■初任給を12万円あげても日本人が集まらない
今年2月の衆議院選で政策に掲げる政党もあるなど、外国人問題は関心を集めている。そのためなのか、外国人を雇用する企業を批判する声もあるようだ。
この状況を黙って耐えている企業が多いなかで、日本そばチェーン店「ゆで太郎」を展開する「ゆで太郎システム」は、「外国人を安く使っているわけではないし、日本人の採用をしていないわけでもない」という自社の見解をFB(フェイスブック)に投稿している。
なぜ、ゆで太郎は外国人を雇用するのか。ゆで太郎システムの池田智昭社長にストレートに訊いてみた。それに、即座に答えが戻ってきた。
「人手不足のなか、外国人を雇わなければやっていけないのが現実だからです。ゆで太郎は現在でも年間20店舗くらいを出店していますが、そのためにも人が必要です。
常に日本人の募集も行っていますが、なかなか集まらないのが現実です。現在、外国人社員は約500人います。『外国人を安くこき使うのか』とか『日本人を雇わないで、外国人を優遇するのか』といった批判もありますが、これが外食業界の現実なんです」
同社は日本人採用にも積極的で、今年も23人の大学新卒者が入社することになっている。今年の初任給は33万円で、12年前が21万円だったというから、かなり待遇は引き上げている。
■基本給を上げ続けても人が集まらない
増えているのは初任給だけではない。池田社長が説明する。
「基本給も4年前に6%上げて、次の年に9%、その次の年が8%、そして今年も8%くらいの値上げになります」
ただし、ゆで太郎システムでは冬のボーナスは支給されない。その代わりに基本給を高くしていることになる。
「5年前に社内アンケートをとって、冬のボーナスをもらうのと基本給が上がるのとどっちがいいか訊いたことがあります。そのときは冬のボーナスを選択する意見が多かったんですが、去年、アンケートをとってみたら、若い社員のほとんどが『ボーナスではなく、毎月の給料で先にもらいたい』という意見でした。だから冬のボーナスを廃止して、基本給を上げることにしました」
社員の声を聞きながら、待遇引き上げを行っているのだ。
■外国人雇用がなければ経営が成り立たない
外国人の雇用を池田社長が考えはじめたのは2018年ごろからだったという。2019年に出入国管理及び難民認定法(入管法)が改正されて、「特定技能」という外国人向け在留資格が創設されて、外国人労働者の受け入れが拡大されることになっていた。これによって、外食業も外国人労働者を雇用できるようになった。
特定技能の資格創設は、人手不足が大きな理由である。少子高齢化による働き手の減少は止まらず、それを補うための高齢者の就労や女性の社会進出も限界近くになるなかで、外国人労働者の存在は日本の産業が成長していくために不可欠なものになってきているのだ。
実際、外国人労働者数は増えつづけてきている。厚生労働省の「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ」によれば2025年10月末時点における日本で働く外国人労働者の数は、257万人に達している。2008年が48万人なので、17年間で5倍以上にも増えたことになる。
それでも、人手不足が叫ばれているのが現状である。外国人労働者の存在がなければ、日本の人手不足はさらに深刻なものになっていたことは間違いないし、日本経済そのものが成り立たなくなっていた可能性もある。
■「コロナ失業」で日本人雇用が増えたが…
ゆで太郎も同じで、日本人を募集しても思うように採用できないなかでは、外国人労働者を雇用するしかなかった。特定技能資格の創設で外食業も外国人労働者を受け入れることができるようになったことが、その背中を押した。しかし、池田社長が思うように外国人雇用はすすまなかった。
「新型コロナウイルスの感染拡大の影響が大きかったです。2019年4月に特定技能資格が創設されて、2019年秋か2020年初めごろから本格的に運用されるようになって、外国人労働者を雇えると思っていました。そのための準備もすすめていたのですが、新型コロナで外国人労働者の入国も制限されるようになってしまって、雇いたくても雇えなくなってしまったのです」
それによってゆで太郎の出店もストップしてしまったかといえば、そうではなかった。外国人労働者の雇用には逆風となった新型コロナは、日本人の雇用には追い風になったからだ。
「新型コロナで事業縮小に追い込まれる企業が増えて、それによって『コロナ失業』が大量にでました。うちとしては人手が欲しかったので、日本人が雇えました」
ところが新型コロナも落ち着いてくると、日本人の雇用も元に戻っていく。外食業に日本人が集まりにくくなっていくのだ。
■人件費は「コスト」ではなく「投資」
そこで池田社長は、再び外国人労働者の雇用を本気で考えるようになる。
「特定技能の資格が、日本にいなくても、ベトナムとかネパール、タイとかの現地でも取れるようになっていました。ただ、特定技能資格を取るために日本語を学びたくても経済的な問題でできない人が多いという話を聞きました。
そこで100万円を貸して、それで日本語を学んで特定技能資格をとり、それから日本にやってきてうちの正社員になって働き、貸したおカネは給料から少しずつ返してもらうシステムをつくりました。そのために、現地のエージェントとも契約を結びました」
特定技能資格を得るためには、仕事で求められる知識と、国際交流基金日本語基礎テスト(A2以上)か日本語能力試験(N4以上)に合格する日本語能力が求められている。そのため、現地の日本語学校で学ぶ資金を貸すことにしたのだ。
「人件費は投資です。コストだと考えるから、できるだけ削るという発想になってしまいがちです。事業を発展させるためには機械などの設備を前もっていれる投資が必要ですよね。それと同じで、将来の事業拡大のための人を確保するためには投資が必要です」
外国人労働者の雇用は「安あがりに済ませるためだ」と批判されがちだが、資格取得のための学費を貸し付けたり、現地のエージェントに手数料を払ったりと、日本人を雇う以上に費用がかかっている。
■「出稼ぎ労働者」扱いはしたくない
それでも、「雇ったあとに搾り取るんだろう」という懐疑的な見方もあるかもしれない。それに、池田社長は次のように答える。
「給与や福利厚生などの待遇は日本人と同じです。
外国人労働者だからといって、法外な残業時間を強いることもない。ゆで太郎システムは、会社の方針として残業時間は月32時間までとしている。これは、外国人労働者も同じだ。
2019年4月に施行された改正労働基準法で、残業時間の上限は月45時間とされている。それを大幅に下まわる残業時間の上限を、ゆで太郎システムでは設定していることになる。その理由を、池田社長は次のように説明する。
「外国人の社員に訊くと、『もっと残業したい』という意見も多い。もっと働いて稼ぎたいし、若くて体力もあるから働けるんですね。しかし、『残業時間が少ない分だけ勉強しなさい』と言っています。勉強して特定技能資格2号を取得すれば働ける期間も長くなるし、それだけ給料も増えます」
特定技能資格には、特定技能1号と2号の2種類がある。2019年に創設されたのは1号で、2号は2023年に認められた在留資格だ。
■12人の店長、1人のエリアマネージャーが誕生
「“出稼ぎ”として外国人労働者をみていません。私の思いとしては、日本に定住して働いてもらいたいんです。そのためにも、残業を多くするのではなくて、しっかり勉強して資格を取ってほしいと考えています」
実際に、500人の外国人正社員のなかから、12人の店長と、1人のエリアマネージャーも誕生している。出稼ぎの外国人労働者を使い潰すような働かせ方をするのではなく、日本で働くための基本的なスキルや、飲食産業の知識や経験がつめる環境を整えてきたのだろう。
外国人雇用は、ゆで太郎システムにとって単なる「人手不足の穴埋め」ではない。業界1位に駆け上がる原動力そのものになっている。
■外国人雇用を進めたから、業界1位になれた
その違いが明確に表れているのが、営業時間と出店ペースだ。人手が足りない飲食チェーンは、24時間営業をやめ、時短営業に切り替え、新規出店を見送らざるを得ない。実際、同じ「ゆで太郎」の看板を掲げる信越食品系の店舗の中にも、人員確保に苦しんで営業時間を短縮している店があるという。
一方、ゆで太郎システムは順調に拡大を続けている。池田社長はこう語る。
「どこの飲食店も、スタッフを確保できれば営業時間を伸ばしたいです。うちは人がいるから、店舗もどんどん増やせるし、24時間営業ができる。実際に、営業時間を延ばすことで売り上げも利益も伸びています」
外国人採用を先取りし、コロナ禍で他社が萎縮している間も出店と採用を続けてきた。その結果、店舗数はグループ全体で約220店舗に達し、名代富士そばや小諸そばを引き離して業界1位に立つ。現在も年間20店舗ペースで新規出店を続けており、24時間営業の店舗も少なくない。
たしかにゆで太郎は500人の外国人を雇用している。だがそれは、日本人を軽視し、外国人を優遇しているわけではない。外食産業で人手を増やそうとすれば、外国人雇用を拡大するのがもっとも現実的で効果的な判断だったということだ。
「人件費はコストではなく投資」。池田社長のこうした価値観が、ゆで太郎を業界1位に押し上げたといえるだろう。
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前屋 毅(まえや・つよし)
フリージャーナリスト
1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。著書に『学校が合わない子どもたち』(青春新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(KKベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『日本の小さな大企業』(青春新書インテリジェンス)などがある。
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(フリージャーナリスト 前屋 毅)

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