障害がある人の「自立」と聞くと、福祉制度や家族の支えによって行われるものというイメージを持つ人も多いだろう。しかし実際には、介助を受けながら働くことの難しさや、住まい探しの壁など、制度だけでは解決できない課題も少なくない。


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 先天性の骨形成不全症を持つ渡辺みのりさん(仮名・37歳)も、その一人だ。現在は一人暮らしをしながら働いているが、そこにたどり着くまでには、現実的なハードルが多く存在したという。

車椅子で入れる不動産屋すら少ない。一人暮らしで直面した壁

「まず直面したのが、一人暮らし用の物件探しですね。そもそも、車椅子で入れる不動産会社が少ないんです。車椅子なら段差6cmまでは乗り越えることができますが、それ以上の段差がある不動産会社がほとんどで、まずはお店に入るところから困難な状況でした。そしてその先にある物件探しもかなり大変で……。段差のないエントランスがあるなど、車椅子が使える物件を探すのも一苦労で、それでもやっと理想の物件に出会えた! と思っても、今度は大家や管理会社から許可が出ないなんてこともたくさんありました」(以下、渡辺さん)

 介助者がいる状態で生活することを説明しても、もし家の中で車椅子のまま転んだら……と、物件の管理者側から渋い顔をされることが多く、結局、理解してくれる管理会社の人に出会えたことで、一人暮らしを始めることができたという。

 そこから実際に生活が始まってからは、自分の生活がどのようにして構築されているのか?を自分に問う日々だったそうだ。

「重度訪問介護という行政サービスを利用しているのですが、ヘルパーさんが自発的に障害者の世話をするというわけでなく、ヘルパーさんは出された指示に沿って動くというものになります。

そのため、自分自身がたとえばどれくらいの頻度で洗濯するのか? とか、掃除の仕方をどうしたいか? など、自分がどう生活したいのか? ということを理解していないと、適切な指示が出せません。健常者だったら、親の手伝いをする中で、自然と家事が身についたりすると思いますが、私はそういう機会もなかったので、家事ってどうやるの? 生活ってどうしたら成り立つの? という基本的な疑問を解消していくところからスタートしましたね」

 障害者の場合、家族の支えが”見えないインフラ”となっているケースも少なくないが、渡辺さんは、親の反対を押し切って一人暮らしを始めたということや、親が自らの障害のことを否定的に捉えていたことで、心の距離ができ、親には経済的にも精神的にもまったく頼れない状況だったという。


「働きたいのに働けない」就労中の介助をめぐる制度の壁

「一般企業のほうが働きやすかった」身体障害のある37歳女性が直面した、“働くこと”の難しさ
幼少期の渡辺さん
 そして、障害者の自立という点で、もっとも話題に上がるのが“就労の壁”だろう。渡辺さんは、身体障害者でありコミュニケーションも難なくとることができ、労働意欲も高かった。しかし、壁となったのは、自治体ごとに異なる支援制度であるという点だ。

「障害福祉サービスとしての重度訪問介護は、生活を支えるための制度であり、原則として通勤時や就労中は利用できません。そのため、パソコン操作など仕事そのものはできても、トイレ介助など、生活を送ることそのものの助けが必要な人にとっては、『働きたいのに働けない』という状況が生まれてしまいます。

自治体によっては、国の制度を活用して通勤時や就労中の介助を支援しているところもありますが、その実施状況は地域によって異なります。区役所の職員や事業所でも制度を知らないケースもありますし、今住んでいる自治体では利用できても、隣の自治体では利用できないこともあります」

「障害があっても働きたい」という思いがあっても、住む地域によって受けられる支援に差が生じることは、障害者の自立を考える上で大きな課題の一つとして挙げられる。

 現在、渡辺さんは旅行関連のコールセンターで働いているが、これまでにも一般企業のコールセンターや福祉事業所などで勤務してきた経験を持つ。最初に勤めた大手企業では、同僚が日常的にサポートしてくれていたが、体に直接触れる介助となると、「資格がないから責任が持てない」と躊躇される場面も少なくなかったという。

「たとえばこういった設備があると助かりますということを職場に伝えると、それは設備投資として導入してくれるということはありますし、物を取ってもらうといった配慮は受けやすいですが、身体に直接触れる介助となると、どうしても責任が負えないと、皆さん避けやすいんですよね」

福祉事業所のほうが働きづらかった。障害者雇用で感じたこと

 一方で、「障害者を支える側」である福祉事業所へ転職した際には、逆に合理的配慮を受けにくい現実も経験したという。

「同じ業界だからこそ自発的に理解してもらえると思っていたのですが、結果的には一般企業の方が働きやすかったです。相互理解に健常者も障害者もなくて、理解してもらうためにまずはお願いする側が積極的にコミュニケーションをとることを大切にしていかないといけないのだなと実感しました」

 この経験を通して、渡辺さんは「障害者が働くとは社会にとって本当に有益なのか?」という葛藤を抱えることにもなったようだ。
だが、自立とは人の手を一切借りないことではなく、最終的判断や責任を自分で負うことだと気づいたことで職場に復帰し、現在では、自身で電車に乗って通勤し、パソコンとヘッドセットを使って業務をこなしているそうだ。

 障害によって、必ず誰かの手は借りないといけない。だからこそ、お願いする側にとっても“心地よい成功体験”として昇華する努力が、障害者側にも必要だと渡辺さんは語る。

「健常者にも事情があって、悪意があって断っているわけではないことも多いと思うんです。例えば、SNSでは『障害者だからタクシーに乗車拒否された』といった投稿を目にすることもあります。私も経験があるので確かに悲しいけれど、でも拒否したい気持ちもわかるし、拒否することはその人に与えられた正当な権利でもあるので、否定はできません。

だからこそ、その分してもらった人に感謝できるような自分でいようと心がけていますし、手を貸してくれた人が『助けてよかった』と思える成功体験になるようにしたいんです。配慮してよという要求ばかりだと、相手も『面倒だな』と思ってしまうのは当然です。どうしたら相手にもメリットがあるかを考えながらお願いすることも大事だと思っています」

「配慮されて当然」ではない。渡辺さんが考える“自立”とは

「一般企業のほうが働きやすかった」身体障害のある37歳女性が直面した、“働くこと”の難しさ
渡辺みのりさん(仮名・37歳)
 もちろん、それは障害者だけが努力すべきという意味ではない。

「障害者は健常者に比べると選択肢が少ないという事情は、健常者にも知ってほしいとは思います。でも、『だから譲って当然』とは私は思いません。
なぜなら事情があって譲って欲しいなら、申し訳ないってスタンスがないと、まず手を貸してあげようって気持ちにはならないなと思うからです」

 誰もが、人生のどこかで誰かを支え、また誰かに支えられながら生きている。障害がある人は、その機会が少し多いだけなのだ。だからこそ大切なのは、「配慮してもらって当然」「助けるのが義務」という関係ではなく、お互いの事情を理解しながら支え合うこと。

 自分の人生に責任を持ち、自立した者同士だからこそ、「ありがとう」と「助かったよ」が自然に行き交う関係が生まれるのではないだろうか。

<取材・文/SALLiA>

【SALLiA】
歌手・音楽家・仏像オタクニスト・ライター。「イデア」でUSEN1位を獲得。初著『生きるのが苦しいなら』(キラジェンヌ株式)は紀伊國屋総合ランキング3位を獲得。日刊ゲンダイ、日刊SPA!などで執筆も行い、自身もタレントとして幅広く活動している
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