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日に日に進化しているAIは、本当に時代を変えるのだろうか。さまざまな角度からAIに携わる人たちに話を伺う特集「AI交差点」。



今回取り上げるのは「SaaSの死」。AIエージェントの普及により、SaaS(インターネット上でソフトウェアを利用できるサービス)が崩壊するのではないか、と指摘されているのだ。

実際のところ、本当に「SaaSの死」は起こり得るのか。SaaSを開発しているソフトウェア企業は、今後どうなっていくのか。野村證券投資情報部シニア・ストラテジストの村山誠さんに聞いた。

「SaaSの存在意義」が大きく崩れる可能性は低い

AIエージェント普及によって「SaaSの死」は本当に起こるのか?


「SaaS型ソフトウェアを開発している企業に、ピンチが訪れているのは間違いないと思います。AIエージェントの登場によって、従来のビジネスモデルでは厳しくなってきているからです。現状、SaaS型ソフトウェアの多くは『1アカウント当たり○○円』という定額課金制の料金体系を採用しています。ソフトウェア開発に費用がかかるものの、完成してアカウント数が増えていけば『売上高=粗利』になるモデルなのですが、人に代わって作業を行うAIエージェントが出てくるとアカウント数が伸びず、売上が伸びにくくなると考えられます」(村山さん・以下同)

AIエージェントとは、AI自らが計画を立てて、情報収集・分析を行い、さまざまなツールを自動的に使い分ける自律型プログラムのこと。「ChatGPT」をはじめとする対話型AIサービスのように、人から与えられた情報をもとに生成や解析を行うものとは異なる。

AIエージェントを導入することで、これまで人が手間ひまかけて行っていた作業を代替できる。SaaS型ソフトウェアも、複数人がそれぞれの使うのではなく1つのAIエージェントだけが使うケースが増え、アカウント数が減少するというわけだ。

「SaaS型ソフトウェアに関して、いままでのビジネスモデルでの拡大は難しい可能性が出てきたので、新たなビジネスモデルの確立が必要だという認識が広まりました。

ただ、新しいビジネスモデルを確立するには相応な時価と開発コストがかかるため、『厳しいのではないか』という評価がされてしまい、2025年から2026年初頭にかけてソフトウェア銘柄の株価は下落しました」

「SaaSの死」は、すぐにでも起こることなのだろうか。その問いに対して、村山さんは「そう判断するのは早い」と話す。

AIエージェント普及によって「SaaSの死」は本当に起こるのか?


「ソフトウェア企業各社が2026年4月から6月にかけて公表した決算を見ると、業績予想が事前に出ていたアナリスト予想平均を上回るポジティブサプライズの企業が多かったのです。調査会社の業績集計などを見ても、業績予想が大きく下がっているわけではなく、引き続き増益基調ではあるので、従来のSaaS型ソフトウェアの事業もまだまだ継続されていくと考えられます。テレビを見ていても、SaaS型ソフトウェア企業のCMが変わらず流れていますし、まだSaaS型ソフトウェアを導入していない中小企業もあるので、伸びしろはあるといえます」

SaaS型ソフトウェアが使われなくなる、ということはないと予想される。

「勤怠管理や顧客との取引の記録などは、ビジネスを進めるうえで必ず発生するデータで、管理しなければいけないことに変わりありません。SaaS型ソフトウェアが果たしている役割は必要とされ続けるので、AIエージェントが普及したからといって、その存在意義が大きく崩れるということはないでしょう」

ソフトウェア企業の生き残り策は「料金体系」の変更

AIエージェント普及によって「SaaSの死」は本当に起こるのか?


すぐにSaaS型ソフトウェアの需要がなくなるということはなさそうだが、AIエージェントの導入によるアカウント数の減少は想定されるため、冒頭にあったように「従来のビジネスモデルでは厳しくなってきている」のは間違いないだろう。

「アカウント数は減る可能性が高いですが、AIエージェントがSaaS型ソフトウェアを用いるようになると、処理されるデータ量は増加すると考えられます。その変化に合わせて、処理したデータ量や件数に応じて料金が変化する従量制に変えることで、ソフトウェア企業も売上を伸ばすことができるでしょう」

実際に、定額課金制から従量制への移行を進めている企業が出てきているという。

「これは生成AIの例ですが、対話型生成AIでは定額課金制でサービスを提供してきたOpenAIやアンソロピックなどでも、使用したトークン数に応じて料金を課金するようになっています。企業におけるソフトウェアなどでは、急速な利用の拡大などにより、データセンターの負荷が大きくなってしまったからです。処理するデータ量は今後も拡大が続くと考えられることから、ソフトウェア企業でも従量制の料金体系に移行するところは出てくるでしょう」

AIエージェント普及によって「SaaSの死」は本当に起こるのか?


データ量をセーブしつつ、売上にもつながる従量制は企業にとってはプラスに働くが、ユーザー側からすると負担増加の可能性があり、デメリットと受け取られないだろうか。

「ただし、従量制の料金体系だと、『料金が青天井じゃないか』と、警戒されるかもしれませんよね。

そうならないため、企業側はあらかじめユーザー1人当たりの使用データ量を導き出し、それをもとにした料金を明示することで、ユーザー側も予算を立てやすくなります。想定していたデータ量をオーバーした際に、追加で料金を徴収するといった形式にすると、ユーザーも納得しやすいでしょう。携帯電話の料金体系のようなイメージですね」

「AIエージェント」「サイバーセキュリティ」の開発もカギ

AIエージェント普及によって「SaaSの死」は本当に起こるのか?


ソフトウェア企業が生き残っていくためには、料金体系を変化させるだけではなく、SaaS型ソフトウェア以外のシステムやプログラムの開発もカギになってくるとのこと。

「SaaS型ソフトウェアを使う立場になるAIエージェントを、ソフトウェア企業自身が開発・導入するという動きが出てきています。例えば、セールスフォースやサービスナウなどが事例として挙げられます。既に広く展開されているSaaS型ソフトウェアと親和性の高いAIエージェントとなると、ユーザー側としても導入のハードルが下がりますよね。ソフトウェア企業にとってはユーザーとのつながりを保ったまま、売上を伸ばすことができるというわけです」

今後は、サイバーセキュリティの重要性もますます高まっていくと予想される。AIエージェントがあれば、バイブコーディング(AIにプロンプトを与えてソフトを生成させる手法)でセキュリティソフトも自前で作成できるという話があったが、実際はそこまで簡単ではないため、ソフトウェア企業の腕の見せ所だという。

「サイバーセキュリティ企業は単にソフトウェアをつくっているだけではなく、世界中で起きているサイバー攻撃などの情報を収集し、リアルタイムでそこに対応するソフトウェアの開発や修正を行っています。つまり、AIにコーディングさせて、サクッとできるようなものではないというわけです。サイバーセキュリティは、AIエージェントが普及したとしても簡単には置き換えられない分野だと考えられるので、ソフトウェア企業がそこに取り組んで有用なソリューションを提供することができれば、大きなチャンスになるといえるでしょう」

「SaaSの死」といわれているいま、ソフトウェア企業にとってはピンチであるとともに、一歩抜きん出るチャンスと捉えられるかもしれない。今後のソフトウェア企業の動向に注目だ。



AIエージェント普及によって「SaaSの死」は本当に起こるのか?


(取材・文/有竹亮介 撮影/森カズシゲ)

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