「いやいや、それは絶対におかしいでしょ」。自分と意見を異にする場合、どう言えばいいのか。
エグゼクティブ・コーチで否定しない専門家の林健太郎さんは「心理学者のジョン・ゴットマン博士は『成人同士の会話の69%には明確な正解がない』と言っている。否定をせず、相手の意見を尊重する姿勢を見せることも大切だ」という――。
※本稿は、林健太郎『否定しない言い換え事典』(フォレスト出版)の一部を再編集したものです。
■「いやいや、それは……」と言いたい時に
NG 「それは絶対に変だよ」「いや、それはそうじゃなくて……」

言い換え 「自分はそう思わないけど、いろんな考え方があるよね」
気心の知れた仲間と過ごす時間。あるいは、役職や立場をいったん外して話す会社の集まり。そんな席で、話している相手が、自分の価値観と異なる主張をしてきたとき。
そんなカジュアルな席では、ついつい、「いやいや、それは絶対におかしいでしょ!」と気軽に相手の意見を否定してしまいがちです。
リラックスした場だからこそ、つい言葉に遠慮がなくなりがちで、相手もそれに対して遠慮がなく「全然、おかしくないね!」と返してきたとしたら、そのうち口論になってしまう……。
こうした不毛なやり取りは、実は、誰か特別な人たちの話ではありません。日常のあちこちで静かに、あるいは派手に起きています。
以前、私が立ち寄った居酒屋さんでも、まさにそんな場面を目にしたことがありました。
「オレはねぇ、あの場面では、絶対に○○するべきだったと思うね!」

「違う違う、あそこは、あれで正解だったんだよ!」
お互いにヒートアップしていて、さぞや大事なビジネスについての議論かと思ってつい聞き耳を立ててしまいました。

■「会話のおよそ69%には明確な正解がない」
アメリカの著名な心理学者、ジョン・ゴットマン博士はこう言っています。
「成人同士の会話のおよそ69%には明確な正解がない」
これはプライベートな会話でも、それこそ会社におけるビジネス的な会話でも同じ。たとえば、子育ての方針であっても、企業の経営戦略であっても、現実世界においては、その7割近くについて、明確な正解は存在しないことがゴットマン博士の調査から示されています。そして、今は世の中の動きが早く、人の価値観も多様化しているので、明確な正解がない場面は、以前よりさらに増えているようにも感じます。
このデータをもとに考えるとすれば、正解がない話題で正しさを競うことは、本当に生産的、あるいは合理的なのだろうか、という疑問が湧くはずです。どちらかというと、会話が壊れていく可能性が高い選択肢なのではないでしょうか。
そうであれば、否定をせず、「自分はそうは思わないけど、そういう考え方もあるね」と、相手の意見を尊重する姿勢を見せることが大切そうです。「見解の承認」ですね。
実際、世の中で大成功するアイデアは、会議で初めて提案されたとき、反対意見の集中砲火を浴びることが多いと聞きます。
つまり、誰もが「間違っている」と思うような意見も、「本当に間違っているの?」と考えると、「間違いとも言い切れない」ということなのかもしれません。
そういう認識があれば、「相手の意見を否定する必要はない」と素直に思えますよね。
■驚いたり、イラッとしたりしたときの第一声
NG 「は?」

言い換え 「えっ?」
驚いたとき、予想外のことを言われたとき、人はどうしても反射的に声を出してしまいます。
その代表例が「は?」です。
「は?」という言葉自体が、必ずしも悪いわけではありません。ただ、この言葉は口を縦に開く発音になります。そのため、表情も強く、鋭くなりやすく、相手には威圧的なニュアンスとして伝わりやすいのが特徴です。
あなたはただ驚いただけでも、相手には「責められた」「否定された」と感じさせてしまうリスクがあります。
そんなときにおすすめしたいのが、「えっ?」という言葉です。
「えっ?」は口の開きが横に広がるため、表情としては笑顔に近く、柔らかい印象を与えやすい言い回しです。同じ驚きでも、ポジティブな響きに寄せていけるのが特徴です。
■「は?」と言った後の仕切り直し
「は?」が「えっ?」に変わっただけ。とてもシンプルな言い換えですが、表情には大きな違いが出ます。その分、相手に伝わるニュアンスの変化幅も大きくなります。
ぜひ鏡を見ながら、「は?」と「えっ?」の表情の違いを、ご自身で確認してみてください。

ここまで読んで、「シンプルな言い換えだけど、それすらできないときもあるよね」と感じた方もいるかもしれません。
そんな方も、心配はいりません。考える前に、無意識に反応して、言葉が先に出てしまうことは誰にでもあります。そんなときには、伝えた言葉をそのまま放置せず、気づいたその瞬間に、一度仕切り直してみましょう。
たとえば、こんな言い回しです。
■「は?」と言った後の仕切り直し例
「は?……あ、違う。今の言い方良くなかった。もう一回言うね」
「は?」という言葉は出てしまったものの、自分で気づいて修正する。
これが、ここでお伝えしたい「仕切り直し」です。この仕切り直しをしないまま会話が進むと、相手の中には「否定された」という印象が、強く残りやすくなります。
一方で、仕切り直しが入ることで、相手には「否定されたと感じたけれど、ちゃんと言い直してくれた」。そんなポジティブな印象が残りやすくなります。

ここでやっているのは、取り繕うことでも、うまく振る舞うことでもありません。無意識に出てしまった言葉を、そのまま進ませず、一度立ち止まらせているだけです。
この一拍があると、会話はあなたが望む方向に立て直しやすくなります。否定しないコミュニケーションで大事なことは、ただ反射的な言葉を封印することではなく、咄嗟に言葉が出てしまう前提で、そのあとにどう振る舞うかを選べるようになること。
そこに気づければ、大切な人と手をつなぎやすくなります。
勇気を持って、使ってみましょう。

----------

林 健太郎(はやし・けんたろう)

否定しない専門家/コーチ

合同会社ナンバーツー代表。エグゼクティブ・コーチ。リーダー育成家。一般社団法人国際コーチング連盟日本支部創設者。1973年、東京都生まれ。バンダイ、NTTコミュニケーションズなどに勤務後、プロコーチを目指して海外修行に出る。
帰国後、2010年にコーチとして独立。大手企業などで延べ2万人以上のリーダーにリーダーシップを指導。企業向けの研修講師としての実績も豊富で、フェラーリ社の日本の認定講師を8年間務めるなど、リーダー育成に尽力。チームビルディングの専門家としても活動し、多くのチームの再生に貢献。より良いリーダーになりたい方への個別指導プログラムも提供している。プライベートでは2児の父として育児に奮闘中。著書に、シリーズ25万部を超えるベストセラーとなった『否定しない習慣』『子どもを否定しない習慣』(以上、フォレスト出版)、『人間関係の悩みがなくなる 期待しない習慣』(朝日新聞出版)、『「ごめんなさい」の練習』(PHP研究所)、『チームが「まとまるリーダー」と「バラバラのリーダー」の習慣』(明日香出版社)、『なぜか干渉される人 思わず干渉してる人』(ダイヤモンド社)ほか多数。

----------

(否定しない専門家/コーチ 林 健太郎)
編集部おすすめ