アン・ハサウェイとジェシカ・チャステイン。ハリウッドの2大美女がスリラー作品で共演すると聞き、どんなストーリーなのかと興味津々で見学。

劇中に人間の「狂気」が満ちていた。ベルギーのアカデミー賞と言われるマグリット賞で史上最多の9部門を受賞した「母親たち」(2018年)の米国版リメーク作である。


 1960年代のアメリカ。郊外の住宅街に住む親友のセリーヌ(ハサウェイ)とアリス(チャステイン)はそれぞれが同い年のひとり息子を持ち、ゆとりのある主婦として幸せな生活を送っていた。だがある日、セリーヌの息子マックスが自宅のバルコニーから転落死してしまう。


 不幸な事故によって一変していく女2人の関係。息子を失ったセリーヌは親友のアリスにも心を閉ざしてしまう。打ちひしがれる夫の姿に、息子から目を離した罪悪感に苛まれるセリーヌ。一方でアリスもまたマックスを助けられなかったことに罪悪感を抱いていた。


 やがてセリーヌは喪失を埋め合わせるように、アリスの息子テオと距離を縮めていく。そうした中、アリスはセリーヌが自分に復讐しようとしているのではないかと疑念を抱くのだった……。



静かな情景に女性2人の感情が火花バチバチに染まる

 何でも打ち明けられる親友同士の2人の女。

ところが1人が不幸に見まわれるや、その精神的ショックが肥大化してもう1人に伝播する。かくして女2人が揃って錯乱し、対立していく。メガホンを取ったブノワ・ドゥローム監督が「物語は郊外のドラマから、まさにヒッチコック的なスリラーへと移行します」と語るように、映画はアルフレッド・ヒッチコック的手法で葛藤と恐怖をジワジワと描きあげている。


 アリスはマックスの転落を防ごうとしたが、それを果たせず自分を責める。さらにセリーヌの行動に悪意を見出だすことに。ある意味で息子を失ったセリーヌよりも不幸に染まっていくわけだ。そうした深刻な状況を夫たちは理解できない。


 ハサウェイとチャステインの演技が素晴らしい。静かな情景に女2人の感情が火花バチバチに染まり、狂気の泥沼に沈んでいく。


 本作を見ていると、人間は疑心暗鬼の生き物だと痛感してしまう。隣人と共存することの難しさ、登場人物の理性のもろさなどを目の当りにしながら、「ああ、人間はこうやって壊れていくのだな」とため息が出そうだ。


 そのカタストロフィーの先には意外な結末が待っているのだが、物語の流れから「実際にありえる」と妙に納得してしまう。

人はみな、ガラスの心で生きているのだ。見終わったとき「ローズマリーの赤ちゃん」(68年)と「赤ちゃんよ永遠に」(72年)を思い浮かべたのは筆者だけだろうか。(文=森田健司)


(配給=ギャガ/7月24日よりTOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開)


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