昨今も闇バイトによる詐欺や強盗が多発しており、その犯罪形態の源流となったのがルフィグループである。彼らが2022~23年に起こした広域強盗事件の関係者に取材し、『檻の中のルフィ』を上梓した栗田シメイさんは「電話による特殊詐欺をしていた彼らがなぜ強盗を働くようになったのか。
彼らはネタ元から精度の高い情報を仕入れていた」という――。
※本稿は、栗田シメイ『檻の中のルフィ 闇バイトを生んだ者たち』(講談社)の一部を再編集したものです。
■ルフィら広域強盗犯が入手したネタ
「ルフィグループ」による事件は、なぜ8件もの広域強盗へと発展したのか。この謎を解くカギは、今村磨人(被告・受刑者表記は略)が「ネタ元」から仕入れた情報の精度の高さにある。
2022年10月に起きた「稲城事件」以降、「足立事件」と「千葉事件」を除く5つの強盗先の情報を得てきたのは、すべて今村だった。渡邉優樹たちはその状況を最大限“利用”した。
今村が「ネタ元」から仕入れた前情報は、自宅の金庫の保管場所やその総額、貴金属の有無、家族構成から職業、セキュリティの有無に在宅時間まで、異常な精度を有していた。
一介の不良集団にはできない所業だろう。
これまでの裁判でつまびらかにされた情報を精査すると、そんな印象を抱く。
■どんな情報を基に狙われるのか
今村は強盗事件を起こす前、藤田聖也や渡邉、実行役と以下のような情報を共有していた。
・野球賭博の現金を分配しており、当宅はその現金を保管している。月に1度、現金が集まる。
その日を狙う。総額5000万円~6000万円、多い時は1億円。集まる時間は午前11時~13時のあいだ。仲間内からリーク。犯行当日、おそらく1人でいるのでそのタイミングを狙う

「野球賭博の胴元だからガンガンいこうぜ」(実行役へのテレグラムでの指示。以下同)
・悪い市議会議員がいて、そこの長男がリーク。老夫婦2人。時々孫が来る。金庫に3600万円。貴金属多数。2~3人在宅可能性あり。地下にカネがあるからとってくれ

「脅して金庫番号を吐かせて、中身だけ抜いてこい」
・元ヤクザか現役ヤクザの土建屋社長が、大量にカネを溜め込んでいる。
1億円から1億5000万円、息子からのリークという情報あり。事務所にはセコムあり。自宅にはなし

「抵抗するなら多少手荒なことしても吐かせろ」

「相手は堅気じゃないので容赦なくやっちゃってください」
・投資詐欺のおばさん宅。その被害者の1人のおばさんからリーク。地下にカネ。間取り図あり。詐欺で得たカネだから、銀行に預けられない。日中はおばさん以外は外出。長男は無職で在宅可能性あり。2000万円案件。遊戯王カードあり。遊戯王カードも奪うこと

「宅配業者の宛先を税務署とすること」
■被害者に近しい人物がリーク?
・高級時計を揃えている時計店がある。
金庫があり。現金3000万円は固い。自宅兼店舗。住宅街
・ボケ老人。ゴールド狙い。金庫あり。3000万円現金あり
詳細は省いたが、内容は概ねこのようなものだった。強盗先の情報をかなり細かく入手しているのがわかる。藤田や小島の裁判でも、「(被害者に)近しいところから情報を得ているため(今村の情報は)確証が強い」という趣旨の証言が残っている。
今村は実行役へ報酬を支払うことに抵抗があった。渡邉グループも、実行役はその場に捨て置いて報酬を支払わないという方針だった。しかし、強盗の総報酬の約4割を、今村は「ネタ元」に支払っている。
その点にも引っかかりを覚えると言わざるを得ない。
ネタ元に支払って残った額を、渡邉と今村の両グループで折半し、実行役や業者への報酬に充てる。そのような座組で強盗計画は動き出している。補足となるが、実行役の中には報酬を支払われなかった者が大半だ。実行役として使い回すために報酬を支払われた者についても、1案件につき50万~250万円ほどと、指示役たちの懐に入る額と比べれば微々たるものだった。
■3500万円を奪った「稲城事件」
稲城事件の計画が本格的に稼働し始めたのは、発生のおよそ1週間前。2022年の10月12日からである。まずは指示役である今村と藤田、そこに渡邉を加えたメンバーで、被害者の資産状況と家族構成、実行日時、在宅の有無、狙う時間帯、道具の種類、実行役の人数などについて話し合われた。
このやり取りを経て、今村は自らが用意した実行役へ指示を出す。渡邉グループでは、小島がSNSで集めた実行役に、藤田が情報を降ろした。
ただし、実行役に奪うカネの額や住所など細かい情報を知らせるのは、いずれも犯行の直前だった。他の犯罪組織への情報の横流しや、捜査機関への密告を防ぐことが目的であり、強盗が行われた3カ月の間この点は徹底されていた。
事案によっては、運転手役にしか詳細な情報が共有されないこともあった。
■住宅強盗の実行犯は闇バイト5人
稲城事件の実行役は5人。そこに運転手役が1人に、盗品の売却役2人をくわえた計8人でチームを組んでいる。
用意した道具は以下のようなものだ。突撃用の「ハイエース」が1台に、盗品を移し替える逃走車の「ヴィッツ」が1台。いずれもレンタカーで用意した。大手作業服店で購入した宅配業者を装うユニフォームや段ボールに、脅し用の凶器となるハサミを2本。それに、拘束用の粘着テープやガムテープ、結束バンドなどである。
事件前、指示役と実行役との間ではこんなメッセージが交わされていた。
「住宅街だから正面からGO! イージーですね」
犯行の前日にあたる10月19日、実行役たちは「ルフィ」こと今村の指示で現場の下見に訪れた。だが、事前情報とは異なる点がいくつもあり、彼らは困惑した。自宅に車が3台停まっており、防犯カメラが2台設置されている。
近くに交番まであった。
渡邉グループが用意した実行役の1人である石栗一樹は、異変を察知して「キム」(藤田)に連絡した。とても「イージー」なものとは思えなかったからだ。
「話が違う」
そう石栗が連絡すると、「キム」からこんな回答があった。
「情報提供者に確認しますね」
■防犯カメラがあり、翌日に延期
しばらくすると、「キム」から「インターホンを押し、『粗大ごみが邪魔だ』とクレームをつけて突入するように」と指示を受けた。しかし、事前情報との違いから、現場の実行役5人は完全にやる気を失っていた。実行役で口裏を合わせ、「やったけど上手くいかなかった」と嘘の報告を入れる。「ルフィ」の指示を受けていた実行役の葛岡隆憲も、同じように対応した。
住民に不審がられるリスクが高いことなどを説明し、この日の犯行は断念することになる。実行役たちは一度東京近郊に散り、翌日に臨む運びとなった。後に藤田の裁判で証人出廷した石栗は、当日の様子をこう話している。
「どちらかといえば、『ルフィ』は現場の声を聞いて、実行を諦めるような感じでした。『キム』はどうしてもこの日にやれ、といって諦めてくれない。そんな雰囲気を感じました」
今村と藤田は再度計画を練り直した。宅配業者を装いインターホンを押し、出てきた家人を刃物で脅して金庫の場所を吐かせる。もし別の家人がいた場合は、他の実行役が制圧し、拘束するというものだ。実行役5人の役割は、金庫を探す者が1人、逃亡の動線を確保する者が1人、残りは制圧部隊と割り振られた。
■「こいつらの言う通りにしよう」
翌日、運転手役を含めて再結集した6人の実行役たちは、被害者宅付近で待機していた。すると、石栗と電話をつないでいた「キム」から、スピーカーフォンに切り替えるように指示が飛んだ。「キム」の口からはこんな言葉がかけられた。
「1人1人が主役だと思って頑張ってください」
実行役たちへの発破だった。しかし、石栗は「あー発破をかけているな、というくらいしか感じませんでした。テンションが上がるとかはなかったです」と当時の心境を述べている。
犯行はわずか7分で完結した。16時頃、石栗がインターホンを押し、出てきた女性をハサミで脅す。口元をガムテープで塞ぎ、声を出せないようにした。「殺すぞ」とドスを利かせながら、車で待機中の実行役たちに手招きをして突撃の合図を送る。突入してきた実行役の1人が家にいた別の男性をヘッドロックで拘束し、身体を押さえつけた。観念した男性は、「落ち着いて」「こいつらの言う通りにしよう」と抵抗する家人をなだめていた。
■指示に逆らい、金庫ごと盗み出す
そして、葛岡が家中を探しまわり、2つの金庫を探しあてる。
この間、実行役と指示役はテレグラム上で通話を繋いだままの状態だった。葛岡が「ルフィ」に金庫を見つけたことを報告すると、「(金庫を)2階から落とせ」などと指示が飛ぶ。
しかし、効率的とは思えず無視して手で車に持ち運んだ。実行役たちは車に駆け戻り、近くに停車していた逃走車に金庫を移し、ひたすら北上した。
「ボーナスやるからな」
興奮を隠せない「ルフィ」は、電話越しに労いの言葉をかけた。
「早く金庫の中身を確認してほしい」
「ルフィ」と「キム」からは、逃走中もそんなメッセージが届いた。茨城県に入り、人気(ひとけ)が少ない田園地帯で車を停車。そこで事前に用意したバールとハンマーを用いて、金庫を開ける。指示役の2人とはビデオ通話を繋いだまま、カネと金庫の中身を確認する。組織の中ではこの行為を「計数」と呼んだ。計数が終わると、金庫は付近の川に放棄した。奪ったのは3500万円の現金に、金塊や貴金属、高級ブランド品だった。
■3500万のうち実行犯は175万円
「強盗で奪ったうち、1350万円を確保してください」
そんな指示が「キム」から石栗に送られた。稲城事件の実行役として中心的な役割を担った石栗の取り分は175万円であった。
しばらくすると、真っ赤な「プリウス」が付近に停車した。「キム」の遣いだというハーフの男は石栗たちを一瞥すると、名前を名乗ることもなく慣れた手つきで残りのカネを確認し、すべてを持ち去った。
渡邉グループへの報酬は1300万円ほどとされる。「より多く実行役をリクルートした」という理由で、今村よりも150万円多かった。港区のカジノ業者に現金が渡り、渡邉のカジノ口座には経費や手数料などを差し引いた約600万円が振り込まれた。
本件に関わった実行役は7人。いずれも強盗致傷などの容疑でのちに逮捕されている。

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栗田 シメイ(くりた・しめい)

ノンフィクションライター

1987年、兵庫県生まれ。広告代理店勤務、ノンフィクション作家への師事、週刊誌記者などを経てフリーランスに。著書に『コロナ禍の生き抜く タクシー業界サバイバル』(扶桑社新書)、『ルポ 秀和幡ヶ谷レジデンス』(毎日新聞出版)。新著『檻の中のルフィ 闇バイトを生んだ者たち』(講談社)が発売中。南米・欧州・アジア・中東など世界40カ国以上でスポーツや政治、経済、事件、海外情勢などを幅広く取材する。

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(ノンフィクションライター 栗田 シメイ)
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