6月12日、米宇宙開発企業スペースXが上場した。創業者イーロン・マスク氏は純資産1兆ドル(約160兆円)の大台を突破し、世界初の「兆万長者(トリリオネア)」が誕生した。
だが、上場で人生が激変したのは、マスク氏だけではない。海外紙の報道で次々と明らかになっているのが、一夜にして億万長者の仲間入りを果たした“ある人々”の存在だ――。
■アメリカで誕生した「トヨタの10倍」の会社
6月12日、イーロン・マスクCEO率いる宇宙開発企業スペースXが、米株式市場のナスダックに上場した。
公募価格は1株135ドル(約2万2000円。6月15日現在のレート、1ドル160円で換算、以下同)。初日の終値は公募価格を19%上回る160.95ドル(約2万6000円)をつけた。
同社はこのIPO(新規株式公開)で史上最大となる750億ドル(約12兆円)を調達し、時価総額でも一時2兆9700億ドル(約475兆円)に達した。日本最大の上場企業であるトヨタ自動車の時価総額がおおむね45兆円規模であることから、その10倍超というスケールだ。
株価は取引開始直後から急伸した。NBCニュースによれば、初値の150ドル(約2万4000円)から一時30%超も跳ね上がった。スペースX株の約43%を握るマスク氏は、今回の上場で純資産が1兆ドル(約160兆円)の大台を突破。世界初の「兆万長者(トリリオネア)」の誕生となった。

マスク氏と苦楽をともにした従業員たちも、莫大な富を手にした。米ビジネス誌のフォーチュンが伝えたところでは、現従業員および元従業員たち4400人超が、IPOを受けて一夜にして100万ドル級(約1億6000万円)の長者になっている。
サンフランシスコを拠点とする投資プラットフォーム、Hill.comの分析によると、うち約400人は保有株の価値が1億ドル(約160億円)を超える。グウィン・ショットウェルCOOやブレット・ジョンセンCFOなど重役陣も、それぞれ10億ドル(約1600億円)超の資産を手にしたとされる。
■会社が何をしているかも知らなかった溶接工
サクセスストーリーとしてより注目を集めているのが、一般従業員の事例だ。ウォール・ストリート・ジャーナルによると、ロケットを組み立てる技術者からキャンパス内カフェのバリスタまで、さまざまな職種の従業員が100万ドル級の長者の仲間入りを果たしている。
ウォール・ストリート・ジャーナルが大きく取りあげているのが、元スペースX溶接工のフアン・エルナンデス氏(42)のケースだ。
メキシコからアメリカに渡り、「割のいい仕事だから」との理由だけで、溶接の技術を身につけた。2015年、友人からスペースXの仕事を紹介された当時は、ロケットを飛ばす会社だということすら知らなかったという。
「当時は給料が十分だったので」と、ウォール・ストリート・ジャーナルの取材にエルナンデス氏は入社の理由を語る。こうして時給28ドル(約4500円)の契約社員として、スペースXで働き始めた。
真面目に働き続けた彼はやがて正社員に登用され、1万ドル(約160万円)相当の株式を、5年かけて段階的に自分のものになる制限付きの方式で手にした。

時給制の仕事しか知らなかった彼にとって、株式の価値など実感の湧くものではなかった。CBSニュースには、「大したことだとは思わなかった。ここまで大きくなるとは思っていなかった」と振り返っている。
それでも周囲の従業員にならい、右も左もわからないまま、給与の一部から天引きする形で株式を買い足していった。
■「時給4500円」から億万長者に
2020年、エルナンデス氏は転機を迎えた。スペースXの評価額が360億ドル(約5兆7700億円)に達したのを機に保有株の一部を売却し、テキサス州内に不動産を購入した。妻とともに小規模な不動産事業も立ち上げた。帳簿上の数字でしかなかった持ち株を、形ある資産に変えたのだった。
手元に残した約6500株は、ウォール・ストリート・ジャーナルによると公募価格ベースで約88万ドル(約1億4000万円)相当。上場初日の終値で換算すれば、総額約104万ドル(約1億6700万円)に達している。時給28ドルで働き始めた溶接工が、100万ドルの大台を超える資産を手にしたことになる。
「おかげで一生、安泰な立場に置いてもらえました」。
スペースXで約10年間ロケットを発射台に据えるための構造物や固定設備を溶接し続け、昨年退社したエルナンデス氏はそう語る。
とはいえ、悠々自適の暮らしを選んだわけではない。現在はアマゾン創業者ジェフ・ベゾス氏が設立した宇宙開発企業ブルーオリジンのロケット発射施設で、変わらず溶接工として現場に立っている。
■「成功確率10%未満」の会社が選んだ秘策
エルナンデス氏に限った話ではない。ウォール・ストリート・ジャーナルの取材に応じた他の元従業員たちも、多くは突如舞い込んできた巨額の富を、堅実な使い道に充てているという。売却益を配偶者の学生ローンの返済や両親への別荘の購入に充てたり、長年の夢だった不妊治療を始めたりするほか、かねて温めていた事業の立ち上げ資金に投じるなど、意義ある使い方を見いだしているようだ。
エルナンデス氏のような現場の労働者までもが、一夜にして億万長者になれたのはなぜか。それを可能にしたのが、スペースXの株式報酬制度だ。
マスク氏自身、ナスダックの上場セレモニーで、「(カリフォルニア州)エル・セグンドの倉庫で始めたあの小さな会社が、史上最大のIPOで上場するとは信じがたい。はっきり言って、成功する確率は10%未満だと思っていた」と振り返った。米宇宙・天文ニュースサイトのスペース・ドットコムが伝えている。
成功確率10%未満。
創業者自身がそう認める会社が、人材をつなぎとめるために用意したのが、ストックオプションだった。将来、あらかじめ決められた価格で自社株を購入できる権利であり、従業員の努力で会社が大きく成長するほど見返りが大きくなる。
加えて、勤続年数に応じて段階的に自分のものになる制限付き株式ユニット(RSU)の制度がある。報酬の一部が株式で支給されるもので、従業員側の出費はない。
■36時間ぶっ通し勤務に耐えた従業員
ストックオプションとRSUに加えて、スペースXは従業員株式購入制度(ESPP)を用意している。こちらは従業員が自主的に給与の一部を天引きで積み立てることで、割安な価格で自社株を買える仕組みだ。日本の多くの上場企業で従業員が利用できる持株会の制度があるが、これに似た存在だ。
なお上場後は、ストックオプション・RSU・ESPPで取得した株には「ロックアップ」と呼ばれる売却制限がかかり、一定期間を経ることで売ることができる株数が徐々に増えていく。
創業期の企業は、給与に回す現金が乏しいことが多い。代わりにこのように株式で報いる手法は、アメリカのスタートアップで広く採用されている。
こうした充実の待遇を受けるスペースXの従業員たちだが、決して安穏とした日々を送ってきた訳ではない。彼らが生き抜いてきたのは、過酷を極める労働文化だった。

米ビジネスニュースサイトのビジネス・インサイダーは、宇宙ジャーナリストのエリック・バーガー氏の新著『Reentry』の一節を紹介。それによると、スペースXの従業員は36時間ぶっ通しの勤務や、机の下での仮眠、トイレに行く暇もなく日常的にバケツで用を足すなど、過酷な勤務に耐えてきたという。マスク氏自身もテスラの苦境期にはデスクの下で眠ったとされており、ハードに働く文化は彼の企業では当然といったところだろう。
■「長く続かない」と言われた会社に賭けた
だが、適正な見返りがあったからこそ、従業員たちは会社の成長に賭け、苦境に耐えた。オンライン職業訓練スタートアップ、スキルキャットのルチル・シャーCEOはフォーチュンに対し、「優秀な溶接工や機械工を見つけるのはソフトウェア開発者と同じくらい難しい。深刻な人手不足を考えればなおさらで、株式を付与するのは理にかなっている」と述べている。
株式報酬制度は成功すれば見返りが大きい一方、会社自体が躓けば、見込んでいた報酬が紙切れになるリスクもはらむ。
そのリスクを最も劇的な形で呑んだ従業員の一人が、元スペースX打ち上げエンジニアのトレバー・ハイズ氏(37)だ。
フロリダ州ココア出身。母は家具販売員、父はケープカナベラルのケネディ宇宙センターで配管工として働く家庭に育った。2011年、大学を卒業したハイズ氏に、両親は名門ゼネラル・エレクトリック(GE)への就職を強く勧めた。だが彼は、在学中のインターンで惚れ込んだスペースXに残る道を選ぶ。

ハイズ氏はニューヨーク・タイムズの取材に対し、「当時のスペースXは、実績もないスタートアップでした。長くは続かないだろうという見方が非常に強かったのです」と振り返る。親が心配するのも、無理はなかった。
■12年間働いて築いた21億円
打ち上げエンジニアとして12年。ハイズ氏はその間に、株式報酬を堅実に増やし続け、その数を10万株超にまで伸ばしていた。控えめに公募価格ベースで換算しても、1350万ドル(約21億6000万円)となる。
彼は今、第一線を退いてセミリタイア生活を送る。本人も、「この規模感は馬鹿げている」と驚きを隠さない。皮肉なことに、親が勧めたGEは、今や時価総額でスペースXのおよそ5分の1にとどまる。
これまでに結婚式の費用や住宅の頭金に充てるため株の一部こそ売却したものの、大半は手放さなかった。2023年の退社後は不動産事業にも投資し、アーティストである妻とともにファイナンシャルプランナーを雇い、資産の一部を寄付するための財団設立も進めているという。
かつて息子の選択に反対した両親は、どう思っているのか。ハイズ氏は、「とても誇りに思ってくれています」とニューヨーク・タイムズに語った。
■末端の社員まで行き渡った手厚い恩恵
株式報酬で手にした「第2の人生」は、人によってまったく違う。
元スペースXエンジニアのJ・アンドレ・ラヴォワ氏(63)は5年前、北イタリアの小さな町ポンテッバに移り住み、ホテルを1軒買い取った。在籍時に付与された株式の評価額は、公募価格ベースで2800万ドル(約45億円)を超える。
ウォール・ストリート・ジャーナルによれば、資金の用途は自身のホテルの改装資金にとどまらない。町全体の暖房を薪からよりクリーンな暖房方法に切り替える支援ができないか、構想を練っているという。
「ただただ銀行に大金を残して死んでいくのはご免だ」。同氏が異国の町に私財を注ぎ込むのは、ひとえにこの思いからだ。2015年の退社以来、年々急騰を続ける株価を目の当たりにしてきた。「あまりに急激に上がるから、人生設計が狂い続けている」と、同氏は嬉しい悲鳴を上げる。
一方、スペースXで船舶のエンジニアリング・オフィサーを務めたマリエリン・マッセルマン氏(27)が見据えるのは、もっと堅実な道だ。
2022年に入社し、フロリダ沖に落下したロケット部品を海中から回収する船舶で2年間勤務した。報酬として付与された株式に加え、リスクを承知のうえで給与の10%を自ら株式の追加購入に回した。
「船乗りは普通、自社株を持たないし、福利厚生も十分でないことが多い」と同紙に語るマッセルマン氏。スペースXでは、多くの企業ならば手厚い恩恵を用意しない現場の働き手までを対象に、株式報酬制度を広げている。
同氏は保有株の評価額こそ明かしていないが、バージニア州チェサピークで自らの修理事業を起こすことを目指している。
■スペースX株を食事券と交換した人々の後悔
大化けするかもしれない株式を持ち続けるか、早々に見切りを付けて手放すか。スペースXの従業員にとって、それが最も重い判断だった。
同社の社内では、ある伝説がまことしやかに語り継がれている。草創期の一部の従業員たちが、レストランチェーン「チリーズ」のギフトカードと引き換えに自社株を手放した、というものだ。
マスク氏はかねて上場企業を嫌い、定期的な情報開示義務への不満を公言してはばからなかった。その言葉を額面通りに受け取り、「どうせ上場しない」と信じて株を売った従業員は少なくなかったと、ニューヨーク・タイムズは伝える。複数の現役社員の証言によれば、彼らはいま、深い後悔に苛まれているという。
リスクを承知で株を握り続けた者は、報われた。ギャビン・プティ氏(42)は2012年、エンジニアとしてスペースXに入社した。年俸8万ドル(約1000万円)に加え、1株13.80ドル(約2210円)で数千株を付与された。ロケットの打ち上げが次々と失敗に終わり、ニュースを通じて物笑いの種になっていた時代だ。それでもプティ氏は、ボーナスを現金ではなく、追加分の株式の形で受け取り続けた。
■「労働者へのリスク転嫁」という声も
権利確定に必要な5年以上の在籍期間を全うしたプティ氏は、半年ごとの「流動性イベント」、つまり非上場株を外部の買い手に売却できる機会を利用して一部を売り、デンバーの自宅ローンを完済した。それでも大半はあえて手元に残し、いまでは5万株以上を保有している。
2023年に宇宙関連企業カタリスト・スペース・テクノロジーズへ転職したプティ氏は、今回の上場を、「現代のコカ・コーラか、グーグルのIPOのようなもの」と表現し、「宝くじに当たったようなもの。本当に運が良かった」と語った。もっとも、プティ氏がその幸運を掴めたのは、先の見えない時代に株を握り続けた覚悟があってこそだ。
一方で、専門家からは慎重な意見も聞かれる。
ジョージタウン大学マクドノー経営大学院のジェイソン・シュレッツァー准教授は、フォーチュンの取材に対し、「紙の上で数百万ドルの価値があるエクイティ(株式持分)は、銀行口座の数百万ドルとは性質が異なる」と警告する。
シュレッツァー氏は、多くの従業員は株式を無償で受け取ったわけではないと指摘。給与天引きで自社株を購入する仕組みを通じ、自らコツコツと持ち株を買い増してきたわけだ。
つまり、確実にもらえるはずだった給与の一部を差し出し、その分だけ株価変動のリスクを従業員が引き受ける構図だ。同氏はスペースXの事例を挙げ、「労働者へのリスクの転嫁」にほかならないと語る。
■適正株価は公募価格の「半値以下」
株価の先行きについても、楽観はできない。フォーチュンによると、投資調査会社モーニングスターは上場直前にスペースXの適正株価を1株約63ドル(約1万円)と試算した。公募価格135ドル(約2万2000円)のじつに半値以下である。
そもそもスペースX自体、いまだ黒字化を果たしていない。昨年の売上高は約190億ドル(約3兆円)にとどまる。IPO直後の従業員には一般にロックアップ期間と呼ばれる数カ月間の売却制限も課されるため、仮に株価が下落すれば、紙の上の資産が銀行口座に届く前に大きな損失を被りかねない。
こうしたリスクを前に、従業員たちはすでに独自の防衛策を講じ始めている。米ビジネスニュース専門局のCNBCの報道によると、資産総額10億~50億ドル(約1600億~8000億円)規模のスペースX従業員100人以上が結束し、登録投資顧問会社コレオと業界標準を下回る手数料で資産運用契約を結んだ。個人資産に基づく料金設定が通例の業界にあって、集団交渉で手数料を引き下げるのは異例の試みだ。
資産運用会社クリエイティブ・プランニングの最高投資責任者、ジェイミー・バットマーによれば、従業員の多くは保有資産の最大90%がスペースX株に集中しているという。分散投資のセオリーからすれば、危ういまでの大きな偏りだ。
■全米屈指の貧困都市に生じる異変
スペースXのIPOが生んだもう一つの影の面が、同社のお膝元で広がりつつある富の集中だ。
スペースXのロケット打ち上げ・開発拠点であるスターベースを擁する、テキサス州ブラウンズビル。3000人を超えるスペースX従業員が勤務するこの街は、全米屈指の貧困都市でもある。政府統計によると、世帯収入の中央値は全米平均を約3分の1下回る。
地元のファイナンシャルプランナー、マイケル・リマス氏は欧州ニュース専門局のユーロニュースの取材に対し、「スペースXは上層部から現場従業員まで幅広く(株式の)オプションを付与してきた。この地域では特異なことだ」と述べる。全米有数の低所得地域に、ストックオプションという異質な富の種がまかれた格好だ。
同社従業員の購買力を受けてか、いま、ブラウンズビルの住宅市場は過熱している。複数の不動産業者やエコノミストによれば、ブラウンズビルとハーリンゲンを中心とする都市圏の住宅価格中央値は2020年以降およそ25%跳ね上がり、約18万5000ドル(約2960万円)から約23万3000ドル(約3730万円)に達した。高収入のスペースX従業員が地元の不動産を次々と手中に収めるなか、長年つつましく暮らしてきた住民は、暮らしへの影響をひしひしと感じている。
もっとも、家族が6代にわたってこの地に根を下ろしてきたブラウンズビルのジョン・コーウェン市長は、「投資先として知られる都市になることは素晴らしい」と米メディアに語るなど、あくまで前向きだ。
■「四半期利益にフォーカスしたくない」
巨額の資金を引き寄せたスペースXは今後、短期の業績にとらわれることなく、長期的なビジョンを優先する構えだ。
同社のグウィン・ショットウェル最高執行責任者(COO)は上場初日の朝、CNBCのインタビューで懐疑派に対し、「私たちの実績と歴史を見てください。本当に難しいことをやっているんです」と一蹴した。
「四半期利益にフォーカスしたくない。投資家を軽視するつもりはないが、スペースXに投資する人たちに理解してほしいのは、私たちがやっていることは非常に未来志向だということ」と続けた。
同社の勢いを信じる個人投資家たちには、すでに門戸が開かれている。同社はIPOの申請書類で公開株の30%を個人投資家向けに割り当てると表明し、フィデリティやEトレードなど個人向け証券会社を通じて販売する方針だ。宇宙産業への投資機会を、幅広い層に提供するねらいがある。
宇宙産業の関係者は、今回の上場により、宇宙産業全体への投資ブームが到来する可能性もあるとみる。ヴォイジャー・テクノロジーズのジェフリー・マンバー会長兼CEO特別代表はスペース・ドットコムの取材に応じ、「IPOの予期せぬ影響の一つは、文字通り何十人もの新たな商業宇宙起業家が自己資金で会社を立ち上げることだ」と語った。4400人の従業員が上場で富を手にしたことで、宇宙産業は「商業宇宙サービスの真の爆発的拡大」を迎えるのではないか、とマンバー氏はみる。
事実、スペースXは調達額で歴史的な水準に達している。コロラド大学ボルダー校のシェーン・デイヴィス准教授(金融学)は、同社がたった1社で調達した約750億ドル(約12兆円)という額は、ドットコムバブル(1990年代前期~2000年代初期)の最盛期に全米のIPOが集めた総額を上回ると指摘する。
■会社を信じ続けた従業員が報われた
巨額の資産を手にした今も、溶接工のエルナンデス氏は変わらず現場に立ち続けている。
アメリカへの移民として「懸命に働くこと」を叩き込まれて育った彼は、富を得ても仕事を辞めるつもりはないと米CBSニュースに語った。自ら学んだ教訓を、3人の子どもたちにも伝えていくつもりだという。
勤労の精神と共に、彼が重視している教訓の柱が、投資だ。スペースX株を通じて身をもって学んだ投資の感覚を、子どもたちにも教えている。16歳の娘はすでに、メタ(旧フェイスブック)をはじめ複数企業の株を所有。「あの子自身、ちょっとした起業家ですよ」とエルナンデス氏は誇らしげに語る。
かつて「会社が何をしているかも知らなかった」ほどの溶接工の男は、子どもたちに未来への賭け方を教える父親になった。
マスク氏については、どう思っているのか。エルナンデス氏はこう語る。「彼は、料理人や電気技師といった僕たちのような人間にも可能性を開いてくれた。多くの人の人生をより豊かで意味のあるものにし、その家族にとっても同じことをしてくれている」
従業員へのリスクの押し付けとも指摘される、株式による報酬制度。批判の一方で、幸せを掴んだ4400人の従業員たちは、行方の知れなかった宇宙企業を信じた見返りを受け取っている。
先行きの読めない会社を信じ、批判に晒された時代も勤労を忘れなかった従業員たちへの、何よりの報いとなった。
※本稿は特定の株式への投資を推奨するものではありません。

----------

青葉 やまと(あおば・やまと)

フリーライター・翻訳者

1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。

----------

(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)
編集部おすすめ