人間関係で悩んだらどうしたらいいか。臨床心理士の田所俊作さんは「“話し合えば分かり合える”と言われるが、現実にはどれだけ誠実に接しても“分かり合えない人”が確実に存在する。
大切なのは、そういう人に出会ったときにどう対応するかだ」という――。
※本稿は、田所俊作『分かり合えない人をうまくかわす技術』(KADOKAWA)の一部を抜粋・再編集したものです。
■「話し合えば分かり合える」には限界がある
私たちは幼い頃から「話し合えば分かり合える」「誠意を持てば伝わる」という美徳を教えられて育ちます。
そのため、対人関係で理不尽な対応をされたとき、多くの人は「自分の伝え方が悪かったのではないか」「もっと配慮できたのではないか」と自分を省み、さらに努力を重ねようとします。
しかし現実には、どれほど誠実に関わっても、決して良好なコミュニケーションが成立しない相手が存在します。世の中には、他者の気持ちや境界線をうまく受け取れない人が一定数いるからです。
丁寧に伝えても無視されたり、ねじ曲げられたり、逆にこちらを責める材料として使われてしまうことすらあります。
ここで大切なのは、「意思疎通がうまくいかない原因を、あなたの伝え方の問題だけにしない」ということです。
もちろん工夫が役立つ場面もありますが、何度も誠実に向き合っても通じないのであれば、それは相手の認知や防衛のあり方が大きくアンバランスである可能性が高いです。
つまりそれは、あなた一人で解決できる問題ではないのです。
■「分かり合えない人」5つのタイプ
不条理な人間関係に悩む誠実な人ほど、次のような思考の罠に陥りがちです。
「もっと分かりやすく伝えれば、いつか変わってくれるかもしれない」

「この人は難しい人だから、波風を立てないために私が合わせるしかない」

そう考えてさらに努力を重ねることは、一見忍耐強い対応に見えますが、実は非常に危険です。
この方向に進むほど、今までと同じ苦しいループに戻るだけだからです。
相手の問題をなんとかしようとしたり、変えられない分を自分が耐えようとすることは、結果として自分の境界線を自ら壊し続けることに他なりません。
ここで、世の中にいる「分かり合えない人たち」の代表的な5つのパターンを紹介します。
①感情爆発タイプ

②支配タイプ

③被害者ポジションタイプ

④依存タイプ

⑤現実回避タイプ

彼らに共通している本質は、あなたの気持ちや限界を超えて、あなたの「境界線(バウンダリー)」の内側に土足で踏み込んでくるという点です。
したがって、問題の本質は「分かり合えないこと」そのものではなく、「あなたの境界線が全く尊重されていない関係性にあること」にあります。
■「境界線を引く=関係を断つ」ではない
これまでの関係では、あなたが譲ることでかろうじて関係が保たれてきたのかもしれません。
しかしそれは同時に、相手に対して「この人にはここまで踏み込んでも大丈夫だ」という学習(成功体験)を与えてきたとも言えます。
逆に言えば、あなたが明確に境界線を引き、「それ以上は応じない」という姿勢を取り始めたとき、相手は初めて新しい現実に直面します。「ここから先は通用しない」「この人には距離が必要だ」と理解せざるを得なくなるのです。
もちろん、すぐに態度を改める人ばかりではありません。それでも、これまでのように無制限に踏み込むことは難しくなっていきます。
つまり、境界線を引くという行為は、あなた自身の身を守るためだけのものではなく、「人には侵してはならない境界線がある」という現実を相手に示す働きも持っています。

その意味で「戦略的撤退=相手と同じ土俵から降りる」という選択は、関係を壊す冷酷な行為ではなく、関係のあり方を健全な形へと再編していく行為でもあるのです。
分かり合えない相手に分かってもらおうとエネルギーを注ぐのはやめましょう。あなたに必要なのは、別の選択肢を持つことです。それこそが「戦略的撤退」です。
■「振り回される側」を退場するという選択
戦略的撤退とは、分かり合おうとして消耗し続けることをやめ、「同じ土俵に立たない」と決めることです。言い換えれば、相手を変えようとする「攻略不可能なゲーム」から自分の意思で降りることです。
これは相手を切り捨てることでも、勝つための行動でもありません。あなたが無意識のうちに置かれてきた「利用される側」「振り回される側」というポジションから退場する選択です。
これまでの関係では、あなたが申し訳なさそうにしたり、過剰に説明したり、顔色をうかがったりすることで、相手が優位に立つ構造ができていた可能性があります。相手はあなたの反応を通して、自分の安心感や立場を保っていたのかもしれません。
そのため、あなたが今まで通りに反応しなくなると、相手は戸惑い、ときに強く揺さぶってくることもあります。しかし、それはあなたが間違っているサインではありません。
むしろ、関係パターンが確実に変わり始めたサインです。
■やめるべき5つの言動
戦略的撤退は、何か特別なことではありません。日々の生活の中で、次のような具体的な対応を積み重ねることで実践されます。
・必要以上に謝らない(自分に非がないことに対して形ばかりの謝罪をしない)

・感情的に応じすぎない(相手の怒りや不機嫌にオドオドしたり声を荒らげたりしない)

・説明しすぎない(分かってもらおうと言い訳や事情を長々と開示しない)

・短く、事務的に対応する(必要最小限の言葉で区切る)

・距離を取る、接触を減らす(物理的・時間的な関わりを極限まで減らす)

たとえば、無理な要求や理不尽な言葉を投げかけられたら、次のように対応します。
・「それは難しいです」

・「今回は対応できません」

・「そうなんですね」

相手の不機嫌をなんとかしようと奔走するのをやめること。すべてを分かってもらおうとしないこと。
こうして同じ土俵に乗らないでいると、相手にとっては、これまで機能していた「あなたの都合のいい反応」という報酬が通じなくなります。
その結果、相手の態度が変わることもあれば、変わらないこともあります。しかし、どちらでも問題はありません。
■本質は「相手を変えること」ではない
ここでの本質は、相手を変えることではありません。「あなたが、もう振り回され続けなくてよい状態に戻ること」です。
相手の問題は、相手自身が向き合うべき課題です。
それをあなたが背負い続け、身代わりになって苦しむ必要はまったくありません。
私たちは「話し合えば分かり合える」と信じたくなります。それはあなたの優しさであり、誠実で自然な願いです。
しかし現実には、すべての関係が対話で改善するわけではありません。対話が成り立たない相手に対しては、真正面からぶつかるよりも、「関わり方を調整する(距離を置く)こと」のほうが、はるかに現実的で健全な選択になります。
真に成熟した境界線とは、次の両方を持てることです。
1.伝えられる相手には、誠実に伝える

2.どうしても通じない相手の場合は、土俵から降りる

これまでのあなたは、周囲の機嫌を守るために自分を犠牲にしてきたかもしれません。しかし、もうその役割を続けなくてもいいのです。
あなたのこころのエネルギーは、他人のために消耗するものではなく、あなた自身の人生を生きるために使っていいものです。
距離を取ることは冷たさではなく、「健全さ」の現れです。そしてそれこそが、境界線を育てた先にある、本来あなたに与えられるべき自由なのです。
■自分を労わり、次の一歩へ
ここまでの内容は、決して簡単に身につくものではありません。

これまでの生き方や人との関わり方を見つめ直し、少しずつ変えていく作業には、時間もエネルギーも必要です。
ときには「これでいいのだろうか」と罪悪感から迷うこともあるでしょうし、うまくできない自分に戸惑うこともあるかもしれません。
それでもあなたは、すでに大切な一歩を踏み出しています。
「自分を守っていい」「他人のために消耗し続けなくていい」という感覚に触れ始めていること、それ自体が未来を変える最大のターニングポイントです。

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田所 俊作(たどころ・しゅんさく)

臨床心理士・公認心理師、こころのケア研究所 SHINKA 代表カウンセラー

大手製薬会社にMRとして勤務後、社員のメンタルヘルス問題をきっかけに心理系大学院に再進学し、心理職へ転身。精神科病院・心療内科クリニックなど医療領域で8年間の臨床経験を積み、心理検査、心理カウンセリング、精神鑑定等に従事。2023年からオンライン専門の心理オフィスを開業し、現在は認知行動療法・スキーマ療法を軸に、講演やYouTubeを通じて「実生活に活かせる心のケア」を発信している。

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(臨床心理士・公認心理師、こころのケア研究所 SHINKA 代表カウンセラー 田所 俊作)
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