レビュー
加速していく社会、過密になっていく情報のなかで、そのすべてを知り、すべてについて考えることなどできない。それでも、「日本は」「外国人は」「あの国は」となんとなく語り合ってしまう。
クイズ界の真ん中を通り抜け、東大で哲学を求めた著者は、この不思議をいったん脇において、「自分が体験している世界」だけを書くことにした。本書はそのエッセイ集である。ではなぜそれが「思考のストレッチ」なのか。自分の体験に潜り込むことで、「自分の思考の可動域を広げていく」こと。そして、それが読者へと明け渡されることで、「思考の主語のストレッチ」になることを意図したからだ。世界のことにいきなり思いを馳せるのは大変だが、個人から「私たち」への広がりであれば、「わかり合ったり、対立したり」をとおして、「共に生きる世界を捉えなおす」ことができるかもしれない。その可能性は、読者一人ひとりの手に委ねられた、というわけである。
著者の修めた哲学の素養をちりばめつつも、日常のちょっとした違和感、脳のくぼみへのなかば無意識的な引っかかりが、膝を打ちながら読めるほどにわかりやすく言語化されている。あのモヤモヤとした気持ちの正体はこれだったのかと思わずにはいられない。そのスッキリ感は、「思考によるストレッチ」とでもいえそうだ。
本書の要点
・この本は、「あいまいな仕方で、あいまいな世界に寄りかかって生きているその在り方」について、日々の経験をもとに考えたものである。
・遊びとゲームはそれぞれどんな体験であり、どう違っているのだろうか。いずれからも私たちは学び、見える世界を変化させていく。
・クイズプレイヤーは、たくさんの知識をもつからではなく、「クイズという空間を知り尽くしているから強い」。
・自分で文章を書くことがやめられないのは、「作り上げる過程で私たちのなかに起こる変化」が大切だからだ。
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