世界の食品産業では、老舗企業にもデジタル化と海外展開が求められている。優れた商品や製造技術があっても、EC、顧客情報、海外営業、輸出実務の仕組みがなければ、新しい市場へは届きにくい。
伝統を理解する人と、異業種で営業やITを学んだ人が力を合わせる意味が大きくなっている。

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一方、老舗への転職や事業承継は、外部の方法をそのまま持ち込めば成立するものではない。長年の取引先や職人の判断、季節や原料に左右される製造を尊重し、何を残し、どこを変えるかを見極める必要がある。デジタル化も現場を置き換えるためではなく、既存の強みを守りながら市場へ届ける手段である。

その役割を担うため、2025年1月に小松水産株式会社(REIホールディングスグループ)の代表取締役社長へ就任したのが小松礼子氏だ。営業、システム開発、会社経営を経験し、「残りの人生を何に使うのか」と考える中で、自社商品を持つ事業へ移りたいと思っていた。そこで出会ったのが、1933年から続く小松水産のしらすだった。

実際に商品を口にし、味や歴史、農林水産大臣賞の受賞実績を知るほど、「これだけの価値があるのに、まだ届けられていない人が多い」という思いが強くなった。営業とITの経験を使えば、職人が磨いてきた価値を国内外へ広げられる。その実感が、水産業へ移る決断を具体的な目標へ変えた。

就任後に重視したのは、外部の方法論で現場を急いで塗り替えないことだった。加工技術と品質は長年現場を担う職人が守り、小松氏はEC、情報発信、海外営業、輸出の仕組みを整える。
伝統と変革を対立させず、それぞれの強みを分けて生かす経営である。

ITの経験は、サイト制作だけに使うものではない。受注や在庫、顧客情報、海外拠点との連絡、販促結果を整理し、職人が製造へ集中できる時間を増やす。営業経験は、商品の特徴を並べるのではなく、相手にとっての価値へ言い換える場面で生きる。現場の暗黙知を記録し、次の世代へ渡すこともデジタル化の役割となる。

事業基盤を整える一方、小松氏が取り組むのが、働く女性と子どもの食卓への支援だ。自身も仕事と子育ての両立に悩み、忙しい日に十分な食事を用意できないことへ負担を感じた経験がある。しらすは調理の手間が少なく、米や卵料理へ加えやすい。便利さだけでなく、忙しい日にも子どもへ出しやすい選択肢として届けたいと考えている。

その構想は具体的な取り組みへ移っている。UBUNTU保育園6園では保護者と職員向けに商品を販売し、森の保育園1園にも届けている。保育施設を単なる販路とせず、家庭へ手軽な食べ方を伝え、子どもがしらすに親しむ機会へつなげようとしている。


海外営業でも、異業種で培った実行力を生かす。相手国の経営者と輸入の体制を整え、関係者を集めて商品を動かす。水産業の専門知識を学びながら、自らが得意とする速度、営業、仕組みづくりで市場との接点を増やしている。

職人は目利きと加工技術を守り、小松氏は営業、IT、経営によって新しい市場をつくる。この役割分担が機能すれば、異業種人材が老舗の価値を薄めるのではなく、次の世代と市場へ運ぶ力になり得る。今後は海外売上、ECの顧客拡大、教育施設への提供実績などが、その成果を客観的に示す指標となるだろう。

異業種出身の経営者が成果を出すには、現場の判断を理解することが前提になる。小松氏も、職人が何を基準に原料を選び、どこで品質を見極めるのかを学びながら、記録できる部分と人に残すべき判断を分けようとしている。デジタル化は熟練を置き換えるものではなく、価値を見える形にし、次の世代へ渡すための補助線となる。

働く母親への支援も、個人的な経験を商品提案へ変えた取り組みである。以前の仕事で家庭とのバランスに悩んだからこそ、忙しい日でも無理なく使える食材として、調理法や保存方法まで伝えたいと考える。保育施設から家庭へ利用が広がり、継続して選ばれるかが、取り組みの社会的な価値を示すだろう。


取材を通じ、小松礼子氏の役割は伝統を変えることではなく、職人の価値を市場へ翻訳することにあると感じた。営業とITの経験が、老舗の技術と働く家庭の食卓をどのようにつないでいくのか。その成果が、老舗企業の新しい承継像を示すだろう。これからの展開に注目したい。

【取材/執筆:Y.U】
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