ポルノ小説解禁はDVDへの対抗策!?
ところで、北朝鮮の闇ルートでは、これまでポルノ小説は出回っていなかったのだろうか?
「金正日をはじめとした高官、あるいは一部のビジネスマンたちは、日本など海外から輸入したエロ本やAVを楽しんでいます。一方で、地下出版物のたぐいを除けば、庶民の手にポルノが渡るようなことはなかった。
北朝鮮では、海外のポルノDVDやエロ本は「異色的録画物」「異色的出版物」と呼ばれる。資本主義国家の自由すぎる「異色的録画物」などが国内に広まっては、「国外ではこんなに自由なのか」と人民の不満が鬱積する。そこで北朝鮮は、自前のポルノ小説を公式に出版することにしたというのが鈴木氏の見解だ。
「『黄真伊』が北朝鮮で出版され、金正日が60歳の還暦を迎えたのが02年。父・金日成は94年に死去し、金正日体制になってから、恋愛小説や歌のたぐいは少しずつ出始めた。さらにポルノ小説を解禁すれば、人気取りにもなるし不満のガス抜きにもなる。
鈴木氏によれば、北朝鮮において、小説には非常に重要な意味合いがあるという。
「北朝鮮の作家は、小説を自由に書くことができないんですよ。彼らは超豪華なコンドミニアム(集合住宅)でVIP待遇を受け、恵まれた環境で小説を書いている。ただし、作家が書いた小説は全部細かく検閲され、最終的に金正日がゴーサインを出さなければ出版されません。ポルノ小説が公式に出されることについても、金正日が自ら決裁していることは間違いないでしょう」
さらに、この作品は前述の通り、韓国にも影響を与えた。
「韓国の盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権は、北朝鮮に親和的でした。ですから02年に発表された『黄真伊』についても、スンナリ南で受け入れられたばかりか、映像化もされた。
ちなみに鈴木氏は、北朝鮮の超高級クラブに出かけたことがあるのだとか。平壌のはずれまで車で走り、ある政府関係者に連れられて行った先は「書斎閣」と呼ばれる建物だったそうだ。
「そこには、ピンクのチマ・チョゴリを着た若い女性が大勢いました。マッサージがあるとかそれ以上のサービスがあるとかいうことはないけれども、チマ・チョゴリ姿の美人と、歌ったり踊ったりできる。
そうした浮き世離れした高級料亭が平壌にあるのは、北朝鮮のポルノ小説に描かれているキーセン文化の名残ではないかと鈴木氏は見る。
「そういう場所は、政府幹部やVIPの遊び場でして、政治家なりビジネスマンなり、それなりのポストにある人が出入りしているのでしょうね。ただし、北朝鮮が社会主義国家であることを忘れてはならない。北朝鮮は昔から、女性も工作活動に使ってきました。平壌を訪れた外国人がお酒を飲んでボーっと油断していると、思わぬ落とし穴にハマってしまうかもしれませんよ(笑)」
北朝鮮でのポルノ小説解禁は、決して自由への一歩ではないのだ。
(荒井香織/「サイゾー」5月号より)
[おまけ]これが北朝鮮初のポルノ小説のクライマックス部分だ!
「真伊は敬徳の手を自らの胸の中に押し入れた。
鈴木琢磨(すずき・たくま)
1959年生まれ。大阪外国語大学朝鮮語学科卒業。毎日新聞編集委員として、北朝鮮関連の鋭い分析記事を執筆。著書『テポドンを抱いた金正日』(文春新書)、『金正日と高英姫』(イースト・プレス)など。
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