学校で何かあって子供が泣きじゃくり、怒り・哀しみに包まれている時、親はどうすればいいのか。公認心理師の柳川由美子さんは「親は子供に問いただしたり、『そんなことないよ』と無理に否定したりしなくても、大波を静める方法がある」という――。

※本稿は、柳川由美子『がんばり過ぎる親の心を休ませる子育ての不安と孤独をほぐす心理学』(実務教育出版)の一部を再編集したものです。
■どんなに荒れた感情もやがて静まる「波」
子どもの不安や怒り、悲しみに向き合う時、親の私たちは「早く泣き止ませなきゃ」と焦りがちです。でも、感情は押さえ込んだり、「どうして?」と理由を探し続けたりするものではありません。それは、ただ通り過ぎていく自然現象――「波」や「雲」のようなものです。
強い不安や怒りに包まれると、「この苦しい気持ちが一生続くのではないか」と錯覚してしまうものです。
でも、“90秒マントラ”を思い出してみてください。どんなに激しい感情も、ずっとは続きません。感情は、寄せては返す「波」のように必ず引いていくのです。
「マントラ」とは、心を落ち着かせるために繰り返す短い言葉のこと。怒りがこみ上げた瞬間、まずは深呼吸しながら、心の中で「私は落ち着ける」と唱え、最初の6秒をやり過ごす。そして、続く90秒間は、感情を鎮めるための“やさしい言葉”を自分に繰り返してあげてください。
(例:「私はベストを尽くしている」「怒りも私の一部だけど、それがすべてじゃない」「この状況だったら怒りたくもなるよね。
わかるよ」など、自分がホッとする言葉)
「今、不安の波が来ているな」と気づき、ただ見守ることができれば、波は自然と小さくなっていきます。「どうしてこんな気持ちになるの?」と理由を探すよりも、「これは一時的な波だ」と気づくことが、心をやさしく保つコツです。
■「波」に飲まれず、ただ見守る
では、大波が来た時、具体的にどうすればいいのでしょうか。
まずは、「胸がザワザワしている」「涙が出てきた」と心の中で実況中継してみてください。言葉にすることで、感情と自分の間に距離が生まれます。そして、「不安が来ているな」とただ観察します。「なんで?」「どうしよう」と、さらに不安になるような考えを継ぎ足さなければ、波は自然に静まります。
それでも波に飲まれそうな時は、呼吸のリズム、手のぬくもり、足裏の安定感など、自分の五感に注意を戻してみましょう。身体の感覚に意識を向けることで、思考の嵐から抜け出し、「今、ここ」に帰りやすくなります。
■感情は流れる「雲」、心の奥には「青空」あり
「波」の他に、もう1つ心が軽くなるイメージとして、“雲と青空”があります。
不安や怒りは、空に浮かぶ「雲」に過ぎません。雲の奥には、いつでも澄み渡る「青空(本来の穏やかなあなた)」が広がっています。

雲を無理にどけようとすると、かえって意識が向き、濃くなってしまいます。「そこにいていいよ」と受け止めれば、雲は風に流され、また青空が顔を出します。マインドフルネスの実践では、思考や感情を“空に浮かんでは流れていく雲”として観察することで、心の静けさと回復力を育てていきます。
■波と青空を共有した親子
ある小学生の女の子が、「もう誰も私と遊んでくれない」と泣き続けたことがありました。お母さんは理由を問いただしたり、これまでのように「そんなことないよ」と否定したりせず、そっとこう言いました。
「今は悲しみの波が大きいね。でも、波はきっと小さくなるよ」
娘の手を包みながら、2人で呼吸を合わせ、窓の外の音に耳を澄ませます。「頭の上にも空が広がっているね」と伝えると、娘さんの呼吸は静まり、涙も止まりました。
やがて波が引いて落ち着いた彼女は、ポツリと「今日、私がわがまま言っちゃったんだ」と話し始めました。そして「明日、私から『ごめんね』って言ってみる」と、自ら答えを見つけ出したのです。
お母さんは「感情を無理に変えようとしなくても、ただ青空に帰れば、子どもは自分で考えられるんだ」と思ったそうです。
■親の心が静まると、子どもも安心できる
低学年の子どもに「波」や「雲」の比喩は少し難しいかもしれませんが、絵や動きを交えると意外にスっと伝わります。
高学年になれば、「気持ちはずっと続かないんだ」と自然に理解できるようになるでしょう。
大切なのは、まず親自身が「自分も今、波の中にいるな」「青空に戻ろう」と気づくこと。親が自分の心を静められると、子どもを急かしたり、怒鳴ったりせずに寄り添えるようになります。親の静かな姿そのものが、子どもに「大丈夫なんだ」と伝える一番の安心につながるのです。
■心を“青空”に戻す五感ワーク
心がざわついた時は、次の手順で心と身体を“青空”に戻してあげましょう。
①今の感情を実況中継する

②ゆっくり呼吸しながら、手のぬくもりなど身体の感覚に意識を置く(30秒)

③外の車の音、風、鳥の声など、空間の音をただ聴く(30秒)

④意識を前後・左右・上下へと広げ、自分を包む空間全体を感じる(30秒)
心と身体が、ふっと静けさに包まれる感覚。それが、あなたの心にある“青空”です。最後に、この言葉をお守りにしてください。
「雲は流れ、青空は残る」

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柳川 由美子(やながわ・ゆみこ)

公認心理師

公認心理師、臨床心理士の資格を持つ不安専門カウンセラー。鎌倉女子大学児童学部子ども心理学科を卒業後、東海大学大学院の前期博士課程を修了。もともとはピアノ教師だったが、義母の末期がんの看病をきっかけにカウンセラーを志す。自身の不安症を克服した経験から、大学院では「脳は心を解き明かせるか」「脳から見た生涯発達と心の統合」などを学ぶ。
2005年より大学やメンタルクリニック、企業研修などで活動を開始し、現在は「メディカルスパ西鎌倉」「メディカルスパみなとみらい」でカウンセリングを行う。1万2000回以上の個人セッション経験を通して発見した共通パターンに基づき、独自のメソッドで相談者を解決に導いている。著書に『不安な自分を救う方法』(かんき出版)、『晴れないココロが軽くなる本』(フォレスト出版)がある。

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(公認心理師 柳川 由美子)
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