2026年4月から「私立高等学校授業料の実質無償化」が始まった。
これまでも授業料支援の制度はあったが、所得要件が設けられていたため、一定以上の所得がある世帯は対象外となる場合があった。
「私立高校授業料の実質無償化」の具体的な内容や、この変化による家計への影響について、自身も二児の父である1級ファイナンシャル・プランニング技能士の磯山裕樹さんに聞いた。
「教育格差」を改善するための所得制限撤廃
「私立高校授業料の実質無償化は、正確には『高等学校等就学支援金』という制度です。“高等学校等(外国人学校を除く)に在学し、日本国内に住所を有する”など、一定の要件を満たす生徒が対象になります」(磯山さん・以下同)
所得制限が撤廃された背景として、文部科学省は「家庭の経済状況にかかわらず、自らの希望に応じた教育を受けることのできる環境を整備し、高校生等が安心して教育を受けることができるよう、家庭の教育費負担の軽減を図ることが喫緊の課題」だったからだとしている。
「各都道府県でも独自の支援制度が導入されていたのですが、それによって地域格差ができてしまっていたのだと思います。例えば、A県の制度は県内の高校に通うA県在住の人しか使えないため、B県の人がA県の高校に通う際は適用されず、格差が生じるといったケースもあったでしょう。この状況を改善するため、国が所得制限撤廃に動いたのだと考えられます」
ただし、「無償化」といっても、必ずしも授業料のすべてが免除されるわけではない。以下のように、支援額には上限が設定されている。
●「高等学校等就学支援金」の支援上限年額(※学校種により異なる)
・国立高校(全日制等):11万5200円
・公立高校(全日制等):11万8800円
・私立高校(全日制等):45万7200円
・私立高校(通信制):33万7200円
「現在の授業料の平均額をもとに設定されているようです。国立、公立の授業料は全国一律なので、この上限に収まるといえますが、私立に関しては高校によって授業料が異なります。難関大学の付属校などでは、年間の授業料が70万~80万円になるところもあるので、45万7200円が支援されたとしても、20万~40万円は負担しなければなりません」
ここでポイントになるのが、各都道府県が導入している支援制度だ。一部の実施例を見てみよう。
・東京都「私立高等学校等授業料軽減助成金」:都内在住者を対象に、「高等学校等就学支援金」と合わせて最大年50万1000円まで助成。
・大阪府「授業料支援制度」:府内在住などの要件を満たす生徒を対象に、授業料負担を無償化。大阪府が指定する就学支援推進校が対象。
・岡山県「私立高等学校納付金減免補助金」:経済的理由により修学に困難をきたす県内在住の生徒について、その負担の軽減を図るため、納付金の減免を行う学校法人に補助する制度。
「基本的に国の制度と自治体の制度は併用できるので、住んでいる都道府県の制度を調べてみましょう。また、高校独自の制度として、成績優秀者向けの特待制度やスポーツ推薦による減免、兄弟姉妹が在籍している場合の減額などもあるので、入学前に確認してみるといいでしょう」
「高等学校等就学支援金」の利用には“申請”が必須
全世帯が「授業料無償化」の対象になるからといって、自動的に支援が受けられるわけではない。
「支援を受けるには、申請が必要です。2026年度においては、4月に申請の受付を開始し、5~6月にかけて認定通知を発出するスケジュールが示されています。ただし、授業料への充当や還付のタイミングは学校によって異なります。認定前であっても、就学支援金の支給見込額を授業料からあらかじめ差し引いて請求する学校がある一方で、授業料をいったん全額納め、認定後に還付する学校もあります」
入学手続き時や年度当初にどの程度の納付が必要になるか、還付がある場合はいつ頃になるのかといった点は、学校ごとの案内で確認しておこう。
「ただ、申請に関して『忘れてしまった』ということは、ほとんどないと考えています。多くの高校では入学説明会などで『高等学校等就学支援金』に関する説明が行われると思いますし、申請はオンラインで実施されるので、スマホさえあればすぐにできるでしょう。申請期限さえ守れば、問題ありません」
進路選択のポイントは「授業料」以外の支出
「授業料無償化」によって、高校の選び方が変わってくるといえそうだ。
「これまでは学費ありきで進路を考え、私立を選択肢から除いていた家庭も多かったと思います。
私立を目指す子が増えるとなると、公立を志望する子が減る可能性が出てくる。「子どもたちに選んでもらうため、いままで以上に特色を打ち出す公立も増え、学校ごとの色がより一層強くなるのではないか」と、磯山さんは話す。
「学校同士が切磋琢磨し、子どもにとってよりよい教育環境が整っていくのではないかと期待しています。だからこそ、子ども自身や親御さんは学校説明会などを訪問し、これまで以上に各校の特色を把握したうえで、本当に行きたい学校を選択していくことになるでしょう」
実は、ここで重要になるのが「学費」だという。無償化に伴って学費での選択ではなくなるはずだが、なぜ重視する必要があるのだろうか。
「『高等学校等就学支援金』は、あくまで『授業料』を助成するものです。しかし、高校に通うためには、授業料以外にも入学金や修学旅行費、学用品費、部活の活動費などが発生します。文部科学省が実施した『令和5年度子供の学習費調査結果』によると、公立での年間の学校教育費の平均が約35万円、私立だと約83万円という結果が出ています」
●公立・私立における学校教育費の内訳(出典/文部科学省「令和5年度子供の学習費調査結果」)
【公立高等学校(全日制)】
入学金等 1万8027円
授業料 4万5272円
修学旅行費等 3万6500円
学校納付金等 3万5630円
図書・学用品・実習材料費等 6万2284円
教科外活動費 4万9499円
通学関係費 9万7634円
その他 6677円
合計 35万1523円
【私立高等学校(全日制)】
入学金等 8万290円
授業料 27万9170円
修学旅行費等 6万2778円
学校納付金等 12万7346円
図書・学用品・実習材料費等 7万3312円
教科外活動費 6万3440円
通学関係費 13万6790円
その他 9524円
合計 83万2650円
授業料全額が支援されるとしても、公立で約30万円、私立で約55万円は自身で負担しなければならない。
「特に私立だと、部活に力を入れていて遠征が多かったり、修学旅行先が海外だったり、そもそも自宅から学校までが離れていて定期券代がかかったりするので、授業料以外の費用が大きくなりがちです。海外留学や研修旅行などに参加したり、大学受験のために塾に通ったりすると、さらに費用がかさむでしょう」
「授業料無償化だから私立に行こう」と安易に考えてしまうと、実際に進学してから「こんなにお金がかかるとは思っていなかった…」ということになりかねない。
「学校説明会や学校案内での情報収集に加えて、可能であれば、志望校に子どもを通わせている人の話を聞いてみてほしいですね。『学校の先生が放課後も勉強を教えてくれるから、塾は必要ないよ』『留学は任意とされているけど、ほとんど全員が参加するよ』といった具体的な話を聞くことで、実際にかかる費用を想像しやすくなり、学校選びの参考になります。
教育費は「小学校卒業」までに備えるのが理想
「高等学校等就学支援金」によって多少は負担が減るため、教育費の備え方も変わるかと思いきや、磯山さんによると「基本は変わらない」とのこと。
「制度上、私立高校(全日制等)の支援上限額は年45万7200円です。3年間で考えると、最大で約137万円の授業料負担が軽減されることになります。これは家計にとって大きな支援ですが、受験のために塾に通ったら年間100万円、短期留学に行けば50万円はかかるケースもあるので、授業料無償化によって負担が減るからといって、将来に向けて備えなくていいわけではありません」
一般的には「高校卒業のタイミングまでに、大学資金を備えれば問題ない」といわれるが、もっと早く動き出したほうがいいという。
「僕が理想としているのは、小学校卒業までに、その家庭で想定している教育費をある程度準備しておくことです。小学生のうちは、一般的に中学・高校・大学に比べると大きなお金がかかりにくい時期。早めに準備しておくことで、子どもが中学・高校に進んだ後も、心の余裕を持って進路と向き合いやすくなります。もちろん、想定外の費用が出てくることもあるでしょう。ただ、小学校卒業時点である程度の準備ができていれば、その後に必要額が増えたとしても、まだ教育費を貯める時間があります」
教育費の準備で大切なのは、“いくら貯めるべきか”を一律に考えることではなく、家庭ごとに備える範囲と金額を決めておくこと。
「私自身は、私立高校や私立大学、子どもが下宿した場合の仕送りなども想定して、1人あたり1000万円をひとつの目安にしています。ただし、これはあくまで我が家の考え方です。例えば、500万円を目標にして、『大学費用の一部は親が出すけれど、足りない分は奨学金も選択肢にしよう』と夫婦で話しておく方法もあります。
「私立高校授業料の無償化」は家計にとってプラスだが、教育費をトータルで捉えて備えていくことも大切。改めて、ライフプランを考えるタイミングといえるかもしれない。
(取材・文/有竹亮介)

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