フジテレビの『アウト×デラックス』やTBSの『サンデー・ジャポン』に出演し、「少年院出身」「親の育児放棄」など自身の壮絶な過去を明かし話題になった異色のアイドル、戦慄かなの(せんりつ・かなの)。彼女にはアイドル活動をする1つ下の妹がいることをご存知だろうか。
戦慄が「世界一可愛い妹」と太鼓判を押す、確かにすごく可愛い、頓知気さきな(とんちき・さきな)。同じ家庭で育ちながらも、姉とはまったく違う個性に成長した彼女に聞く“壮絶な過去”のアナザーストーリー。

──改めて自己紹介からお願いします。

頓知気 はい、頓知気さきなと申します。実の姉・戦慄かなのと2人で「femme fatale」(ファム・ファタール)というアイドルユニットを組んでいます。femme fataleでは、お姉ちゃんが作詞・作曲・振付などを担当。
私は衣装制作を担当。おそらくお姉ちゃんのことだけは知っているという人も多いと思うんですけど、姉は過去に少し悪さをしたことがあるんです。それで「少年院出身アイドル」として、テレビやネットで話題になったりしています。

──頓知気さん自身は、どういう経緯でアイドルになったんですか?

頓知気 もともと私、アイドルよりはアニメが好きだったんです。だけどお姉ちゃんの影響で、だんだんアイドルも好きになりまして。なにしろお姉ちゃんは家でもずっとアイドルばかり観ていたから、嫌でも影響されちゃいますよ。
ただアイドルはずっと見るものであって、自分がやるとは想像もしていなかったです。根本的に人前に立つのが苦手なんですよ。今でも毎回ガチガチに緊張しちゃうくらいですし。femme fataleも強引にお姉ちゃんに誘われて始めた感じです。

──アイドルはどのへんが好きだったんですか?

頓知気 最初は小学校のときに見たAKB48で、すぐに48グループ全般が好きになりました。そのあとはハロプロがメインになっていきましたね。
モーニング娘。、℃-ute、アンジュルム……。最近だとBEYOOOOONDSも最高だなって思います。でも、やっぱり一番の推しはJuice=Juiceの(金澤)朋子かな。

──実際に自分もアイドル活動を始めてみて、いかがですか?

頓知気 現状、ライブに来てくれるのはお姉ちゃん目当ての方ばかりなんですよ。
私は知名度も人気もないですし。おそらく8割以上はお姉ちゃんのファンじゃないかな。だから自分がアイドルになったという実感がいまいち湧かなくて。それよりは、お姉ちゃん目当てのファンの方を自分も眺めているという感覚なんです。

──圧倒的知名度を誇る戦慄さんと、駆け出しで無名の自分。その格差については、どう捉えているんですか? 「ラッキー」? それとも「悔しい」?

頓知気 「姉は姉、自分は自分」というのが基本的な考え方としてあるんです。
家族だからといって、無理して比べる必要もないと思いますし。お姉ちゃんが人気だから肩身が狭いとか、そういうことは感じないですね。……ただ、焦りみたいなものは若干あるかもしれない。

──焦り?

頓知気 お姉ちゃんはfemme fataleというユニットを世に出したいって真剣に考えているんです。姉のファンがいて、妹のファンもいて、その相乗効果があるからこそ2人で活動する意味があるわけじゃないですか。現状だと集客的に私がお姉ちゃんに寄りかかりっきりだから、「もっとあなたも新規のファンを獲得しなさい!」というプレッシャーがすごくて(苦笑)。


──無言のプレッシャーが(笑)。

頓知気 いや、はっきりと口で言われています(笑)。「もっとSNS更新、頑張りなよ」とか。だけど結構そこは悪循環でもあって、姉のSNSチェックが本当に厳しいから私の更新が滞るっていう面もあるんですね。私、昔はSNSとかすごく更新するほうだったんです。その調子で「〇〇を食べました」「××に行きました」みたいに、いかにもTwitterっぽいことをツイートしていたんですけど。そうしたら、「こういうのマジ要らないから」ってダメ出しされちゃって。

──戦慄さんのアイドル頭は尋常じゃなく切れますからね。

頓知気 そうなんですよ。「これ、ファンのニーズを汲んでないから。わけわからないツイートしないで」とか言われちゃう(苦笑)。そういうことを言われるたびに、私もアワワワワ……ってなっちゃうんですよね。実は今もツイートするとき、お姉ちゃんに文章と写真を見せて添削してもらうんです。「こうしたほうが面白い」とか勝手に変えられて、ようやくアップされるんですけど。

──それも愛情だと思いますよ。姉としては、少しでも妹をアピールしたいはずですし。

頓知気 それは間違いないです。かなり必死で売り込んでくれていますから。以前、私がテレビやネットの番組に出演させてもらったのも姉の全面(?前面?)プッシュがあったからですし。「2019年に流行るもの」というお題でお姉ちゃんが番組に出たときなんて、「今年は私の妹が流行ります!」って私をスタジオに連れてきたんです。さすがに展開が強引すぎるんじゃないかと思いましたけど……愛は感じますね。プレッシャーも同時に感じますけど(笑)。

──母親からの虐待など、戦慄さんが告白したヘビーな生い立ちが話題になりました。年子である頓知気さんも同じ環境で育ったわけですよね。なぜ妹はグレずに違う方向へと進んだのでしょうか?

頓知気 もともと人間のタイプが真逆なんですよ。姉はネガティブ、妹はポジティブ。私は楽観的で何も深いことを考えないような子だったし、姉は感傷的で繊細なところがあるんです。だからこそ、姉と同じ状況下にあっても私には悲壮感がまるでなかったんですね。物事の受け取り方が全然違うんだと思う。姉は「なんでうちにはお母さんがいないんだろう……」ってふさぎ込んじゃうけど、私は「そっか。今日はいないのか。いつ戻ってくるのかな~」ってニコニコ笑っている感じ。私、そのへんはものすごく鈍感なんですよ。

──とはいえ、過酷な環境だったことには変わりないのでは?

頓知気 両親はお姉ちゃんが小学校に入ったときに離婚しましたし、その前もケンカばかりしていたから、お世辞にも幸せな家庭だったとは言えないかもけど……でも、どうなんだろうな。当時は、それが当たり前だと思っていましたから。小さい頃って、他の家と比較なんてあまりしないじゃないですか。

──頓知気さんの場合、その前向きな受け止め方がプラスに作用したんでしょうね。

頓知気 そうだと思うんですよ。親の離婚をきっかけにお母さん、お姉ちゃん、私の3人で大阪から上京したんですけど、東京での生活にもすぐ馴染みましたし。

──美人姉妹ということで、学校でも「姉派? 妹派?」みたいに騒がれたことは?

頓知気 一応そんなふうに言われたこともありますけど、実際はお姉ちゃんのほうが全然モテましたよ。お姉ちゃん、私が男の人に言い寄られるとむちゃくちゃ嫉妬するんです(笑)。だけど私、知っているんですよね。「俺は妹派!」とか言って私のところに来る人も、本音はお姉ちゃん目的だったことを。私はダシに使われただけというか(苦笑)。

──ガーリーな世界観を持っていますけど、もともと「可愛い女の子が好きな女の子」という感じだったんですか?

頓知気 そうですね。最初はアニメからだったんです。最初は幼稚園の頃のプリキュアとかだったと思うんですけど、その頃はまだ健全な見方で……。

──まだ健全な? ということは、のちに健全ではなくなる?

頓知気 百合ってジャンルはわかります? 女性の同性愛のことで、女の子×女の子の世界なんですけど。私はその百合にハマっちゃって、片っ端から読み漁っていたんですね。その頃、お姉ちゃんはAKB48にハマっていたけど、当時の私からしたら「それ、しょせんは3次元でしょ? アニメのほうがいいのにな」って(笑)。まぁそこからは徐々に洗脳されていくわけですけど。

──学校生活はどんな生徒でしたか?

頓知気 地味だった気がします。友達もあまりいなかったですし。とにかくアニメとかアイドルが好きで、コスプレイヤーさんを追っかけにコミケへ行くような感じでしたから。なるべく学校ではそういう面を出さないようにしていたけど、しょせん陰キャは陰キャというか(笑)。学校は結構イケイケのギャルや髪の毛を立てているような男子が多い感じだったので、オタクで美術部という時点で陰キャ扱いは免れないですよね。

──でも、それだけの容姿を持っていたら周りが放っておかないのでは? 同年代の男には興味がなかった?

頓知気 私、男とか女とかジェンダーで分けること自体、あまり好きじゃないくらいなんです。そもそも「男らしい」とか「女らしい」って、なんなんですかね? 「男だから女を好きになって当然」っていう考え方も私はどうかと思いますし。

──ディープだけど非常に興味深い話です。

頓知気 アイドルに対しても似たようなものがあって、たとえば女の子が乃木坂46に憧れるような感覚とは違うんですよね。もっと男の目線で女性アイドルを見つめているというか。男として女性アイドルを見ているわけだから、「自分もアイドルになりたい」とは当然思いませんよね。

──なるほど。頓知気さんはかなり本格的な油絵を描いていますけど、美術への関心も小さい頃から?

頓知気 絵を描くのは幼稚園の頃から大好きでした。周りから褒められることも多かったから、お母さんも「あなたは美大に進みなさい」みたいに言うことが多かったです。だから当然のように中高と美術部だったし、自分としてもそっちの道に進むんだろうなと思っていたんですけどね。私は油絵が専攻だったから、専門の予備校に週6ペースで通い、そこで絵を描きまくっていましたし。だけど、ちょっと親族の間で問題が起こりまして……。

──何があったんですか?

頓知気 これは他の親族も巻き込んだ話になるので、ちょっとここでは言えないです。だけど、高校生だった私にとってはめちゃくちゃショックな出来事だったんですよ。それまでは呑気にのほほんと暮らしていたのに、急に自分の人生とかを見つめ直すようになって……。今まで見えていなかったものが一気に見え始めた感覚。自分の育った環境とか、お姉ちゃんとお母さんの関係とか。私が美大を諦めた理由というのも、この親族の件が一番大きいです。お姉ちゃんは、お母さんからのプレッシャーに押し潰されたと考えているみたいですけど。まぁたしかにプレッシャーは尋常じゃなかったんですけどね。「美大に行かないと、お前は用なしだ」くらいに言われていたので。

──精神的に凹んで、受験どころじゃなくなった?

頓知気 結局、絵を描くって自分の内側を出す行為ですからね。自分の内面を直視できなくなったら、描くことなんてできないですよ。すぐ筆が止まってしまう。もう苦痛でしかなかったです。それで予備校にも行かなくなり、受験も諦めてしまったんですけど。まぁ大学に関してはなにも今のタイミングじゃなくても、何年か経ってから自分のお金で通うという選択もできますから。今も簡単なイラストくらいは描けるけど、本格的な絵画はちょっとまだ……いつか描けるようになれたらいいんですけどねぇ。

──お姉ちゃんが道を踏み外していた時期、妹サイドからはどう映っていたんですか?

頓知気 その頃はまだ中3でヘラヘラ笑いながら生きていた時期なので、特に深くは考えなかったですね。少年院に入ったときも「そういえば最近はあんまり帰ってこないな~」くらいに思っていたところ、お母さんから少年院に入ったことを聞かされた感じでしたし。そのときも「ふ~ん、帰ってこないんだ」くらいの感想で。正直、少年院がどういうものかあまりよくわかっていなかったです。ここでも「姉は姉、私は私」という考えだったから、自分的にはあまり関係なかったかな。多少は迷惑だって感じたかもしれないけど(笑)。

──この距離感が絶妙です(笑)。

頓知気 いや、だって捕まったことだって自業自得じゃないですか。お姉ちゃんが捕まった理由(※JK下着転売ビジネスを仕切っていた)に関しても、私、メディアの報道で知ったくらいなんですよ。たいして興味がなかったし、家の中で「少年院」という言葉を発するとお母さんが怒るんです。うちではNGワードなんですよね。

──いろんな媒体で「自立したい」とコメントしていますね。

頓知気 お姉ちゃんと私って本当にめちゃくちゃ仲がいいんです。だけど性格が合うか合わないかで言ったら、合わないと思うんですよね。

──ん? どういうことですか?

頓知気 たとえばシーンとしているリビングで、急に2人が同じタイミングで歌い出したりするんです。打ち合わせをしたわけでもないのに、同じ曲を同じフレーズから口ずさみ始めて。これは理屈じゃないんですよ。もう共鳴しているんです。会話のノリとかもまったく同じだし、誰に見せるわけでもないアドリブのコントを家で延々とやったりするし。それくらい普段から仲はいいんです。

──素晴らしい姉妹愛ですよ。

頓知気 だけど結局、ポジティブとネガティブじゃないですか。それに加えてお姉ちゃんは超せっかちだけど、私は超のろまだから、そこでもぶつかりますね。私の行動がいちいちノロノロ遅いということで、お姉ちゃんはイライラするらしいんです。それでお姉ちゃんが急かすと、それに対して私もイライラしちゃったり……。

──あぁ、性格が違うからこそですね。

頓知気 お姉ちゃんは私の保護者という気分でいるんですよね。世間一般でいう母親と一緒ですよ。で、なおかつ私の運営でもありマネージャーでもある。さらに今はお母さんから離れて2人で暮らしているから、世帯主でもある。仕事でも家庭でも、立場は常にお姉ちゃんが上。お姉ちゃんは性格がキツめだし、むちゃくちゃせっかちだし、頭が常にフル回転しているような人ですからね。常にその調子で上から言われると、苦しいなって思うこともありまよ。それで私が「うぅ……」ってなっていると、「なんでちゃんとやらないの!」ってまた責めてくるんです。

──理詰めで攻撃されそうです。

頓知気 そうなんですよ。口喧嘩は強いなんていうものじゃないです。言葉を挟む隙を一切与えないですから。だから途中からは私も話を聞かないようにしています(笑)。母と姉と私でいるとしますよね。女3人の中で、母が強い局面もあるんです。主に怒っているときがそうなんですけど。でも、そうじゃないときは基本的に姉が主導権を握っている感じ。私は強い2人に挟まれている立場です。

──はぁ……。緩衝材的な役回りになるんですかね。

頓知気 でもお母さんからは独立して、今はお姉ちゃんと2人で暮らせていますからね。お母さんからは仕送りとかももらっていないですし。だから残るはお姉ちゃんからの独立という話になるんだけど……これに関しては、道のりはまだ遠いかもしれない(笑)。

──でも、すごいじゃないですか! 2人暮らしをスタートしたのは、femme fataleの活動だけで生活できているということですよね。

頓知気 一応バイトも籍は置いているんですけど、アイドル活動が不定期なのでなかなか出ることができなくて……。でも事務所に所属しないで自分たちだけで運営しているので、なんとかやっていけている感じです。femme fataleの収益は一度お姉ちゃんに入って、私はお小遣い制なんですが、そもそも運営がお姉ちゃんだし、ブッキングしているのもお姉ちゃんだからそれも当然だと思うんです。家賃も光熱費もお姉ちゃんが全部出してくれていますし。でも、だから経済的にも私はお姉ちゃんに寄りかかっている状態なんです。

──となると、そういう金銭的な独立権を獲得する意味でもfemme fataleや頓知気さきながブレイクしないと困りますね。

頓知気 そうなんです。まぁでも、お金の面よりは精神的な面で独立したいかな。今は私がやる仕事も全部お姉ちゃんが決めているんですよ。私への仕事依頼も全部お姉ちゃんに届くシステムになっているし、それをやるかどうかを決めるのもお姉ちゃん。

──そうか。今回は戦慄さんのお眼鏡にかなって、無事ここに掲載されることになったんですね(笑)。

頓知気 だから私、たまに考えちゃうんです。「なんで大学行かなかったんだろうな?」って。さっきも言ったように当時の私は精神的にショックなことがあって、とりあえず休みたいと思っていたんですね。言ってみたらモラトリアム期間みたいなもので。ところが、お姉ちゃんときたら暇というものを一切許さないんです。1日でもオフがあったら、「ダンスレッスンに行け!」「ボイトレ通え!」って予定をがっつり詰め込んできるので。本当にハンパじゃないんですよ。「今日は〇〇と××」みたいなスケジュールをみっちり書かれて、「これをクリアすること!」って、ものすごい勢いでまくし立てるんです。1日ボーッとしているとか、お姉ちゃんの生き方からしたら絶対許されないことなので。

──自分にも厳しいタイプ?

頓知気 めっちゃ厳しい。ストイック。それで同じことを私にも強いてくるんです。私は1日どころかしばらくボーッとしていたいのに、生き急ぐようにして常に全力疾走させられていますから。いや~、本当に困ってます(笑)。もう今は工場のライン作業とかで頭を無にして働きたい気分。

──しかし話を伺っていると、「芸能界でのし上がってやるぜ!」といったガツガツした感じが皆無ですよね。

頓知気 そうかも。私、承認欲求とか向上心もそんな強くないですし。東京からも離れたいですね。東京って建物が四角いじゃないですか。それだけで目も気持ちも疲れちゃいますよ。地方であまり人と関わらず、のんびりと過ごしたいですね。

──戦慄さんはタワマンの最上階に住みたいタイプじゃないですか?

頓知気 絶対そうでしょうね。向上心の塊だから。もしくは成城あたりに一軒家を建てるという野望を持っているかも(笑)。

──femme fataleとして今後の目標は?

頓知気 ユニットを組んだのが去年の10月末だったんですよね。だから、まだ方向性を模索しているところもあるんです。でも、どちらかというと話題性重視でメディアに取り上げられるというより、ライブで集客できるユニットを目指したいですね。このへんの意見も、お姉ちゃんの受け売りなんですけど(笑)。……ただ真面目な話をすると、お姉ちゃんって実は歌もダンスもすごく上手なんですよ。そういうところに、もっと注目が集まればいいなとは思っています。
とんちき・さきな
2000年3月6日生まれ、大阪府出身。趣味は油絵、イラスト、編み物、刺しゅう。実の姉戦慄かなのと「femme fatale」を結成。姉が作詞、作曲、振付を妹が衣装を担当する完全セルフプロデュースアイドル。Twitter:@tonchiki_doll