世界の製造現場では、自動化の速度が一段と上がっている。国際ロボット連盟の「World Robotics 2025」によると、2024年に世界で新たに導入された産業用ロボットは54万2000台に達し、10年前の2倍を超えた。
電動化や安全性能の高度化が進む自動車産業でも、量と品質を両立する設備投資が競争力を左右する。

完成車が注目を集める裏側では、数多くの部品メーカーが供給網を支えている。車体内部の補強材や骨格部品は、一般の利用者からほとんど見えない。しかし、形状や寸法にわずかな誤差があれば、次の溶接や組み立て工程へ影響が及ぶ。納期、品質、コストを同時に守る力こそ、部品メーカーへの信用となる。

見えない部分から完成車の品質を支える一社が、愛知県津島市の橘金属工業株式会社である。金属プレス加工を中心に自動車部品を製造し、現在の法人は2011年1月に設立、2016年には第三者継承を得て代表に就任し、そして2023年に債務超過を脱出し黒字化後、現在の社名へ変更した。池田昌起代表は、前身を含む事業の系譜を約60年と説明する。受け継いだ加工経験を、次の設備と商流へどうつなぐかが、再建後の成長テーマになっている。

約60年の経験を現在の品質へつないでいるのが、大型設備と人の判断を組み合わせた生産体制だ。公式サイトによると、500トン4台、300トン4台のタンデムプレスを保有し、小ロットから大型製品まで対応する。複雑な形状を連続工程でつくる一方、加工後の状態は人の目と手でも確かめる。
設備に任せ切らず、誤差や異常を見極める熟練者の感覚を品質保証へ残している。

取材時点では、取り扱う製品の約99%がトヨタ系の自動車部品だった。対象期間や定義、取引先名の公開可否は確認が必要だが、厳しい品質基準へ応え続けてきたことは、技術と供給責任を示す材料になる。同時に、特定分野への依存度が高いからこそ、生産効率を高め、扱える工程を広げる必要もあった。

次の投資を可能にした転機が、商流の見直しである。同社は長年、別会社を介して受注し、2019年頃から一部の直接取引を始めた。池田氏によると、2025年には主要商流を直接取引へ一本化。中間工程が減ったことで収益性が改善し、新しい仕事も任せてもらいやすくなったという。

そこで生まれた余力を、製造ラインへのロボット導入へ振り向けている。目的は人員を単純に減らすことではない。反復作業を自動化して設備の稼働時間を延ばし、社員には段取り、品質改善、保全、顧客対応など、判断を必要とする仕事を担ってもらう。生産量を増やすと同時に、人が発揮する価値も高める構想である。


自動化は、ロボットを置けば完了するものではない。材料のばらつき、金型ごとの癖、停止時の復旧、次工程の条件まで理解しなければ、かえって現場の負担が増える。どの工程を機械へ任せ、どこに人の判断を残すか。長年加工を担ってきた社員が、その設計へ関われることが同社の強みになる。

人とロボットの役割を整理した先には、工程そのものを広げる構想がある。池田氏は、金型を製作する会社や溶接機能を持つ会社のM&Aを視野に入れる。金型、プレス、溶接を一体で扱える範囲が広がれば、工程間の調整を減らし、試作から量産までの速度を高められる。取引先にとっても、複数企業へ分かれていた相談先をまとめられる利点が生まれる。

成長戦略と並行し、供給を止めないための備えも進めた。2025年5月には、中部経済産業局から事業継続力強化計画の認定を受けている。自然災害や事業リスクの影響を抑える計画を整えたことは、自動車部品を継続して届ける企業としての外部評価の一つとなる。

設備と供給体制を強くしても、次の世代を担う人がいなければ成長は続かない。
そこで池田氏は『令和の虎』やYouTubeなどへ出演し、経営者の顔と工場の仕事を伝え始めた。近隣の大手工場と賃金だけで競うのではなく、「誰と働くのか」「どのような会社を一緒につくるのか」を判断材料にしてもらうためだ。

直接取引、ロボット導入、工程の拡張、供給継続、人材発信。個別に見える取り組みは、熟練技術を守りながら次世代へ渡すという一つの方針でつながっている。収益基盤を整え、機械で生産力を高め、人にはより高度な役割を任せる。その循環が実現すれば、価格競争だけに頼らず成長する中小製造業のモデルとなり得る。

取材を通じ、同社が目指しているのは、昔ながらの工場を機械へ置き換えることではなく、現場に蓄積された判断を次世代の設備へ移すことだと感じた。ロボット導入と工程一体化の構想が、品質、雇用、収益をどう変えるのか。橘金属工業の次の歩みに注目したい。

その他の写真:19歳の従業員から社長となり会社再建を進めた池田昌起代表
【取材/執筆:Y.U】
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