放送中のアニメ『黄泉のツガイ』の主人公・ユル役を務める小野賢章と、『鋼の錬金術師』のエド役を務めた朴璐美による、“荒川弘作品”のW主役対談が実現。かつて読者として作品に没頭していた小野が明かす役への葛藤や、朴が「人生の相棒」と語るエドへの深い愛、そして伝説のトラウマシーンの衝撃から、作者を「神」であり「宇宙そのもの」と称する独自の倫理観まで、時を超えて共鳴する“荒川ワールド”の真髄を語ってもらった。(取材・文:遠藤政樹)

■小野賢章、『鋼の錬金術師』読者から主役へ 「自分が出るイメージなかった」

――小野さんは今回、満を持しての荒川作品への出演となりましたが、決まった際の率直な胸の内をお聞かせください。

【小野】 正直なところ、自分が出るイメージがなかったというのが本音です。

【朴】 荒川先生の作品は読んでいたの?

【小野】 兄が『鋼の錬金術師』を全巻そろえていて、僕も読んでいました。大人になってから読んだら「こういう作品に出られるチャンスがあるかも」とか「出たいな」と思いますけど、当時は自分が出るかもという感覚で読むはずもなく、ただ夢中になって読んでいました。そんな先生の原作のアニメ化作品に自分が出るとは思いもしなかったのでうれしかったです。

【朴】 その気持ちはとても共感できる。私は『銀河鉄道999』が大好きで没頭していたので、もし自分がメーテルや鉄郎がいる世界に出演する未来なんてまったく想像すらできないと思うもの。

――『鋼の錬金術師』で特に印象に残っているシーンを聞かせてください。

【小野】 原作で印象的だったのは一巻の冒頭です。「何が始まったの?」「これ一巻で合っている?」と確認したくなるくらいインパクトがありました。また『鋼の錬金術師』ファンの皆さんも挙げると思いますが、ニーナのシーンもそう。マンガだと自分の中でキメラになった後の喋りがどういう声かイメージできませんでしたが、アニメでの声を聞いたときには、もう……。あのシーンは忘れられないですね。

【朴】 そのシーンをやった本人としてはおとなりで聴こえるニーナ役の方の声がリアルで。「お兄ちゃん」って加工が入る前のかわいい声で言われたときの、胸をわしづかみにされる感覚は耐えられなかった。あのニーナのシーンで『鋼の錬金術師』という作品のテイスト、それだけの重みを背負った作品というのを決定付けたと思います。荒川先生はとんでもない作品を生み出したよね。

――小野さんが当時、お気に入りだったキャラクターは?

【小野】 アームストロング少佐ですね。ビジュアルもいいし強い。現実に出てきたら相当なインパクトじゃないですか。あんなに愛されるキャラクターになるってすごいなと思います。

【朴】 アニメでは声が内海(賢二)さん、最高でした。

■朴璐美、エドは「人生の相棒」 今なお色あせない魂を削り合った“青春の時間”

――これまでも何度も聞かれてきたとは思いますが、朴さんにとって、エドワード・エルリックという存在は25年経った今、どのような存在として心の中に居ますか?

【朴】 そうですね。何度となく聞かれてきましたが、答えるたびに言葉が見つからなくて(苦笑)。エドはめちゃくちゃツンデレだし、私もそう(笑)。だから、あまりエドに対して素直に言ってやりたくないところもある。当時のアフレコ現場は、『黄泉のツガイ』のユルもそうだと思うけど、エドもエドで莫大なエネルギーを持っていて。「お前のエネルギーを全部くれ」という感じで、土足で内側に入ってくる状況が、毎週月曜10時にありました。

――1週間の始まりから、かなりのエネルギーを消費されていたのですね。

【朴】 週の初めにエドにもっていかれて、残りの日はカスカスの状態で過ごすような感じ(笑)。それだけ高いエネルギーを合わせないと到底やっていけない作品と出逢えたことは、大変だったけど愛おしい時間で、豊かな時間でした。ある意味私にとっての青春の一つだったのかなと思います。人生の一部というか片割れみたいなもので、何年経ってもエドから教わることがたくさんある。きっとおばあちゃんになってもエドは色褪せず居続けると思うから……そうですね、人生の相棒です。きっと(小野にとっても)ユルはそういう存在になっていくのではないかな?

【小野】 そうなっていければという思いで、もがきながらアフレコに臨んでいました。

――同じ荒川作品の主人公を演じた朴さんは、『黄泉のツガイ』をどう感じられましたか。

【朴】 原作を全巻読ませてもらいましたが、やっぱり荒川先生の作品は一巻の冒頭に作品の根源の魂をなんの説明もなくぶち込んで一気に惹きつけるパワーがあるな…と再確認しました。『黄泉のツガイ』も一巻から一気に引きずり込まれ、「これが荒川弘!」と先生の底の知れないエネルギーが感じられました。もはや“神”ですね。

【小野】 お会いしてお話しすると飄々とされていて。頭の中で考えていることが測れないというか。

【朴】 ズルいよね(笑)。『黄泉のツガイ』もいきなり鉛玉をぶち込んでおいて、その後飄々とかわしながら真髄を突いていく。「この世界に何があるのだろう」と興味をひきつけつつ少しずつ世界を展開させていくところがズルい(笑)。早く先が読みたくなります。

【小野】 僕らもこの先どうなっていくか知らないので、最新刊が出たタイミングでの収録現場は、「ちょっとすごいことになっていますね」と盛り上がっています。

【朴】 『鋼の錬金術師』の収録を思い出しちゃったかな。同じ感じだった。なるべく聞かないようにして、出た巻を信じるみたいな感じでやっていたかな。

■小野、荒川作品の強烈な目力に応える緻密な芝居 朴はエドとユルの違いを分析

――小野さんが演じているユルは、これまでの荒川作品の主人公とはまた一味違う、静かな熱量を持っています。

【朴】 『黄泉のツガイ』は日本という国そのものを落とし込んでいる印象があり、先生はとんでもない作品をまた生み出しているなと感じました。その看板がユルなわけで、莫大なエネルギーを背負ってアフレコに臨んでいるはずだから(小野は)大変だろうなって。

【小野】 ユルは山育ちで命を落とさないためにも「冷静であれ」という教えのもと普段はクールなんですよね。エドは感情的になってコミカルなシーンもありましたが、ユルはあまり出てきません。心の中でのモヤモヤがすごく、自分だけが真実を知らず他の人はほとんど知っている状態で育ってきて、何がどうなっているかもわからないなか下界に降りていき新たな生活がスタートする。全部がわからない状態で生活していくのはフラストレーションが溜まるじゃないですか。スッキリしないなか時間だけは過ぎ、やらなきゃいけないこともあるというユルの心情を考えると、想像以上に精神的な負担はありますね。

【朴】 私だったら耐えられるのかな? ユルのなかではお父さんの教えなのか、ちゃんと愛を持って育ててもらった記憶がどこかにあるのだろうね。だから真っ直ぐいられるのだと思う。エドの場合、自分で弟と一緒に罪を犯したというのがあり、絶対に取り戻してやる思いが前に前に出る。自分が前に出ないと乗りこえられないとわかっているから先に行動する。対してユルが面白いなと思ったのは弓を射ること。弓を射るには先を、的を、その先の軌道を見るでしょう。その性質そのものがユルのような気がして。わからないけど的はわかっているというか。そのなかでおぼろげな的を絞りつつ俯瞰(ふかん)で見ている感覚が、ユルの生き残れる術なのだろうなと考えたら、収録はとんでもないパワーをつかっているんだろうな…と思いました。

【小野】 朴さんの見解が僕の中ではあまり意識していなかったところだったので、聞いていて「確かに」と思いました。

【朴】 それは『鋼の錬金術師』経験者として『黄泉のツガイ』の世界観を感じたからかもしれない。

【小野】 先生の描く目力の強さはすごいですよね。あの目のときの芝居ってどれが合うのだろうとか、表情や内に秘めたものをどう表現していったらいいのかは常に考えています。泣いているけど声は泣いていないだろうとか、涙を流しているけどここは泣き声にはしない方がいいだろうとか、いろいろ考えながらアフレコに臨んでいます。

【朴】 そうやっていろいろやれる、考えられるのは本当に幸せだよね。

【小野】 楽しいですね。

■荒川作品にあふれる“血の記憶” 「現実の戦い方を教えてくれる教科書」

――荒川作品ならではのアフレコの特徴などは何かありますか?

【小野】 『鋼の錬金術師』と『黄泉のツガイ』の一つの共通点なのかなと思うのは兄妹がいること。エドは常にアルと一緒に行動していたけど、ユルはアサと共に行動はしておらず、複雑な状況もあり距離感は探り探りの部分もあります。ただ血のつながりがある人物がいるのは、収録では心強いですね。

【朴】 私の場合は常にアルがいるから前に進める。前に進んだ分アルを守るし、アルがフォローもしてくれるのがわかるから突き進める。収録は(アルフォンス・エルリック役の)釘宮(理恵)もブースから俯瞰してみんなを見つつ、私も彼女の声を耳で聞きながら後ろにアルを感じつつ収録していました。そんなスタイルだから距離感や心の持ち方、心の寄せどころはやりやすかったかな。

――朴さんから見てユルとアサの関係は?

【朴】 ユルの場合、アサ(役の宮本侑芽)とはどういう距離感でやっているのだろうと思いました。荒川先生の作品のテーマの一つでもある血のつながりについて、自分の今までの記憶とどうしようもない血の記憶、自分ではわからないけど無意識の血の記憶って、そこのせめぎ合いにユルはずっといるわけじゃない? 一体どんなモチベーションで収録しているのかは気になりました。

【小野】 途中で本物のアサだってユルが実感できるシーンがあったのですけど。そこを越えた後の心の持ちようとしては、ユルもエドと一緒でなかなか素直になれないところもあって(笑)。恥ずかしさもあるのか、ぶっきらぼうになっちゃう。

【朴】 そういった性格付けは先生特有なのかな(笑)。

――そういった心情を踏まえつつ、どのようにユルを演じてこられたのでしょうか。

【小野】 よくしてもらっているデラさんという存在がいつつ、全面的に信用していいのかという葛藤もあり、頼れる人がいないところでの誰かを頼りたい気持ちはユルにあったと思うので、誰を信用していくかは常に考えています。

だからこそアサとの血のつながりを実感できた瞬間は、ユルにとって救いになった一つのシーンかなと思いました。それ以降は父様と母様に会いたいという目的ができたことで進む道が一個でき、その目的のために動くことを大事にしています。

――本作でも残酷な現実が幾度となく突きつけられますが、それは『鋼の錬金術師』から通底する魅力でしょうか。

【小野】 いいことだけじゃないし、悪いことが起きたときのどうしようもない怒りややり場のない感情を、どうやって発散すればいいのかとか、そこからいろいろなことを考えさせられます。

【朴】 ダークファンタジーだけど、荒川先生の作品は哲学書みたいで、とにかくリアル。現実との戦い方を教えてくれている教科書のような存在だなと思う。

■小野と朴も驚き! 伝説のセリフ「君のような勘のいいガキは…」登場の舞台裏

――『黄泉のツガイ』と『鋼の錬金術師』の魅力、ひいては荒川作品が長く愛され続ける理由はどこにあると思いますか?

【小野】 つらい瞬間をどう乗り越えていくか、どう自分の中で昇華していくかなど心を動かされる瞬間がすごくありますよね。『黄泉のツガイ』も『鋼の錬金術師』も常に死と隣り合わせの状態で物語が進んでいくなかで、視聴者や読者の心を動かし続けるストーリー展開が魅力だと思います。

【朴】 荒川先生との忘れられないエピソードがあって。エドとアルは罪を背負っているなか、いろんな人と出会って成長したり足掻いたり、自分の中で問答を繰り返して過ごしているよね。時が経てば経つほど先生の中でもキャラクターへの愛情が増していくのではないのかなって。当時、原作がまだ完結していない時期、エドとアルがどうなっていくか先生に尋ねたら、「罪を犯したので償わないといけません。罪人なので」とスパンと返ってきまして…。

――そう聞いてどう思われたのでしょうか?

【朴】 強い…先生…と思いました。我が子のように思っているはずのエドとアルに関してそう言い切る先生はある種、化け物だなと感じました。いや、本物の母親ですね。ダークファンタジーながら教科書みたいな、宇宙の摂理みたいな、自然の摂理みたいなものを先生の懐に落とし込んだものが、作品の中にある。先生の一つの倫理観みたいなもので『鋼の錬金術師』も『黄泉のツガイ』も動いている。そんな先生の世界観がたまらなく人間を引きつけるのですよ。だからある意味、うん、神ですよね。宇宙そのもの。

【小野】 きっと大きいところでの作品づくりをされているからこそ、25年経った今でも『鋼の錬金術師』が大好きという人が後を絶たないのだと思います。

【朴】 『鋼の錬金術師』や『黄泉のツガイ』という惑星があって、その宇宙を統合しているのが荒川先生という感覚が、読者や視聴者にはたまらない。先生は感情で推し進めず理論付けていくけど、その枝葉には理論付けられないものをパヤパヤと生やしていて、そこも魅力的ですよね。

【小野】 その上でぶっ込むところはぶっ込んできますよね。『鋼の錬金術師』でトラウマになったぐらいの衝撃だったニーナのシーンで、「君のような勘のいいガキは嫌いだよ」というセリフがあって。『黄泉のツガイ』のアニメにも同じセリフが出てくる回がありまして。

――原作では19話、アニメでは第15話において、テレビ画面に『鋼の錬金術師』アニメの該当シーン&セリフが流れるところですね。アニメ放送時もかなり話題になりました。

【小野】 荒川先生に聞いたのですが、『黄泉のツガイ』はスクウェア・エニックスとアニプレックスとボンズという、『鋼の錬金術師』と同じ制作陣なので「いけるだろう」と思ってマンガの中にセリフを入れたと仰っていました。自分がもともと作ったものをブラックジョークみたいな感じでやれるところにも、先生の宇宙を感じます。

【朴】 私はそのセリフがマンガで出てきたときテンションが上がりました(笑)。決して交わることはないのだろうけど、『鋼の錬金術師』と『黄泉のツガイ』が交差した世界線を作ってほしい!(笑)

【小野】 とりあえず一旦エドとユルはケンカしそうですよね(笑)。

――連続2クール放送もいよいよクライマックスです。応援してくださったファンの皆さんへメッセージをお願いします。

【小野】 物語はまだまだ謎に包まれています。解決していない問題もたくさんあるので、続きが気になる終わり方にはなってしまうとは思いますが、これからも応援していただけたらと思います。改めて『鋼の錬金術師』の大きさを感じつつ、負けないぐらいのパワーを『黄泉のツガイ』は持っていると思いますし、胸を張って並べるような作品になっていけばいいなと思いながらアフレコを頑張りました。

【朴】 大丈夫。制作は『鋼の錬金術師』と同じ布陣だし、『黄泉のツガイ』に懸ける情熱は半端じゃないと思う。役者陣もスタッフ陣も全員ハートでモノヅクリする人たちですから、これから先とんでもない作品になると思っています。

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