私が初めて輸入車を購入したのはフォルクスワーゲン・ヴェントだった。まだヤナセが輸入車の登竜門として君臨していた時代、名古屋のヤナセに短パンとサンダル姿で入ったところ、ショールームスタッフに冷たく無視された経験がある。
同じ格好で訪れたフォルクスワーゲン名古屋大須店(トヨタカローラ名古屋運営)では、笑顔で迎えられた。敷居の高さを感じさせるヤナセと、親しみやすさを前面に出したフォルクスワーゲンの販売戦略の違いを肌で感じた瞬間だった。ヴェントは私にとって初めての輸入車であり、バッテリー上がりや後部ドアの不具合、パワーウィンドーやワイパーの故障など、数々のトラブルに悩まされた。結局10年ほどしか乗ることができなかったが、高速道路での安定性や力強いエンジン音は、国産車にはない魅力を教えてくれた。輸入車に対する憧れと現実を同時に体験した記憶は、今も鮮明に残っている。

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 そのフォルクスワーゲンが今、かつてない規模の危機に直面している。報道によれば、最大で10万人の人員削減とドイツ国内工場4拠点の閉鎖が検討されている。世界最大級の自動車メーカーが、存続のためにこれほど大規模なリストラを迫られるのは異例である。背景には複数の要因が絡み合っている。

 まず、2015年に発覚したディーゼル排ガス不正事件、いわゆる「ディーゼルゲート」が企業の信頼を根底から揺るがした。排ガス試験を欺くソフトを搭載し、世界で約1100万台が対象となったこの事件は、巨額の罰金と賠償をもたらしただけでなく、ブランドイメージを長期的に傷つけた。環境対応を重視する欧州市場での信用失墜は、今なお完全には回復していない。


 次に、中国市場での失敗がある。かつて中国はフォルクスワーゲンの最大の収益源であり、現地合弁会社を通じて圧倒的なシェアを誇っていた。しかし近年はBYDなど中国勢のEV攻勢に押され、販売台数は減少し、シェアも急速に低下している。価格競争に対応できず、現地消費者の嗜好変化にも乗り遅れたことが響いている。中国市場での苦戦は、世界戦略全体に深刻な影響を及ぼしている。

 さらに、フォルクスワーゲンは高コスト体質を抱えている。従業員数が多く、人件費や固定費の負担が重い。車種やオプションの多さも採算を圧迫している。電動化への投資が急務であるにもかかわらず、既存の構造が足かせとなり、競争力を削いでいる。こうした状況の中で、抜本的な人員削減と工場閉鎖が検討されるのは必然とも言える。

 しかし、最大10万人の削減は労働組合や州政府の強い反発を招くことは確実である。地域経済やサプライヤーへの影響も甚大で、実行には長期的な交渉と調整が不可避だ。
生産拠点の縮小は、雇用だけでなく地域社会の存続にも直結する。フォルクスワーゲンがこれを乗り越えるには、労使の合意形成と段階的な改革が不可欠である。

 フォルクスワーゲンは依然として世界的なブランド力と技術基盤を持つ。しかし、短期的なコスト削減だけでは生き残れない。中国戦略の再構築、EVやソフトウェア分野での競争力強化、そして消費者に訴求する製品魅力の回復が求められている。かつてヴェントに乗って感じた「輸入車の特別な体験」を再び提供できるかどうかが、ブランド存続の鍵となるだろう。

 今、フォルクスワーゲンは消滅の危機に直面している。だが危機は同時に変革の契機でもある。世界最大級の自動車メーカーがどのように再生への道を歩むのか、その行方は自動車産業全体の未来を占う試金石となる。
【編集:TY】
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