※本稿は、川島隆太『脳を休める!』(扶桑社新書)の一部を再編集したものです。
■脳を疲れさせる「3大悪習慣」
では、現代人の脳を疲れに気付きにくい状態に陥らせる行為には、どのようなものがあるのでしょうか。
私たちの研究で、特に影響が大きいものとして浮かび上がってきたのが、テレビ・動画、ゲーム、スマホ・タブレットの3つでした。
1.長時間のテレビ視聴
テレビ視聴は前頭前野を不活性化させるため、「あまり長時間でなければ」脳を休める効果が期待できます。「長時間でなければ」、との注意書きをつけたのには理由があります。長時間テレビを視聴すると、子どもは注意能力や言語能力が低下し、高齢者はアルツハイマー病発症のリスクになることが科学的に証明されているからです。
■「映像を見て勉強」の効果は微妙?
私たちの研究でも、テレビを長時間視聴する子どもたちは、大脳皮質(だいのうひしつ)(神経細胞層)の多くの領域で発達が遅れ、おそらくその結果として、すべての教科で学力が低くなることが明らかになりました。
では、どのくらいから悪影響が出始めるのでしょうか。子どもの学力のデータから推測すると、テレビ視聴は1日トータルで1時間以内であれば比較的安心だと考えられます。
ちなみに、テレビやビデオを使った映像授業でも前頭前野は不活性化してしまいます。これまでの脳科学・認知科学の研究成果から、学習効果を期待するには、学習中に前頭前野を活性化する必要があることが証明されているので、映像を見て勉強をするというのは、かなり難しいことだと考えています。
■ゲームと「脳の司令塔」前頭前野の関係性
2.長時間のテレビゲーム
テレビゲームは、テレビなどとは違ってプレイヤー自身が操作しながら進めるインタラクティブな情報処理を必要とします。ですから、ゲームをするのが適切な時間内であれば、前頭前野を活性化し、脳にポジティブな影響を与えることが可能です。
しかし、どのようなゲームであっても、ゲームの操作に慣れた途端に前頭前野は深く不活性化します。
もちろんその間も、視覚領域や聴覚領域、コントローラーを操作するために運動領域や感覚領域は活性化してしまいますが、「考える」「判断する」といった前頭前野の働きは低下していきます。
■ゲームをやめた後も脳は鈍ったまま
通常、外部からの刺激は、視覚や聴覚をはじめとした感覚情報として大脳に伝えられます。そして、感覚情報は前頭前野に送られて、意味や価値が判断されるので、目で見たもの、耳で聞いたものの情報が多いと前頭前野も活発に働きます。
デジタル・スクリーンからは、多彩な視覚・聴覚情報が流れ込んでくるため、特にゲームであれば前頭前野は活発に働きそうなものです。しかし、前頭前野が活性化したのは、刺激的な視覚・聴覚情報によるものではなく、ゲームの操作に慣れるために試行錯誤をくり返したからだと考えられました。そして、この抑制現象はゲームの種類に関係なく起こりました。
さらに、ゲームをやめて30分後に前頭前野を働かせる必要のある課題に取り組んでもらったのですが、働きは悪いままでした。また、パソコンモニターよりタブレット、タブレットよりスマホと、画面が小さくなればなるほど、前頭前野の抑制現象が強くなることがわかっています。
皆さんもどこかで聞いたことがあると思いますが、多くの研究が、子どもたちが長時間ゲームをするとすべての教科で学力が極端に下がり、言語能力や情動の制御能力も低下してしまうことを証明しています。
■前頭前野を働かせるゲームが「脳トレ」
さらに私たちは、子どもたちがゲームを長時間行うと、大脳皮質の深部にある、大脳白質(だいのうはくしつ)の発達が遅延することを証明しました。大脳白質とは、脳のさまざまな場所をつないで情報交換を行うネットワークの基盤となる、いわば脳をつなぐ電線です。
では、適切なゲームの使用時間はどれくらいか? というと、テレビ視聴と同じように子どもの学力のデータから推測すると、1日1時間以内であれば安心と考えられます。
ここで、いろいろな方面からブーイングが聞こえてきそうです。「お前さんが世に出した脳トレもゲームだろう。脳が不活性化するなら、脳を鍛えることなんてできないはずだ」と。
書籍や講演などで「弁明」は何度もしているので、そんな声に手短にお答えすると、私たちは前頭前野が活性化するゲームアプリをつくるために、脳活動計測実験にたくさんの費用と時間を費やしました。その血と涙の結晶が、世に出ている脳トレなのです。
■「悪い脳の疲労」をもたらす真犯人
3.スマホ・タブレット
もう生活必需品となっているスマホやタブレット(ここからは代表してスマホとします)、これも強力に、コンテンツによらず前頭前野を不活性化します。
ビデオを見ていても、音楽を聴いていても、SNSに興じていても、前頭前野は不活性化します。スマホ操作中は、視覚領域、聴覚領域、運動領域を使いますが、前頭前野は不活性化しますので、脳を休ませることに使えそうに思えます。しかし、私はスマホを「悪い脳の疲労」をもたらす真犯人だと考えています。
スマホを操作しているときには往々にして、マルチタスクと呼ばれるように、さまざまなアプリを切り替えています。テレビやゲームと違い、まったく属性の異なる非常に多くの刺激が長時間にわたって流れ込み、脳は情報の処理を強いられます。そのため、情報の入り口である視覚や聴覚領域の脳はフル回転して働いています。
しかし、前頭前野は不活性化していますから、脳が疲れたというサインを知覚することは難しいのです。視覚や聴覚の情報を処理する脳はへとへとに疲れているはずなのに、そのサインがなかなか脳の持ち主に伝わってこない可能性が高いのです。
■1日1時間以上のスマホが与える悪影響
こうしたスマホの長時間使用がもたらす影響に関して、ようやくさまざまな研究成果が出始めています。幼児では、1日1時間以上の利用で、問題行動の増加、運動能力の低下、聞く力や語彙力が低下することがわかっています。児童や生徒では、長時間のスマホ使用によって、すべての教科で学力が極端に低下しています。
私たちは、毎日長時間のスマホ利用によって、大脳皮質の多くの領域や大脳白質のほとんどの領域での発達遅延があることを証明しました。おそらく、このように脳発達が遅延することが学力低下の原因です。
また、スマホの長時間の使用は睡眠の質を下げ、それが認知機能だけではなく、運動機能や健康にも悪影響を与えることがわかっています。大学生を詳しく調べると、スマホを長時間使用する学生は、大脳白質に老化のサインが出ており、自尊心が低く、不安・抑うつ傾向が強い、共感性や情動制御能力が低いといった症状も出ていました。
■「安全圏内」の子どもは10%未満
いずれも毎日1時間未満の使用では、悪影響は認められていません。しかし、スマホの使用時間に関する内閣府の調査を見ると、乳幼児から小学校低学年で1日平均2時間、さらに成長に伴い使用時間平均は伸びていき、中学生で1日約3時間半、高校生以降は1日6時間以上も使っています。高校生以降の成人では、おそらく安全と考えられる1時間未満で利用をやめている割合は、10パーセント未満です。
多くの国民が、脳を休ませるのではなく、脳に深刻なダメージを受け続けているのが現実です。
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川島 隆太(かわしま・りゅうた)
東北大学加齢医学研究所教授
1959年千葉県生まれ。医学博士。東北大学医学部卒業、同大学院医学研究科修了。スウェーデン王国カロリンスカ研究所客員研究員、東北大学加齢医学研究所助手、講師、所長を経て、現在は同研究所の教授を務める。脳活動のしくみを研究する「脳機能イメージング」のパイオニアであり、脳機能研究の第一人者。ニンテンドーDS用ゲームソフト「脳を鍛える大人のDSトレーニング」シリーズを監修。『脳を鍛える! 人生は65歳からが面白い』『欲しがる脳』(共著/扶桑社)、『とっさに言葉が出てこない人のための脳に効く早口ことば』(サンマーク出版)など、著書、監修書多数。認知症高齢者や健常者の認知機能を向上させるシステムの開発や、「脳を鍛える」をコンセプトとする産学連携活動に尽力している。
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(東北大学加齢医学研究所教授 川島 隆太)

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