健康寿命を延ばすためにはどうすればいいのか。内科医の森勇磨さんは「病気やけがで入院したまま寝たきりになってしまう人がいる。
“回復できるかどうか”を左右するのは健康な時の習慣だ」という――。
※本稿は、森勇磨『歩き方革命』(KADOKAWA)の一部を抜粋・再編集したものです。
■「痛いから歩かない」で衰えが加速する体の部位
膝や腰に痛みを感じると、「これ以上悪化させたくないから、しばらく安静にしよう」と考える人は多いでしょう。しかし、この判断がかえって症状を悪化させてしまうことがあります。
中高年になると、特別な対策をしなければ、足の筋肉は1年に1~2パーセントずつ減っていきます。特に60歳を過ぎると、その減少スピードはさらに加速。普段どおり生活しているつもりでも、「動くための力」は少しずつ失われているのです。
ここで知っておきたいのが「痛みの負のスパイラル」です。痛みを恐れて動かずにいると、関節を支える筋肉が衰えていきます。すると、本来は筋肉がクッションとなって吸収してくれるはずの地面からの衝撃が、関節に直接伝わるようになります。その結果、炎症や軟骨のすり減りが進行し、さらに痛みが強くなっていくのです。
もちろん、痛みがあるときは無理をしてはいけません。
しかし、多くの慢性的な痛みの場合、安静にしすぎることは体の衰えを早めてしまいます。
この負のスパイラルを断ち切るためには、「痛みのない範囲で毎日少しずつでも足を動かすこと」が大切です。
■関節は動かさないとサビてしまう
人間の体は、ある一面では精密な機械と同じような性質を持っています。それは、「使わなければサビつく」という点です。
イメージしやすいように、自転車のチェーンを思い浮かべてみてください。長い間、雨ざらしのまま動かさなかったチェーンは茶色くサビつき、いざこぎ出そうとしてもギシギシと固まって、うまく回りません。
私たちの関節もこれと同じ。使わずに放置していると、少しずつ機能が低下してしまうのです。
関節のなかは、「関節液」と呼ばれる天然の潤滑油で満たされています。この液体は、関節の動きをなめらかにするだけでなく、血管のない軟骨に酸素や栄養を届けるという非常に重要な役割を担っています。
そして興味深いことに、この「天然のオイル」は、関節を動かす刺激が加わることで初めて分泌され、全体へと循環する仕組みになっているのです。
つまり、痛いからといってじっとしていると、関節は潤滑油が不足した状態になり、ますますサビついて固まりやすくなります。

一方で、無理のない範囲で適度に関節を動かしてあげれば、新鮮な関節液がしっかりと行き渡り、動きがなめらかになります。その結果、摩擦や神経への刺激が減り、痛みが和らぐことも少なくありません。
機械であれば外から油を差す必要がありますが、人間の体は自ら油を作り出し、メンテナンスをする力を持っています。「動かすこと」そのものが、自分で行える最良のお手入れです。この大切な仕組みを、ぜひ覚えておいてください。
■1日15分の運動で、死亡リスクは14%低下
「健康のために運動をしましょう」と聞くと、長時間走ったり、ジムに通ったりしなければならないと身構えてしまうかもしれません。しかし医学的なデータが示す結論は、もっとハードルが低いものです。
台湾で行われた大規模な調査では、40万人以上を対象に、運動習慣と寿命の関係が調べられました。その結果、1日わずか15分体を動かすだけで、まったく運動しない人と比べて死亡リスクが約14パーセント低下することがわかりました。
たった15分です。
特別なジムも、高価な器具も、激しいトレーニングも必要ありません。朝の散歩や買い物の往復といった短い時間でも、これだけの差が生まれるのです。

では、なぜこれほど生存率に大きな違いが出るのでしょうか。
その理由の1つが、病気やけがをしたときの「体の余力」にあります。この余力は、主に筋肉量によって支えられています。たとえば病気や手術によって入院することになった場合、筋肉の蓄えがある人は、もし一時的に寝たきりになっても、リハビリによって再び自分の足で歩けるようになる可能性が高くなります。
一方で、もともとの筋肉量が少ない人は、一度の入院をきっかけに歩く力を失い、そのまま回復が難しくなることもあります。
「もしも」のときに回復できるかどうかは、今の筋肉の状態に大きく左右されます。
1日15分の運動は、未来の自分の体を守るための、大きな意味を持つ習慣なのです。

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森 勇磨(もり・ゆうま)

産業医・内科医 ウチカラクリニック代表

「すべての人に正しい予防医学を」という理念のもとYouTube「予防医学ch/医師監修 ウチカラクリニック」を開設、現在のチャンネル登録者数は77万人を超える。著書に『100年長生き 予防医学で健康不安は消せる!』ほか。

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(産業医・内科医 ウチカラクリニック代表 森 勇磨)
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