【2026年上半期 ネット炎上事件簿】#1


 非常識な行為や社会正義に反する言動に接したネットユーザーの怒り、世直しの正義感--炎上の主燃料は長年変わっていない。様変わりしたのは、発火点がネットニュースやSNSの切り抜き動画になったことだ。


 実際にその場面をリアルタイムで見聞きしていなくても、怒りや正義感に着火できるようになったわけだ。その結果、事件の概要把握から炎上現場の「お祭り」に加わり、非難のコメントをつけて騒ぎ立てるまでの一連が飛躍的に加速している。


 ひとつの典型例が、今年1月に高市早苗総理大臣が炎上したケースだろう。


 川崎市での衆院選の応援演説の途中、高市総理は外国為替資金特別会計の運用で利益が出ていることを「円安でホクホク」と発言。ほぼすべてのネットニュースが報道し、間髪を入れず発言の引用や動画の切り抜きがSNSへ投稿され、瞬く間に広まった。


 反応は激烈だった。「物価高で生活が苦しい中でホクホクとは」「円安で日々の生活での負担が増しているのに」「日本の土地が海外に買い漁られているのは円が弱いからだ」と怒りが渦巻いた。


 高市総理は自ら、すぐにSNSへ釈明を投稿。報道に誤解があるとし、為替変動に強い経済と国内投資の重要性を言ったもので、円安メリットの強調ではないと説明した。片山財務相ほか政府、与党も火消しに走った。


 発言の詳細を読むと、民主党政権時の超円高との対比で例示したことであり、為替について「総理が口にすべきことじゃない」とも言っている。円安容認との言質を取られまいと注意はしていたのだ。


 ただ、発言をきっかけに市場で円売りが加速して円安が進んでしまう。専門家やメディアからは「日米通貨当局が協調して円高へ巻き戻しつつあったのに台無しにした失言」と指摘された。


 さらに、大手金融機関がそれほど誤ってはいないと前置きしつつ、外為特会に関する発言内容は「意味を持たない」とし、円安の進行は引き続き懸念すべきことだとのリポートを公開。これに財界人、専門家が同調したことで、「経済音痴」「円安イコール企業の国内投資回帰ではない」と、高市総理の現状認識への批判へと延焼してしまった。


 街頭での演説会だから、一般の有権者を相手にわかりやすい言い方、耳に残るワンフレーズで話さなければならない。そう考えたのかもしれない。


 だが、食料品や身近な石油製品の値上げラッシュのただ中にいる国民にしてみれば、神経を逆なでされたと受け取るのも無理からぬこと。


 前後の脈絡を無視した切り取りと、切り取られた情報を感情の刺激へと最大限に増幅してしまうアテンション・エコノミー、その背後でうごめくSNSのアルゴリズムのエゲツなさ。その怖さを実感させられる炎上の典型であった。


(井上トシユキ/ITジャーナリスト)


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