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喫煙をめぐり教授と論戦それで仕事はクビに

──ただ、マスコミの自主規制のせいもあってか、小谷野さんに同調する声はあまり聞こえてきませんね。

小 喫煙者には個人主義者が多いですからね。

しかし実際は、良識ある文系知識人で、禁煙ファシズムを容認している人なんかあまりいない。養老孟司さんも雑誌の対談で禁煙運動を批判して(「文藝春秋」07年10月号)、日本禁煙学会から猛抗議を受けましたよね。結局、頭のよくない暇人や潔癖性の女性たちが「この世の中をキレイにしよう」とヒステリックに騒いでいるだけ。結果、働き盛りの40~50代の喫煙者たちが追いつめられてしまっているんです。

──首都圏のJRのホームはとうとう全面禁煙になってしまいましたね。

小 会社でつらいことがあって、帰りに「あ~、まいったなぁ」とプラットホームで一服して、「ま、明日も頑張るか」と安らぎを取り戻す。

そういう場所を禁煙にするんだから、JR東日本のやっていることはほとんど自殺幇助ですよ(笑)。駅のホームで一服できないことによって、電車に飛び込んじゃう人もいるかもしれないじゃないですか。

──教育現場における喫煙者の締め付けも、厳しくなっているようですね。

小 私は昨年、非常勤講師を務めていた東京大学駒場キャンパス内で、下井守教授と歩行禁煙の是非をめぐって口論をしました。結局それが原因で、私は非常勤講師を雇い止めになってしまった。その理由は、構内で喫煙したことよりも、どうやら事の顛末をブログに書いたことがまずかったらしい。

向こうは規則を守れと言っているわけでしょう。つまり、この件は私の不名誉であって、向こうの不名誉にはならないはずなのに、なぜか「書かれたらまずい」となる。要するに、向こうにもどこか後ろめたいところがあるんでしょうね。

──養老孟司氏は、「禁煙ファシズムは、何かを隠蔽するためのスケープゴートに違いない」と指摘しています。

小 同感ですね。具体的には、自動車の排気ガス、携帯電話の電磁波など、
資本制の根幹を支え、なおかつ体に悪影響を与えそうなものから目をそらすために、タバコがやり玉に挙げられているように思います。

あとは、「死への恐怖」。人間は必ず死ぬという事実から目をそらすために、「あの人はタバコを吸い過ぎたから早死にした」といったように、原因をどこかに求めたいという人間心理が、禁煙ファシズムを加速させているんです。

──このまま加速すると、日本から愛煙家がいなくなってしまいそうですね。

小 いや、アメリカの禁酒法は13年で終わったし、日本には売春防止法があるけど売春はちっともなくならない。それと同じで、タバコもなくならないでしょう。体に悪いかもしれないけどやめられない、ってものが人間にはあるんですよ。

嫌煙運動家は、きれいごとだけでは生きていけない人間という生き物に対する洞察に欠けている。そんな連中の煽動に安易に乗ってしまう企業や大衆にも問題がありますね。

 そういえば最近、禁煙ソープランドというものがあるみたいですけど、ソープでノースキンで遊ぶことのほうが、受動喫煙より怖いんじゃないですか? というか、それってそもそも違法じゃないですか? と突っ込まずにはいられませんよ(笑)。
(構成=岡林 敬太/サイゾー6月号より

●小谷野 敦(こやの・とん)
1962年、茨城県生まれ。東大英文科卒、同大学院比較文学比較文化専攻博士課程修了。学術博士。

大阪大学助教授、国際日本文化研究センター客員助教授などを経て、今年4月より、大人のための人文系教養塾「猫猫塾」を開校。著書に『美人作家は二度死ぬ』(論創社)など多数。



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