レビュー

本書は、思想家・武道家の内田樹と、教育者・哲学研究者の近内悠太の対談を収録した本である。思想や哲学の話題も出てくるが、難しい言葉はほとんど使われず、噛み砕いた説明や具体的な例が多く用いられるため、前提知識がなくとも気軽に読み進められるだろう。


本の序盤では、近内がインタビュアーのような立ち位置で内田の話を聞いていく形をとっているが、対談が進んでいくにつれて、次第に会話の相互作用がふくらんでいく。終盤では、近内が注目している「贈与」という概念について、様々な意見交換がなされる。全体を通貫する1つの大きな幹に沿って議論が進められるというよりも、その時々に出されたキーワードから、次の話題に変わり、気づけばまた元の話題に戻っているというように、テンポよく会話が進んでいく。ラジオやポッドキャストで2人のおしゃべりを聴いているような感覚になるだろう。
特に印象的なのは、内田の武道家としての経験や生き方から生み出される言葉と考え方だ。自分が釘付けになって動けない状態である「居着き」をなくし、「自在」に動けるようになること。我執を捨てて他者と「同期」することで「場を主宰する」こと。修行とは自分を強くするためではなく、我を捨てる境地に至るために行なうこと。このような考え方からは、現代社会で生きづらさを感じていたり、他者との関係に悩みを抱えていたりする人にとって、多くの気づきを得られるだろう。

本書の要点

・武道では、地面に貼りついて動けない「居着き」の状態を去り、「いるべきときに、いるべきところにいて、なすべきことをなす」という「自在」の状態が目指される。自由には「我」という主体があるが、自在とは我をなくして、場の理に従って生きることだ。
・他者と同期することには、心地よさと生命力が上がる感覚がある。

同期することで、我執を去り、自己の境界線がなくなるような感覚を得られるが、それによって自在に生きられるようになる。
・贈与は交換とは違い、遅れてやってきて遅れて届くという、時間的な現象だ。相手がすでにいなくなっていても、贈与を退蔵せずに「次の人」へと渡すことで、反対給付義務が果たされる。



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