「自分を冷静に保つために『ゼロでいよう』と心構える」と話す染谷将太(33)。はや芸歴25年を超え、第一線を走り続ける俳優が、なぜ“ゼロ”を意識するのか。


 公開になったばかりの最新主演作は、コンビニエンスストアを舞台に、繰り返されてきた日常が崩壊していくホラー映画『チルド』(7月17日よりTOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国公開)。染谷に、仕事への向き合い方の変化や、今後"踏み込んでみたい"役柄を聞いた。


 ──本作の主人公・堺は、岩崎裕介監督がモデルだと聞いて驚きました。


「監督から、堺は自分自身で、西村まさ彦さんが演じる父親・オーナーは、監督のお父様がモデルだと伺いました。ご実家がコンビニ経営をしていたそうで、毎日同じ繰り返しをする中で父親が虚無化していったともお話ししていました。そこからヒントを得た話でもあると思うんですが、人間らしさが削られ空っぽになっていく様がすごく恐ろしい。堺については、監督から受け取った『自分はゼロなんだ』という感覚を大事にしながら、キャラクターをどう成立させるかを意識していました」


 ──本作は第76回ベルリン国際映画祭で国際映画批評家連盟(FIPRESCI)賞を受賞しました。コンビニというある種、日本独特の文化が舞台になっている作品が、海外で評価されたことをどう受け止めましたか?


「海外の映画好きの方々は、絶対に好きだろうと予感していました。コンビニという日本独特の文化と、作中のコミュニケーションの取り方や、人の冷たさ、目の前で何かが起きていても見ない、という日本的な空気感を醸し出しています。日本を描こうとして撮ったわけではなくても、結果としてそういった表現にもなっていたのでは」



バブル崩壊後の世代に共通する温度感

 ──監督からもらった「自分はゼロなんだ」という感覚を染谷さんは理解できますか?


「最初に台本をいただいた時、この監督は信頼できる人だと感じたんです。堺の無情な感じ──、マイナスでもプラスでもない、ずっとゼロ地点にいるという感覚は、自分も理解できなくもなくて。監督と僕が生まれた、バブル崩壊後の92年生まれぐらいから00年代ぐらいまでの世代に感じる温度感な気がします。

決して冷たいわけではないけど、わかりやすい熱が見えづらい。自分もよく、何を考えているかわからないと言われるんですが、その分かりづらさの感覚に似ているのかなと」


 ──自分の内側にあるものを守ろうとして、あえてゼロでいる?


「堺からはそう感じましたし、その気持ちは分かります。自分を保つためにある種の虚無になるという。ただ、堺はずっとその状態にいる人間なので恐ろしいですし、こうはなりたくないです(笑)。また、世代的な感覚とはまた別に、自分の冷静さを保ちたい時に、緊張しないよう『ゼロでいよう』という心構えでいます」


 ──“ゼロ”でいることが、自分に合っていると感じたきっかけは?


「明確に意識するようになったのは、『空海-KU-KAI- 美しき王妃の謎』(2018)という日中合作の大作で主演を務めたあたりからです。単身で海外に行って、自分の言語ではない言葉を使う必要があった。スタッフも600人、700人といるなかで、これはもう虚無でいるしかないなと思ったんです。空海という役柄自体、心をゼロにするという真言密教の考え方があって、そんな歴史を勉強したりする中で、いろんな物事の捉え方や考え方も知りました。心をゼロにして穏やかに保つことが、お芝居の集中につながる。緊張する場面も、カメラの前で一度目をつぶって脳みそを寝かせるようにすると、リラックスできた。その時の経験が影響しています」



経験を積めば積むほど緊張する

 ──33歳にして、芸歴25年を超えました。仕事に対する変化は。


「僕の場合は年々、経験を積めば積むほど、知識が増えれば増えるほど緊張しています。10代20代の頃は、知らないことの強さみたいなものがありました。これだ!というパワーで乗り切るところもあって。今は物語を説明する役など、何かを任せてもらうことが昔より増えたこともあり、責任感に近い感覚が増しているのを感じます」


 ──今後踏み込んでみたいものを挙げるなら?


「自分の顔が一切出ない役を演じてみたいです。『Vフォー・ヴェンデッタ』(2006)という映画があるんですが、主人公の顔は1度も出ないにも関わらず、感情を演じきる姿が見事でした。究極に難しい役だと思うので、その経験で何を得られるのか興味があります」


 ──最後にメッセージをお願いします。


「ホラー映画という側面だけではなく、見る角度によって印象が異なる、ジャンルに捉われない作品でもあります。さまざまな面から楽しめる作品なので、劇場でぜひ見ていただけたら嬉しいです」


(聞き手・写真=望月ふみ)


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