朝はコーヒーで目を覚まし、起きているときは集中力を高めるドリンク。日中は“覚醒したい”と様々なアイテムに頼りたくなる半面、夜は“しっかり眠りたい”と寝付きを整えるアロマや快眠グッズを集める。
覚醒と快眠、どちらも欲しい…こうした"ケア商品"に頼り続ける生活が、今や当たり前のようになっている。飲料、サプリメント、さらにはリカバリーウェアやオーダー枕まで、睡眠関連商品は一気に広がり、"快眠のためなら投資を惜しまない"空気も。そうした過熱する市場のなかで、私たちは商品とどのような距離感を保つのがよいのか。小林製薬の睡眠対策サプリメント『ナイトミン 眠る力』ブランドマネージャーの左座乙女さんに、安眠市場の拡大とメーカーとしての向き合い方を聞いた。

■「コロナ禍と乳酸菌飲料ブームが"睡眠の質"への関心を一気に高めた」

 睡眠市場が広がったきっかけは、「コロナ禍の影響が大きい」。ただし、市場の盛り上がりの「起爆剤」は“乳酸菌飲料”のブームだったという

「私たちの生活スタイルが変わり、リモートワークが増えたり、デジタルの普及がさらに進んだりすることで、睡眠への関心が深まりました。ストレスから、眠りが浅くなった、寝起きの熟眠感が悪くなったという報告も多く、睡眠のトラブルが複雑化していったんです」(小林製薬の睡眠対策サプリメント『ナイトミン 眠る力』ブランドマネージャーの左座○○さん、以下同)

 同時期に、乳酸菌飲料で"睡眠の質"がテーマになった商品が登場した。「睡眠の質って、こういう工夫で良くなるんだ」と、意外なアプローチから一気に意識が広がっていったんです」。

 この10年ほどで大きく変わった業界の環境も背景にある。2015年4月に「機能性表示食品制度」がスタートし、企業の責任において、科学的根拠をもとに「機能性」を表示できるようになった。行政側からも「この睡眠とストレスにまつわる課題をどうにかしなければ」と動きが盛んになり、メーカー側もその機運に乗って、続々と新製品を投入し始めたというわけだ。

■“眠れない”から“ストレスが睡眠の邪魔する”へ 「生活者の悩みが深くなった」

 市場の規模が拡大し、生活者のニーズそのものも変わってきた。


 かつては、睡眠に関する商品といえば「眠れない」「寝不足」といった悩みが中心だった。だが、ここ数年、訴求が多様化している。「睡眠の質」「翌朝の疲労感」「ストレス起因の不調」……こうした、より細かい悩みにアプローチする商品が増えている。

「以前は、時間で解決しようというアプローチが中心でした。ですが、今は日中のメンタル状況、ストレスが複雑に絡み合う中で、単なる肉体的な疲労だけでは解決できない。生活者の方々が『睡眠不足の要因ってなんだろう。そこを解決したい』という意識に変わっていったんです」

 デジタルストレス、人間関係のストレス、経済的な不安。いま、生活者が睡眠の問題と向き合うとき、その根底には「何が自分の睡眠を邪魔しているのか?」という問いが生まれている。それは“眠れない”という単純な悩みではなく、より“根拠が求められる悩み”への移り変わりを示している。実際、同社の調査でも、睡眠トラブルの原因としてストレスがトップで上がってくるという。生活者と市場のニーズが、両軸で変わってきているのだ。

■若年層にこそ広がる睡眠への関心「ストレス社会そのものの深刻さを物語っている」

 生活者のニーズが変化したことは、購買層の世代にも表れている。
『ナイトミン 眠る力』はもともと、40代以上が加齢に伴って経験する「中途覚醒」の症状にターゲットが絞られていた。

「ここ数年は状況が変わってきています。お客様の声を聞いていると、商品を必要とする年代が下がってきているんです。30代の方が、すでに睡眠への困難を抱えている。20代も快眠アイテムを求める傾向にある。その要因はやはり『日中のストレス』です」

 かつては40代以上の"加齢由来"の問題だった中途覚醒が、今は若い世代にまで広がっている。

「20代、30代の若年層も、ストレスが原因で眠りが浅いと実感しています。ストレスにまつわることを寝る直前まで引きずって考え込んでしまうなど、よく経験している方もいらっしゃるはずです。世代の拡大は、ストレス社会そのものの深刻さを物語っていると感じます」

 同社は「ストレスが原因で眠りが浅い」という生活者の声をキャッチし、26年4月に『ナイトミン 眠る力 ストレス対策サプリ』を順次発売した。“ストレス対策”にアプローチするもので、20~30代の若年層にも訴求したい考えだ。

「弊社のサプリメントを通して、睡眠の質の向上をサポートし、快適な日常を応援できるのではないかという考えから、開発を始めました。"何が睡眠を邪魔しているのか"という「原因」に寄り添う形で、それを一つずつシャープにクリアにしていくイメージで開発をしています。


 ストレス社会という大きなお悩みと、睡眠への関心の高まりという二つのお悩みに、一粒でアプローチできるのが、今回の製品の付加価値です」

■睡眠アイテムへの適切な距離感とは? メーカーの姿勢が問われるとき

 だが、ここで一つの問いが浮かぶ。過熱する安眠市場のなかで、私たちはどのような距離感で睡眠アイテムを取り入れていくべきなのか。なんでも同時に取り入れすぎて、結局何のアイテムが効いているのか分からない…という状況も“あるある”ではないか。

「睡眠ってとても抽象的で、大きな問題です。むやみに『これもやらなきゃ、あれもやらなきゃ』と増やすのが本当にベストかというと、そうではないのかもしれません。選択肢を増やすことも大切ですが、生活者が「自分の睡眠で何を一番解決したいのか」を自分の中で決めることが大事だと感じています」

 左座さんのこの発言は、市場の過熱に対する慎重さを示唆している。メーカーとしての基本姿勢は「困った時のサポートとして、適切なタイミングで取り入れてほしい」という。

「あくまで食生活と適度な運動がベースになると思っています。完璧にできない方もいるので、困った時のサブとしてサプリメントを使ってほしい。適切なタイミングで、適切に取り入れてもらうというのが大事です」

 寝ても覚めても"ケア商品"に頼る時代だからこそ、メーカー側からは、生活者に「何が本当に必要なのか」を問い直すメッセージが求められている。同社が見据える「適切な距離感」とは、実はそこにあるのかもしれない。
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