夏に発症リスクが高まる疾患のひとつが、尿路結石だ。産業医の池井佑丞さんは「夏場は発汗によって体内の水分が失われ、尿が濃縮されやすくなるため、1年の中で最も尿路結石の発症リスクが高まるシーズンとされている。
日常で取り組める予防策を実践してほしい」という――。
■男性の「約7人に1人」が一度は発症
「三大激痛」の一つに数えられ、経験者に「脂汗が出て一歩も動けない痛み」「背中を鋭利な刃物で刺されたような痛み」などと例えられる疾患があります。
それは「尿路結石」です。
国内での調査によると、尿路結石は決して稀な疾患ではありません。尿路結石の多くを占める「上部尿路結石」については、男性では生涯罹患率がおよそ10~15%に達し、約7人に1人、女性でも約15人に1人が一生のうちに一度は発症すると報告されています(Sakamoto et al., 2018日本泌尿器科学会ら,2023)。
特に男性の場合は40~50代の働く世代に多く見られるのが特徴で、重要なビジネスシーンで突然発症すれば、強い疼痛に加えて仕事にも大きな影響を及ぼしかねないため、現役世代の生活に直結する疾患といえます。
特に夏場は、発汗によって体内の水分が失われ、尿が濃縮されやすくなるため、1年の中で最も尿路結石の発症リスクが高まるシーズンとされています。
そこで今月は、夏に結石が増えるメカニズムと、日常で取り組める予防策について解説していきます。
■前触れなく鋭い激痛に襲われる
尿路結石とは、尿中に含まれるカルシウムやシュウ酸、尿酸などの成分が過剰となり、飽和状態となることで結晶化し、体内で「石」のように固まってしまう疾患です。形成された結石が、腎臓から尿道まで続く尿の通り道のどこかで停滞し、尿の流れを妨げることで様々な症状を引き起こします(日本泌尿器科学会ら,2023)。
結石が存在する部位によって「腎結石」「尿管結石」「膀胱結石」などと呼び名が変わりますが、いわゆる結石による激痛の多くは、直径数ミリメートル程度しかない細い尿管に詰まることで生じます(尿管結石)。
このときの痛みが極めて強い理由は二つあります。

一つは、結石が尿管の狭い管腔を通過しようとする際に粘膜を刺激・損傷すること、もう一つは尿の流れが妨げられることで腎臓側(腎盂)の内圧が急激に上昇することです。これにより、腎臓周囲の神経が強く刺激され、激しい痛みとして認識されます。
典型的な症状としては、前触れなく片側の脇腹から背中、さらには下腹部や足の付け根にかけて、差し込まれるような鋭い激痛が突発的に出現します。痛みのあまり直立姿勢を保つことが困難となり、冷や汗を流しながらのたうち回るような状態になることも少なくありません。
また、自律神経系の反応により、強い吐き気や嘔吐を伴うこともあります。さらに、結石が尿路粘膜を傷つけることから肉眼で血尿がみられたり、尿検査で“尿潜血陽性”として確認されることもあります(Coe et al., 1992Moe, 2006)。
■夏は発症リスクが高まる
前述のように、尿路結石は尿中の成分が結晶化し、尿路内で閉塞を起こすことで強い痛みを引き起こす疾患です。この「結晶化のしやすさ」は、尿の濃度に大きく左右されます。
夏場は発汗量が増加し、体内の水分が失われやすくなります。ここで十分な水分補給が追いつかない場合、身体は循環血液量を維持するために腎臓での水分の再吸収を高め、その結果として尿量が低下します。尿量が減少すると、尿中に含まれるカルシウムなどの成分濃度が相対的に上昇するため、「尿が濃縮された状態」となります。
コップの水を蒸発させていくと、水の量が減るほど塩が溶けきれなくなって結晶として現れるのと同じ原理です。
濃縮された尿の内部でも成分が「過飽和状態」となり、結石の形成へと進行しやすくなります(Coe et al., 2005)。
気温と尿路結石の発生率の関連について調べた研究では、気温の上昇と結石発作の発生数は連動することが認められており、気温の上昇に伴い発症リスクは約1.1~1.5倍に増加することが報告されています(Noh et al., 2021; Tasian et al., 2014)。
つまり、夏は年間を通じて最も発症リスクが高まるピークシーズンといえるのです。
特に、働く世代の日常には、このリスクが潜む場面が数多く存在します。エアコンの効いた室内での長時間のデスクワークであっても、自覚のないまま水分が失われる“不感蒸泄”によって脱水は進行します。また、外回りの営業、週末のゴルフ、屋外イベントへの参加など、発汗量が増える場面では、適切な水分補給が遅れることで尿の濃縮が進行しやすくなります。さらに、「忙しくてトイレに行く時間がないから」と水分摂取を控える行為も、結果的に結石リスクを高める要因となり得ます。
■「尿路結石になりやすい人」の条件
尿路結石は単一の原因で発症するものではなく、遺伝的要因、体質、食事などの生活習慣といった複数のリスク因子が重なり合うことで形成されます。
まず、個人の背景にある強いリスク因子として「家族歴(遺伝的要因)」と「代謝異常(肥満)」が挙げられます。
血縁者に尿路結石の既往がある場合、そうでない人と比べて発症リスクは約2.6倍に上昇することが報告されています(Curhan et al., 1997)。
また、米国で約24万人を対象に行われた大規模調査によると、肥満(BMI 30以上)の人は標準体型の人と比べて、尿路結石のリスクが男性で約1.4倍、女性で約2倍高まることが示されました(Taylor et al., 2005)。これは肥満に伴う代謝の変化が、尿の性質を変化させ、結石が形成されやすい状態をつくる可能性があるためと考えられています。

■結石リスクを高める食事
そして、日常生活に直結する重要な因子が「食事」です。特に次の4つの食事要因は、相互に関連しながら結石リスクを高めることが知られています。
まず一つ目に「動物性たんぱく質の過剰摂取」です。
肉類の摂取量が多い人は、少ない人に比べて結石リスクが約1.2倍に上昇し、さらに赤身肉の摂取量が100g増えるごとにリスクが約1.4倍高まることが報告されています(Ferraro et al., 2020)。
動物性たんぱく質の過剰摂取は、結石の材料となるカルシウム濃度を高めるとともに、結石が形成されやすい尿環境をつくることが知られています。
第二の要因は「塩分の過剰摂取」です。
塩分摂取量の増加は、尿路結石の発症リスクを約1.3~1.6倍に上昇させることが示されています(Dai and Pearle, 2022)。ナトリウムの摂取量が約2.3g(食塩換算で約6g)増えるごとに、尿中へのカルシウム排泄は約40mg増加するとも言われています。
■「カルシウム」と「シュウ酸」
そして第三・第四の因子として、「低カルシウム食」と「シュウ酸の過剰摂取」が挙げられます。
カルシウム摂取が少ないグループでは、適切に摂取しているグループよりも、結石リスクが約1.5倍高くなることが報告されています(Ferraro et al., 2020)。これは、カルシウムが不足すると、腸の中でシュウ酸(結石の主成分の一つ)と結合できなくなり、吸収されるシュウ酸が増えるためと考えられています。
こうした個人の生活習慣や体質的なリスク因子に加え、夏場の気温の上昇という環境要因が重なることで、結石のリスクはさらに高まることになるのです。

■全身からのイエローカード
ここまで述べてきたように、尿路結石は尿路内の局所的な疾患ではなく、生活習慣や代謝状態と密接に関連しており、“全身性の病態”として理解する必要があるといえます。
実際、尿路結石の既往がある人は、心筋梗塞や脳卒中といった心血管疾患の発症リスクが、既往のない人と比べて約1.2~1.4倍高いことが報告されています(Liu et al., 2014)。さらに、慢性腎臓病へ進行するリスクも約1.7倍に上昇することも示されています(Alexander et al., 2012)。
過剰に恐れる必要はありませんが、これらのデータが示しているのは、結石ができやすい体内環境そのものが、すでに血管や腎臓に負担をかけている可能性があるという事実です。つまり、尿路結石とは単なる局所のトラブルではなく、将来の健康リスクを映し出す「全身からのイエローカード」として捉えることができます。
だからこそ、痛みの予防にとどまらず、将来の健康寿命を守るという観点からも、日常的な予防行動が重要になります。
■尿の色は「無色透明からごく薄い淡黄色」が理想
尿路結石は、正しい生活習慣を身につけることで発症リスクを大きく低下させることができる疾患です。
予防の基本は、水分摂取・食事・運動といった生活習慣の改善ですが、その中でも最も重要なのは、水分摂取を増やし、尿を十分に薄めることです。日本泌尿器科学会のガイドラインでは、食事以外に1日2リットル以上の水分を摂取することが推奨されています。ある研究では、1日の尿量を2リットル以上に維持するよう指導されたグループは、特別な指導を受けなかったグループと比べて、5年後の再発率が有意に低下し、再発率は約半分以下だったことが報告されています(Borghi et al., 1996)。
水分が十分に摂れているかを確認するための実用的な指標は「尿の色」です。濃い黄色や茶褐色に近い場合は、尿が濃縮されているサインと考えられます。
無色透明からごく薄い淡黄色の状態を保つことが理想なので、トイレの際に「尿の色」をセルフチェックする習慣を持つようにしましょう。
また、水分摂取は喉の渇きを基準にするのではなく、あらかじめスケジュールとして組み込むことが重要です。例えば「1時間にコップ1杯(約200ml)を飲む」といったルールを設定し、デスクワーク中でも機械的に水分補給ができる環境を作るとよいでしょう。
■食事ではカルシウムを十分に摂取する
さらに、食事についても意識を向けることが大切です。特に重要なポイントは以下の4点です。
・塩分の過剰摂取を避ける(男性7.5g/日未満、女性6.5g/日未満が推奨、ただし高血圧や慢性腎臓病を有する場合、男女とも6.0g/日未満が目標)

・動物性たんぱく質の過剰摂取を避ける(年齢差があるが、おおむね摂取エネルギーの13~20%が目標)

・適切なカルシウム摂取の維持(男性600~800mg/日、女性500~650mg/日が推奨)

・シュウ酸を多く含む食品(ほうれん草、ナッツ、チョコレート、コーヒーなど)の過剰摂取を避ける
特に重要なのは「低カルシウム食を避けること」です。食品に含まれるカルシウム自体は、尿の中で石を作る直接の原因にはならず、むしろ腸管内でシュウ酸と結合し、その吸収を抑える役割を担ってくれます。
また、発汗で尿が濃縮した状態で、夜に「肉類中心の食事」や「シュウ酸を多く含む食品の偏った摂取」が重なると、結石形成リスクの上昇につながります。シュウ酸を多く含む食品を摂る際は、乳製品や大豆製品、小魚などカルシウムを含む食品を組み合わせることで、腸内でのシュウ酸の吸収を抑えることができます。
■生活習慣で予防しやすい疾患
尿路結石は「のたうち回るほどの激痛」という側面ばかりが強調されがちですが、実は日頃の生活習慣によって発症前から予防しやすい疾患の一つです。医療の力を必要とする前段階で、自らの行動によってリスクをコントロールできる余地が大きい点は、この病気の特徴と言えます。
この夏、普段の水分摂取量を少し意識してみる。

その小さな心がけが、ある日突然、仕事や生活を中断させかねない“最大級の痛み”を遠ざける、最も現実的で確実な備えとなります。

※参考文献

・日本泌尿器科学会,日本尿路結石症学会,日本泌尿器内視鏡・ロボティクス学会.尿路結石症 診療ガイドライン 2023年版 第3版.医学図書出版.2023.

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池井 佑丞(いけい・ゆうすけ)

産業医

プロキックボクサー。リバランス代表。2008年、医師免許取得。内科、訪問診療に従事する傍らプロ格闘家として活動し、医師・プロキックボクサー・トレーナーの3つの立場から「健康」を見つめる。自己の目指すべきものは「病気を治す医療」ではなく、「病気にさせない医療」であると悟り、産業医の道へ進む。労働者の健康管理・企業の健康経営の経験を積み、大手企業の統括産業医のほか数社の産業医を歴任し、現在約1万名の健康を守る。2017年、「日本の不健康者をゼロにしたい」という思いの下、これまで蓄積したノウハウをサービス化し、「全ての企業に健康を提供する」ためリバランスを設立。

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(産業医 池井 佑丞)

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