【追及】虚偽答弁、深夜のメール、揉み消された条例…“パワハラ...の画像はこちら >>



8月14日午後。横浜市会総務委員会の議場は、張り詰めた緊張感と重苦しい疲労感に包まれていた。

前日に引き続いて行われた、山中竹春市長のパワハラ問題に関する集中審査の2日目である。



「市長は先ほどから『第三者調査の結果を受け入れる』『事実として認める』とおっしゃっています。では、これまで議会で『出入り禁止(出禁)などしていない』『銃撃ポーズなどしていない』と答弁してきたことは、事実と異なる『虚偽答弁』だったと認めるのですね?」



傍聴席を埋め尽くした市民や報道陣が見つめる中、鋭い視線を演壇に向け、こう追及したのが無所属の井上さくら市議だ。



長年、党派に属さず行政の監視を続けてきた井上さくら市議への単独インタビューと、2日間にわたる総務委員会の記録から、横浜市役所の密室で起きていたこと、ガバナンス崩壊の実相に切り込む。





■山中市政で市庁舎はブラックボックス化した



【追及】虚偽答弁、深夜のメール、揉み消された条例…“パワハラ認定”横浜市長がガバナンスを崩壊させた





「パワハラは間違いなくやっていると思っていましたが、調査報告書を読んだとき思った以上にひどかった。人事部長という要職にあった人が、実名と顔を出して異例の記者会見を開かざるを得なかった背景には、これほど深刻で広範な被害があったのかと驚きました」



 総務委員会の直前、単独取材に応じた井上市議はそう語り始めた。



 井上市議によれば、林文子前市長から山中市長へと交代した2021年以降、市役所内の空気は一変したという。



「ちょうど市役所が現在の新市庁舎に移転した時期と重なりますが、庁舎内が物理的にも心理的にも非常に閉鎖的になりました。林市長の時代は、職員と市長の間で自由闊達な議論が行われ、政策の決定プロセスがある程度見えていました。しかし山中市政になってからは、何をどう議論して決定したのかが外から全く見えなくなったのです」



 その閉塞感を加速させたのが、市長による人事権を背景にした「恐怖支配」だった。



 通常、地方自治体の幹部人事は業務の継続性や引き継ぎを考慮し、2~3年スパンで行われる。ところが山中市政下では、就任わずか1年足らずで局長や部長が突如として更迭されたり、ある部署の部長と課長が同時に姿を消すといった「不自然な人事」が頻発した。



「市長の意に沿わない意見を言った幹部が、突如として市長室への出入りを禁じられる(出禁)。そして次の人事異動で飛ばされる。そうした恐怖が庁内に蔓延し、幹部職員は完全に萎縮していきました」



 元人事部長・久保田淳氏の告発は、氷山の一角に過ぎなかった。市長の機嫌を損ねれば左遷され、キャリアを断たれる。そうした恐怖政治のもと、職員たちは「いかに市長に怒られないか」「いかに市長の意向を忖度するか」だけに汲々とするようになっていった。





■議会と市民を欺いた「組織的虚偽答弁」に怒り



 恐怖政治の実態が暴かれたのが、8月14日の総務委員会における「大使の写真展」をめぐる質疑だった。



 発端は、皇族である高松宮久子妃殿下が関係される国際的な写真展に、山中市長が出席を見合わせた問題である。市当局はこれまで議会に対し、「庁内の公務の都合により出席を見送った」と一貫して説明してきた。



 しかし、井上市議らの追及によって明らかになった事実は、まったく異なるものだった。



 実際には、主催者である写真展の実行委員会事務局から「市長の一連のパワハラ報道を踏まえ、出席をご辞退いただきたい」との打診があったのだ。事実上の「出禁通告」である。



 ところが事務局側から「実行委員会側辞退を求めた事実を公表しないでほしい」と要請された副市長や国際局の幹部らは、市長の体面を守るため、事前に想定問答を作成。

「公務の都合により欠席した」という虚偽の理由を組織的に捏造し、本会議で堂々と嘘の答弁を行っていたのである。



 松浦副市長はこの日の質疑で「事務局への配慮と公務のスケジュールを総合的に勘案した、ギリギリの答弁だった」と釈明した。これに対し、井上市議は語気を強めて断じた。



「事務局から断られたのに『公務の都合』と言い換えるのは、世間一般では明らかな『嘘』です。一言挟めば嘘をついていいというものではありません。副市長をはじめとする幹部が、市長を守るために組織的に虚偽答弁を企て、議会と市民を欺いた。これこそが、ガバナンスが完全に崩壊している決定的な証拠です」



 市長室から締め出されていたのは、市役所の職員だけではなかった。同日、井上市議に続いて質疑に立った国民民主党・小粥(こがゆ)康弘市議の追及によって、議会に対する露骨な「会派差別」の実態が暴露された。



「毎年、我々は政策・予算要望書を提出していますが、他の会派は市長室に入り、市長に直接手渡して(市長室の象徴である)金の壁の前で記念写真を撮っていますよね。しかし我が会派はどうですか? 市長に一度も手渡せたことがない。市長室の手前にある副市長室の前の部屋で、副市長に渡すことしか許されてこなかった」



 議会軽視とも取れるこの告白に対し、山中市長は「私は受けますと言ったが、副市長が(自分たちで)いいと報告を受けました」と釈明した。自らの判断ではなく、副市長の独断であったかのように答弁したのだ。



 しかし、地方公務員は「一部の奉仕者ではなく、全体の奉仕者」であり、特定の政党や会派を恣意的に差別することは許されない。もし市長の言い分が事実であるならば、副市長の行為は地方公務員法第30条(服務の根本基準)に抵触する違法行為になりかねない。逆に市長自身の意向に忖度したならば、議会制民主主義を揺るがす最高責任者の背信行為にほかならない。いずれにせよ、トップが市政の公平性を根底から歪めていた証左と言える。





■「深夜23時台のメール」と「消えたコンプライアンス条例」



 井上市議の追及は、労働環境の違法性と、政策決定プロセスの闇へとさらに深く切り込んでいった。



 総務委員会に提出された資料から、山中市長が前人事部長らに対し、深夜23時台に及ぶ私用メールやメッセージを日常的に送信していた事実が判明した。



 地方公務員であっても、管理職が深夜に実質的な業務指示を受ければ労働基準法上の深夜割増賃金(特別勤務手当)の対象となる。しかし市側は「本人の申告がないため支給していない」と回答。井上市議は「労基法違反の状態を放置しているのではないか」と厳しく指摘した。



 さらに深刻なのは、行政手続きの「公文書の不存在」である。



 2024年末から2025年1月にかけて、総務局内部では「職員の不正防止やコンプライアンスに関する新たな条例改正」の準備が進められていた。12月24日には市長説明、1月7日には4人の副市長への説明まで行われ、議案提出の直前まで漕ぎ着けていた。



 ところが、元人事部長による告発報道の直後、この条例案は忽然と「立ち消え」になった。



 井上市議が「なぜ議案提出を見送ったのか、その決定の記録(公文書)を出してほしい」と求めたところ、担当室長は「見送りの決定に関する記録や議事録は特に存在しない」と平然と答弁したのである。



 数ヶ月にわたり多くの職員が汗を流して作成し、市長・副市長説明まで通った重要条例が、何の公的記録も残されないまま、密室の鶴の一声で葬り去られる。



「重要な政策決定の記録すら残さない。都合の悪いことは闇に葬る。今の横浜市役所は、近代的な法治組織としての体をなしていません」



 今の横浜市役所において、文書管理や政策決定のプロセスがいかに不透明であり、市民の代表である市議にすらブラックボックス化されたまま物事が進められていたかが白日の下に晒された瞬間だった。





■温かくておいしい給食は一体どこへ



 事前取材において、井上市議は山中市長の政治手法そのものに潜む「欺瞞」についても警鐘を鳴らしていた。



 その最たる例が、1期目の選挙公約の目玉だった「中学校給食」である。山中市長は選挙戦で「温かくておいしい全員給食の実現」を大々的にアピールして当選した。しかし、実際に導入されたのは、林前市政時代から「冷たくて美味しくない」と悪評の高かった業者弁当(ハマ弁・デリバリー方式)を全生徒に強制するものだった。



「温かい自校調理方式やセンター方式を期待していた保護者や生徒たちは完全に裏切られました。議会で異物混入や食べ残しの多さを何度追及しても、市長はまともに答えようとしない。

給食を子どもたちのためではなく、単なる選挙の票集めの道具として利用し、平気で公約を偽る姿勢は許しがたいものがあります」



 さらに、関内駅前の一等地に位置する「旧市庁舎街区の格安売却問題」も尾を引いている。



 選挙期間中、山中市長は市民に対し「売却計画を見直す」と明言していた。ところが当選後、わずか1ヶ月余りで形ばかりの検討を行っただけで、林前市長が敷いた路線通りの売却契約を強行した。



「旧市庁舎の建物内にあった歴史的な調度品や美術品などの文化財は、すべて『0円査定』で民間事業者に譲渡されました。現在、その跡地に進出した高級ホテル事業者は、その文化的価値を最大の売りにして商業利用しています。市民の貴重な財産がタダ同然で売り払われたことに対し、現在も多くの市民と一緒に私自身も原告として住民訴訟を続けています」



 耳触りの良い言葉で大衆を惹きつけ、権力を握った瞬間に約束を反故にする。その場しのぎのポピュリズムと、密室での権力行使――山中市政を貫くこの体質が、市役所内部ではパワハラとして、対外的には政策の歪みとして噴出していた。





■思い出す中田宏市長の悪夢…「辞め逃げ」を許すな!



 総務委員会において、日本維新の会が「不信任決議案の速やかな提出」を表明し、最大会派の自民党も「市長への辞職要求」を決定した。議会の空気は完全に「山中包囲網」へと傾いている。



 しかし、井上市議が最も強く主張し、警戒しているのは、「真相をうやむやにしたままの早期辞職(辞め逃げ)」や「出直し選挙による再登板」という最悪のシナリオである。



 井上市議は、かつて横浜市政を揺るがした「Y150(開国博Y150)の大赤字問題」を引き合いに出す。



「2009年、当時の中田宏市長はY150の巨額赤字を残したまま、任期途中で突如辞任して逃げてしまいました。

辞職した後に議会が参考人招致を求めましたが、法的強制力がないため中田氏は議場に出てこず、大赤字の真相は闇に葬られ、莫大なツケだけが市民に残されたのです。あの『辞め逃げ』の轍を二度と踏んではなりません」



 第三者調査はあくまで任意の聞き取りであり、証拠のない事項や周辺幹部の関与までは解明できていない。



 もし、十分な真相解明を経ずに不信任決議や辞任だけで終わらせてしまえば、山中市長は兵庫県のように「古い議会や職員の抵抗勢力と戦った改革者」という虚構のストーリーを掲げて出直し市長選に出馬してくる可能性がある。



「地方自治法第100条に基づく『百条調査委員会』を設置すれば、虚偽の証言に禁錮刑などの罰則が科され、関係者の出頭や文書の提出を強制できます。山中市長個人の言動だけでなく、なぜ市役所の組織全体が暴走を止められなかったのか、その全容を解明して市民に白日の下に晒さなければ、本当の再発防止にはなりません」





■市民の信託を裏切り続けたトップの末路



 8月14日の質疑の最後、山中市長は苦渋に満ちた表情でこう懇願した。



「私自身、1人の人間として生まれ変わり、市役所組織と市民の皆様からの信頼回復に努めてまいります。私にどうか、今一度お時間を与えていただけないでしょうか」



 しかし、その場にいた議員からも、中継を見守っていた市民からも、同情の声は上がらなかった。



「横浜市役所は、市長の再教育の場ではない」



 自民党・横山議員のこの一言が、すべてを物語っている。



 圧倒的な人事権を盾に職員を恐怖で縛り、意に沿わない者を排除し、組織ぐるみで議会に嘘をつかせ、自らの保身のために制度論へと逃げ込む。



 山中竹春市長が問われているのは、技術的なハラスメント研修の受講歴ではない。公権力を預かる最高責任者としての「資質」と「誠実さ」そのものである。



 370万人の市民生活を預かる日本最大の政令指定都市・横浜。 いま求められているのは、曖昧な幕引きではなく、徹底した真相究明と、歪められた行政の正常化である。



取材・文:篁五郎

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