足元で、世界的なAI株相場が出現している。世界の大手投資家は、AI=人工知能の高い成長性に注目した。
それに続いて、AIに必要な大規模データセンターで使う、高性能半導体や電線など周辺部材の需要が大きく伸びることが注目された。そこで関心が行ったのは、有力半導体メーカーであるサムスンやSKハイニックスを抱える韓国市場や、キオクシアなどを擁する日本の株式市場だった。
特に、韓国株式市場の時価総額の約半分は、サムスンとSKハイニックスが占めている。言ってみれば、韓国株式市場は半導体の市況そのものと言ってもよいかもしれない。大手投資家の買いによって、同国の株式指標「KOSPI」の上昇は鮮明化した。海外の投資家に加えて、“アリ軍団”などと呼ばれる個人投資家も重要な役割を果たした。
■「約半分」を握る2社が崩れると…
彼らは、SKハイニックスとサムスン電子、2つのAI銘柄を競うようにして買った。中には借金をして投資を行う人もいる。
それに引っ張られるように、キオクシアなどわが国のAI銘柄も上昇した。韓国でも日本のAI株を買う個人投資家は増えた。
その韓国株式市場はここ1週間、不安定な状況が続いている。7月13日にはSKハイニックスとサムスン電子が10%以上下落し、KOSPIは8.9%安を記録した。続く16日にも、半導体株への売りが再燃し、一時7,6%安となった。
世界経済にとって、中長期的にAIが果たす役割は増えている。ただ、AI相場の展開を冷静に見る必要があるだろう。いつまでも、AI銘柄による牽引で強気相場が続くとは考えづらい。
米国などでは金利上昇の懸念が高まった。金利が上昇して韓国でSKハイニックスなどの株価が調整されると、個人投資家は借金による投資を続けることが難しくなるだろう。その場合、韓国株の下落に引っ張られて日本株などが調整することも考えられる。そうした展開には十分な注意が必要だ。
■「AIが伸びる」神話で投資が集中
2022年11月末、米オープンAIはChatGPTを公開した。
それらの株価が急上昇すると、投資家の視線は米国外の市場に向かった。まず注目されたのは、韓国のSKハイニックスだ。同社は、世界で初めてAI開発に必要な広帯域メモリー(HBM)の量産に成功した。
エヌビディアのGPUに適合するHBMの供給について、SKハイニックスは世界トップシェアを獲得した。台湾では、AIチップの受託製造を行う台湾積体電路製造(TSMC)の業績期待が上昇した。それに加えて、昨年以降、サムスン電子はHBMの供給体制を整備した。
一方、SKハイニックスなどの供給力を上回るペースで、AIデータセンターの建設は増えた。韓国の株式市場では、AI向けメモリーチップのスーパーサイクルが到来するとの期待が高まった。期待は徐々に神話のレベルに高まり、投資・投機資金はAI銘柄に一極集中した。
■キオクシア株が急成長した理由
韓国の個人投資家は、経済格差が深刻な中で人生の一発逆転などを狙い、一斉に両社の株を購入した。買うから上がる、上がるから買うという具合に強気心理は膨らんだ。何をやってもうまくいくと過信する人は増えた。
今年6月22日、SKハイニックス株の時価総額は2084兆6544億ウォン(約219兆円)に達し、サムスン電子を抜いて国内トップになったと報じられた。今年に入ってからの上昇率は341.9%で、サムスン電子の197.7%を大きく上回った。事実上、この2社の株価上昇が国総合株価指数(KOSPI)の上昇を牽引した。
韓国株に引っ張られるかたちで、相対的に割安感があった日本のAI銘柄に資金が流入した。筆頭格は、わが国で唯一AI関連の半導体メモリを供給できるキオクシアだ。同社は、AIデータセンターでのデータ保存に必要なNAND型フラッシュメモリと、制御ユニットを組み合わせた“ソリッド・ステート・ドライブ(SSD)”の製造技術が高い。
6月中旬、韓国個人投資家のキオクシア株買いも相まって、同社の株価は一時11万2700円、時価総額は60兆円に達した。半導体製造装置メーカーの東京エレクトロン、半導体基板メーカーのイビデン、コンデンサメーカーの村田製作所なども買われ、日韓の株価の連動性は高まった。
■20代が借金までして2社に投じた結果
AIの熱狂的な成長期待が高まり、韓国では借入れによるレバレッジ投資が急増した。
韓国金融投資協会によると、年初の時点で信用取引向けの融資残高は27兆4207億ウォン(約2兆8929億円)だった。5月末、融資残高は38兆ウォン(約4兆円)、6月下旬には38兆6328億ウォン(約4兆758億円)に増加した。世代別にみると、20代の取引が多い。
今年5月には、SKハイニックスとサムスン電子、それぞれの株価の2倍の値動きをするように設計された2つのETFの取引が始まった。このETFは、複数の銘柄を組み入れた指標=インデックスではなく、個別銘柄を対象にしたレバレッジ型の上場投資信託である。
借り入れを行って両社の現物株を買う。さらに、レバレッジ型ETFも保有すれば間違いない。そうした個人投資家は急増した。その結果、7月上旬の時点でサムスン電子とSKハイニックスの2銘柄、およびこれらに連動するレバレッジ型ETFの売買代金は、韓国株式市場の取引全体の70%超を占めた。異常なまでの集中だ。
■レバレッジ投資の恐ろしいリスク
韓国個人投資家の強気心理は、わが国にも飛び火した。
レバレッジをきかせた取引には、かなりのリスクがつきまとう。資金を借り入れて運用する場合、うまくいくと効率的に利得を増やすことはできる。
ただ、相場は常に思った通りに行かない。偶発事象の積み重ねで経済・金融市場は変化する。想定外のヘッドライン、誰かの売りなどをきっかけに急速に株価が下がると、レバレッジをかけて投資したポジション(持ち高)の評価損は急増する。
そうなると、投資家は保有銘柄を売却し借入資金の返済を急ぐ。株価の下落スピードはそれを上回る。結果として、多くの投資家が追加の証拠金差し入れ要請(マージンコール)に直面することは多い。
それに対応できないと、株式を売却して強制決済に追い込まれる。チューリップ・バブル、1990年代半ばからの米国のITバブル(株式のバブル)など、過去のバブルや一大相場がピークを迎えると、こうした展開が繰り返し発生してきた。今後、韓国でも同様の変化が起きる可能性は高まっているといえる。
■AI相場の「終わり」は韓国から始まる?
その場合、わが国の株価にも影響が及ぶことは避けられないはずだ。それだけに、韓国株の先行きは慎重に考えたほうがよい。
過去約3年間、AI銘柄への資金の過度な集中でKOSPIは3倍程度上昇した。過去の経験則で考えると、韓国でAI成長期待に影響された株式バブルが発生、膨張し、絶頂期を迎えつつあるかもしれない。
しかも、今回の韓国や日本株などの上昇は、一握りのAI銘柄主導だ。大手の投資家が、SKハイニックスやサムスン電子の株価上昇があまりに急とみて、保有株式を売却し始めることもありそうだ。そうなると、韓国の株式相場は急落することになるだろう。
それは、世界の主要な投資家に、AI相場がピークを迎えたとの危機感を与えることになる。一方、韓国個人投資家はレバレッジ投資の解消を急ぎ、日本株、台湾株、さらには米国株式にまで売り圧力が波及する恐れがある。
■当然、日本も他人事では済まない
それに加え、世界的に金利上昇の懸念も高まっている。米国の中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)は、利下げではなく金融引き締めを重視しつつある。韓国の中央銀行も物価の安定、ウォン安の阻止のため、2023年1月以来3年半ぶりの利上げを決めた。
物価について、AI用のメモリーチップの値上がりが、インフレ懸念を高める(チップフレーション)との見方は増えた。経済の専門家の中には、AIの開発に必要な半導体、電力の価格上昇が、世界的に物価上昇圧力を高める(AIインフレーション)との見方もある。中東情勢も世界的な金利の動向に影響する。
AI相場の過熱感が高まる中、本格的な金利上昇は株価にマイナスに働くだろう。2022年から2023年にかけて、米国では金利が上昇し、当時注目されたITプラットフォーマーなどの株価下落が鮮明になった。
今すぐではないかもしれないが、AI相場の調整リスクは高まっているとみたほうがよい。
仮に、調整局面が訪れると、レバレッジ投資を行った韓国の個人投資家は厳しい状況に直面するだろう。それに伴い、日本、世界の株価に調整圧力がかかるリスクがあることは、頭のどこかに入れておいたほうがよいだろう。
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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。
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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)

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