フィリピン・ミンダナオ島の最大都市ダバオ。その市街地から南西へ離れたトリル地区のムリグ(Mulig)において、同国の大手不動産開発会社8990ホールディングス(8990 Holdings)が手がける大規模な住宅開発プロジェクト「デカ・ホームズ・ムリグ(Deca Homes Mulig)」の建設現場が、現在も急ピッチで進められている。
現地で捉えた実際の施工現場の様子からは、フィリピンの急激な人口増加と都市近郊における住宅需要の膨張、そして低価格帯住宅(マスハウジング)特有の建設実態が鮮明に浮かび上がってくる。

その他の写真:2026年8月1日午後 ダバオ市内で撮影

 現場周辺に広がる赤土の造成地と、整然と並ぶコンクリート躯体のタウンハウス群は、開発のダイナミズムと同時に、ローコスト住宅が抱える施工上のリアリティを物語っている。本稿では、現地で撮影された一連の施工現場のビジュアルデータを基に、ダバオの郊外型マスハウジングの現在地を多角的に分析する。

 ■ 開発の最前線:奥地からゲートへと進む造成と建築のダイナミズム

 敷地内へ足を踏み入れると、現在進行形で進められている開発のダイナミックな仕組みが体感できる。このプロジェクトでは敷地の奥側から段階的に開発が進められており、メインゲートに近い区画ほど新しく、最新の施工段階を反映した物件が並ぶレイアウトとなっている。

 未成熟な赤土の造成地が広がる中間エリアでは、重機や少数の作業員が慌ただしく動き回り、インフラ整備と躯体構築が同時並行で行われている。外壁塗装やサッシの取り付けが完了した比較的新しい棟が整然と姿を現し、コミュニティとしての形が着実に整えられていく様子がうかがえる。こうした段階的な開発アプローチにより、デベロッパーはインフラの延伸と販売・引き渡しを効率的に回転させている。

 ■ プレキャストと現場施工の融合:コスト削減の構造美

 戸建てと2階建ての連棟式タウンハウス(ロウハウス)形式を採用している。フィリピンの低価格住宅で広く普及している工法であり、コストを極限まで抑えるための工夫が随所に見られる。

 躯体構造にはプレキャストコンクリートパネルや型枠ブロックが多用されており、外観はコンクリートの打ちっぱなし状態から、下地処理、そしてモルタル・塗装へと段階的に移行していく。撮影された未完成の棟と完成間近の棟を比較すると、施工のスピード感が際立つ。
外壁はベージュとブラウンを基調とした落ち着いたアースカラーで塗装され、屋根にはダークブラウンのガルバリウム鋼板系の屋根材が葺かれている。整然と区切られた開口部には、フィリピンの標準的なルーバー窓や簡素なサッシが取り付けられており、限られた予算内で標準化されたユニットを大量生産するデベロッパーの手法が如実に表れている。

 一方で、コンクリートの接合部や躯体の表面には、モルタルによる補修跡や不陸(凹凸)が散見される。現場では足場に立った職人たちがコテを使って手作業で外壁の仕上げや目地埋めを行っており、限られた人員と工期の中で効率的に作業を進めている姿が捉えられている。高級コンドミニアムのような緻密な仕上がりとは異なり、あくまで実用性と経済性を最優先したアプローチとなっている点が特徴的だ。

 ■ インフラ整備と重機による土木工事の並行

 住宅の建築だけでなく、インフラストラクチャーの構築が現在進行形で行われている点も、この現場の大きな特徴である。敷地内の道路脇では、小型の油圧ショベル(バックホー)が赤土を掘削し、排水設備の敷設や整地作業を進めている。

 また、別のカットでは、クレーン付きのトラック(カーゴクレーン)が大型のコンクリート製U字溝やマンホール、排水ボックスを吊り下げて所定の位置に据え付ける作業が行われている。ダバオ郊外の未開発地を切り拓いて大規模なコミュニティを形成するためには、上水道、下水道、そして雨期における排水対策が極めて重要となる。赤土が剥き出しとなった広大な敷地の中、インフラと住居の建設が同時並行で進められる様子は、急ピッチで進む開発現場の過酷さと躍動感を余すところなく物語っている。

 敷地内を走る舗装道路は着実に整備されているものの、周囲にはまだ手つかずの自然や豊かな緑が残るエリアも多く、都市インフラが郊外へと急速に拡大している過渡期特有の景観を呈している。電柱や架空配線なども整備途上にあり、コミュニティ全体がゼロから形作られていくダイナミックなプロセスを目の当たりにすることができる。


 ■ 「マイホームの夢」を支えるローコスト住宅の現実と価格

 デカ・ホームズをはじめとするマスハウジングは、フィリピンの中所得層や一般労働者層にとって「手の届くマイホーム」を実現する数少ない選択肢の一つである。気になるこのタウンハウスの現金購入価格(または市場での売買・引き継ぎ価格の目安)は、およそ 140万~150万ペソ前後(約400万円前後) と非常にアトラクティブな価格帯に設定されており、政府系の住宅ローン制度(Pag-IBIGなど)の利用とあわせて、多くの庶民層にマイホーム保有の門戸を開いている。

 しかし、その一方で、こうした現場から見える実態にはいくつかの重要な課題も潜む。第一に、施工品質のばらつきとそれに伴う将来的なメンテナンスコストの発生である。コストカットが徹底されている分、入居後には雨漏り対策や内装・水回りのリフォームが不可欠になるケースが多い。第二に、都心部からの物理的な距離とインフラのキャパシティである。(8枚の写真を掲載しています)
【編集:Eula】
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