マイティ・ソー』の時点で「普通のペットショップに馬を買いにいく」「異常なほど酒を飲む」など神様ギャグが盛られており、さながらニューメキシコの『聖☆おにいさん』といった感があったソー。昨年の『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』ではとうとうお留守番となり、その間はオーストラリアのサラリーマンであるダリルの家に勝手に押しかけて暇を潰したりしていた。演じるクリス・ヘムズワースのムキムキな体と能天気なイケメンぶりも相まって、MCU作品随一の体育会系キャラとなっている。
そんなソーが、今回の『バトルロイヤル』では今までで最も過酷かつギャグまみれの戦いに身を投じることになる。
ギャグだらけで描く「神々の黄昏」
『バトルロイヤル』の冒頭、いきなり鎖でぐるぐる巻きにされ、牢屋にぶち込まれているソー。そのままの状態でソーは「やあみんな。なんでこんなことになってるか気になるよね? 実は……」と観客に向かってナレーションを始める。斬新である。独白とかではなく、ここまではっきり観客に向かって話しかけたスーパーヒーローがいただろうか。
冒頭でいきなりド派手に戦闘をこなし、スルト(全身がボーボー燃えてる巨人)の冠を強奪してアズガルドに戻ってくるソー。彼は『エイジ・オブ・ウルトロン』の戦い以降独自に宇宙を飛び回り、インフィニティ・ストーンのことを調べまわっていた。その中でスルトがアズガルドの破壊を狙っていることを知り、軽くやっつけてきたのである。
久しぶりに実家に戻ってきたソー。しかし、そこには主神オーディンになりすましたロキが! 「お前オーディンをどこへやったんじゃ!」と迫るソーに対し、「地球の老人ホームだよ」と平然と答えるロキ。
なんだか正気を疑われそうなあらすじだが、事実である。ニューヨークを守るために集まったアベンジャーズだが、思えば遠くに来たものだ。
特に映画の前半はこのギャグの連打を繰り返しつつあれよあれよという間にソーが囚人になってしまうので、「えっこれ……大変なことになってない……?」と展開を反芻する暇がない。ソーやロキを使った悪ふざけみたいな映像にゲラゲラ笑っている間に、気が付いたら神々の黄昏を描いたとんでもない叙事詩になっている……というスピード感が、『バトルロイヤル』の持ち味だ。
80年代的ギラギラ感漂う絵面に泣け!
『バトルロイヤル』の音楽を担当しているのが70年代後半から80年代にかけて一斉を風靡したバンド、DEVOのマーク・マザーズボーである。90年代以降映画などのサントラの仕事も多いマザーズボーだが、エンドロールの最初の部分にかかる「Planet Sakaar」などのスコアではDEVO全盛期を思わせるポップな楽曲を本作に提供している。
このマザーズボーの起用に象徴されるように、『バトルロイヤル』の特徴のひとつが80年代的などぎつくてギラギラした絵面と世界観の再現である。そもそもアメコミは全ページフルカラーなのが基本で(無論例外はある)、80年代前後のアメコミはそのカラーリングの加減がポップ方向に振り切れた時期であった。特に80年代に『マイティ・ソー』のアート部分を担当したウォルト・サイモンソンのギラギラ感は『バトルロイヤル』にも大きな影響を与えている。
神話の世界とSF的な未来都市がシームレスにつながり、北欧神話の神様が宇宙船に乗って光線銃を撃ちながら暴れまわる……という荒唐無稽な世界観を、獄彩色のポップさでまとめ上げた『バトルロイヤル』には、まさに80年代のギトギトしたコミックブックのかっこよさがある。しかも動いて喋って音も出るのである。これが楽しくなかったら何が楽しいというのか!! ポップでキッチュで破滅的に楽しい、MCU映画の枠をまたひとつ広げるような快作である。
【作品データ】
「マイティ・ソー ラグナロク」公式サイト
監督 タイカ・ワイティティ
出演 クリス・ヘムズワース マーク・ラファロ トム・ヒドルストン ケイト・ブランシェット ほか
11月3日より全国ロードショー
STORY
アベンジャーズの一員である雷神ソーは、チームから離れ独自にインフィニティストーンを追っていた。しかしそこに死の女神ヘラが復活、神々の世界アズガルドへの攻撃を始める。故郷を奪われ辺境の惑星サカールへ飛ばされたソーは、格闘大会のチャンピオンとして君臨するハルクと相見える
(しげる)