年齢を重ねると増えてくる不眠の悩み。睡眠薬に頼らず、心地のいい眠りにつくには何をするといいか。
医師の池谷敏郎さんは「深部体温が急激に下がると、脳は強い眠気を感じる。この体のメカニズムを利用して、就寝前にベッドの上で2、3回繰り返すと、自然な眠気が促される快眠体操を紹介する」という――。
※本稿は、池谷敏郎『血管の専門医が30年間欠かさない すごい習慣』(エクスナレッジ)の一部を再編集したものです。
■人間が「寝返りを打つ」生物学的な3つの理由
皆さんは、「よい睡眠」というと、どのような姿を思い浮かべるでしょうか。布団に入ってから朝まで、微動だにせず、死んだように眠ること……ではありません。
落ち着きなくパタリパタリと寝返りを打つのは、眠りが浅い証拠……といったイメージがありますが、実は、「体が欲するままに『寝返り』を打つ」のは、体の回復を助ける大切な要素です。
人間は一晩に平均して20回~30回ほど寝返りを打つといわれていますが、実はそれには次のような生理学的な理由があります。
①血管・筋肉・関節のストレッチ
長時間同じ姿勢で寝ていると、体重によって特定の血管や筋肉、関節やリンパ管が圧迫された状態になります。結果、血流が滞り、酸素や栄養が届かない「局所的な虚血状態」に。すると脳が「このままだと血流が止まって危ない!」という信号を出し、無意識に体を動かして寝返りをすることで圧迫を解除します。
②体温調節と湿度のコントロール
寝床(布団の中)は、体温によって温度と湿度が上昇し続けます。熱がこもり、発汗による体温調節ができなくなって深部体温が適切に下がらないと、脳は深い睡眠(ノンレム睡眠)に入ることができません。
寝返りは布団の中の空気を入れ替え、熱を逃がして皮膚温度を下げる効果があります。
③背骨の矯正
寝返りは、日中の活動で歪んだ背骨の配置をリセットする効果も。また、関節液を循環させて関節を滑らかに保つ役割も果たしているのです。
■寝返りは疲労回復を助ける“無意識の整体”
日中の体のゆがみを矯正し、睡眠が深くなるように体温を調整する。この寝返りの働きが十分になされることで、覚醒後にはすっきりと疲労回復をすることができているのです。
実際に、広島国際大学の研究では寝返り回数が多い人ほど、起床したときの「疲れがとれた」実感が高いことが確認されています(図表1参照)。
つまり、寝返りは私たちが睡眠中、無意識に行っている整体であり、疲労回復法ということ。寝返りを打たない睡眠は、疲労回復どころかエコノミークラス症候群のように血栓のリスクを高め、朝起きたときの「体のバキバキ感(腰痛・肩こり)」の原因になって疲れをますます加速させることにもなりかねません。
次から快適に寝返りができる睡眠をとるために、私が日常から心がけていることをご紹介しましょう。
■良質な睡眠に導く寝具の種類
睡眠中の寝返りを邪魔せず、体が求めるままできるように私が常日頃実践しているのが、次の2つ。良質な睡眠で疲れをすっきりとるためにも、皆さんもぜひお試しを。
①寝るときは「スポーツウエア」
スムーズな寝返りを実現するために、私はスポーツウエアを着て寝ています。
「パジャマじゃだめなの?」と思うかもしれませんが、伸縮性のない綿のパジャマは体を動かすときにつっぱるので、寝返りの邪魔になってしまいがち。
私が愛用しているのは、ジムで着るような、伸縮性が高く、表面がツルツルとしたスポーツ用のウエアです。スポーツウエアは激しい動きを想定してつくられているため、どんなに体をねじっても生地が突っ張りません。また、最近のスポーツウエア用の生地は吸汗速乾機能が高いので、睡眠中の体温コントロールにも優れているので快適そのもの。
ただし、スポーツウエアとはいっても首周りの邪魔になるフード付きパーカーや体温調節が難しくなる裏起毛生地は避けることをおすすめします。
②自分の首にあった枕や寝具にこだわる
枕は高すぎると首が前に折れ、気道を塞いで「いびき」の原因になりますし、柔らかすぎると頭が沈み込んで寝返りが打ちにくくなります。理想の枕は、寝返りを打っても高さが変わらず、頭が沈み込まない、適度な硬さのある平らなもの。
最近はさまざまなメーカーが高機能をうたった枕を開発していますし、オーダーメイド枕も多種多様に揃っていますので、自分にあった枕を探すことをおすすめします。枕を変えるだけでいびきが治る人も少なくありません。
私が推奨しているのは、山田朱織枕研究所が開発した「整形外科枕ドクターズピロー」。寝返りしやすい構造で、5mm間隔で高さ調整も自分でできるところが気に入っています。
■睡眠薬の使用は「最終手段」に
50代、60代と年齢を重ねるにつれて、不眠の悩みを抱える方は増えていきます。

しかし、眠れないことを過度に恐れ、すぐに薬に頼ってしまうのは、血管と脳の若さを保つ観点からは非常に危険な選択。不眠を訴える方の多くが、安易に睡眠薬(睡眠導入剤)を服用しており、診察室でも処方を希望される方が少なくありません。しかし、私としては睡眠薬の使用は「最終手段」にすべきだと考えています。
睡眠薬は脳の活動を強制的にシャットダウンさせるため、長期間の服用は、思考能力の低下、意欲の減退、さらには転倒による骨折のリスクを高めます。特に中高年において「最近、元気がなくなった」「物忘れが増えた」と感じている場合、実は薬の影響であるケースも少なくありません。
まずは生活習慣を見直し、自力で眠る力を取り戻すことが、脳の若さを守ることにつながります。
そこで本稿では、私が日ごろから実践し、眠れない悩みを持つ患者さんにもお伝えしている「池谷式不眠対策法」の極意をお伝えしましょう。
■血管と脳を若返らせる不眠対策法
不眠解消極意1 「8時間熟睡」へのこだわりを捨てる
まず知っておいていただきたいのは、「年齢とともに睡眠の質と時間は変化するのが当たり前」という事実です。
若い頃のような「泥のように眠る」感覚は、体力の低下や基礎代謝の変化に伴い、自然と薄れていきます。夜中に目が覚める、あるいは早朝に目が開いてしまうのは、体が以前ほど長い休息を必要としなくなっている「自然な証拠」でもあります。
「眠らなければならない」という強迫観念そのものがストレスとなり、血管を収縮させ、さらなる不眠を招くという悪循環に陥っている方が少なくありません。
多少眠りが浅くても、日中に強い眠気で支障が出ない限りは「これが今の自分のリズムだ」と、おおらかに構えることが快眠への第一歩です。

不眠解消極意2 就寝2時間前には「絶食」する
血管を休ませ深い眠りに入るためには、寝る2時間前には食事を終えることが必要です。胃の中に食べ物が残った状態で眠りにつくと、体は睡眠中も消化活動を続けなければならず、内臓が休まりません。
また、消化のために血液が内臓に集中するため、脳や全身の修復に必要な「深部体温の低下」が妨げられ、眠りが浅くなってしまいます。夕食は早めに済ませ、「空腹での就寝」をすることをおすすめします。
■夜に自然な眠気を呼び込む朝の習慣
不眠解消極意3 起床時間を固定化して体内時計を整える
快眠のために最も重要なのは「何時に寝るか」ではなく、「何時に起きるか」です。私たちの体内時計は、朝の光を浴びてから約15~16時間後に眠気がくるようにセットされています。
そのため、平日は6時起き、休日は10時起き」といった不規則な生活は、いわゆる「ソーシャル・ジェットラグ(社会的時差ボケ)」を引き起こしてしまいます。
体内時計を一定にするために、平日も休日も起床時間は同じにしてください。たとえ前夜にあまり眠れなかったとしても、同じ時間に起きて朝日を浴びること。この規律こそが、夜に自然な眠気を呼び込みます。
不眠解消極意4 寝る直前の水分は控える
「血液がドロドロにならないように寝る前にコップ1杯の水を飲んでいます」という方は少なくないようです。しかし、当然といえば当然ですが……コップ1杯飲めば、夜中に尿意で目が覚めてしまいますよね。

血液がドロドロになるよりも、深い睡眠が得られないほうが体に悪いですし、寝ぼけて夜中に転倒してしまったり、寒い冬の温度差で急激に血圧が変化して倒れてしまうリスクもあります。あくまでも睡眠の邪魔にならない程度にしておくことをおすすめします。
■深部体温を下げ、自然な眠気を促す体操
不眠解消極意5 深部体温を下げる「快眠体操」をする
「眠りにつくときに手足がポカポカする」というのは、誰もが経験したことのある現象ですよね。実はこれこそが、脳と体を「おやすみモード」に切り替えるための「深部体温」コントロールの真っ最中なのです。
私たちの体温には、手足や皮膚の表面の温度である「皮膚体温」と、脳や内臓など、体の内部の温度である「深部体温」の2種類があります。通常、深部体温は皮膚温度よりも0.5~1度ほど高く保たれています。活動的な昼間は高く、休息する夜間は低くなるのが健康なバイオリズムです。
眠気がくると、脳からの指令で手足の血管が広がり、血液が末端まで流れ込みます。これが「手足がポカポカする」正体。冷やされた血液が体内を巡り、脳や内臓の温度(深部体温)を下げます。この「深部体温が急激に下がるタイミング」で、脳は強い眠気を感じるようにできているのです。
この体のメカニズムを利用して、意図的に深部体温を下げることで眠気を起こすのが、「池谷式快眠体操」です。
伸縮と弛緩を交互に行うことで身体の内側にたまった血液を手足に送りだし、深部体温を下げる効果が期待できます。就寝前にベッドの上で2、3回繰り返せば、自然な眠気が促されますよ。

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池谷 敏郎(いけたに・としろう)

池谷医院院長、医学博士

1962年、東京都生まれ。東京医科大学医学部卒業後、同大学病院第二内科に入局。97年、医療法人社団池谷医院理事長兼院長に就任。専門は内科、循環器科。現在も臨床現場に立つ。生活習慣病、血管・心臓などの循環器系のエキスパートとしてメディアにも多数出演している。東京医科大学循環器内科客員講師、日本内科学会認定総合内科専門医、日本循環器学会循環器専門医。

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(池谷医院院長、医学博士 池谷 敏郎 イラストレーション=小坂タイチ)
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