中国は日本の抗議を無視して東シナ海でのガス田開発を進めてきた。今年に入ってからは掘削用の設備の追加や増設がハイペースで続いている。
軍事ジャーナリストの宮田敦司氏は「習近平の狙いは資源確保に留まらない。海洋強国建設を目指し、東シナ海を実質支配するための一環だ」という――。
■新たなガス田掘削船が追加された
6月24日、木原稔官房長官は記者会見にて、中国側が東シナ海の日中中間線の西側の海域で新たな移動式掘削船を固定したことが確認されたと発表。天然ガスの試掘に向けた動きとみられる。木原官房長官は「度重なる抗議にもかかわらず、中国側がこの海域で一方的な開発行為や既成事実化の試みを継続していることは極めて遺憾だ」と述べた。
東シナ海において、日中間の排他的経済水域(EEZ)と大陸棚の境界は画定していない。日本は地理的中間線を基準に境界を定めるべきだと主張しているが、中国は「東シナ海の大陸棚は沖縄トラフまで連続している」とし、自国管轄とみなした範囲で資源開発を進めてきた。中間線付近に中国が設置した構造物は現在までで23基に上る。
2008年に一度は両国間で共同開発に向けた大筋の合意がなされるも、2010年から交渉はストップしたままだ。日中間の懸案事項としてくすぶってきただけに、今回の出来事も従来から続く資源開発問題として国内では受け止められている。
しかし注目したいのは、掘削船が追加で投入されたという事実だ。海上保安庁によると、今回新たに固定された掘削船の近くには、中国が設置した海洋プラットフォームの架台とみられる施設が存在する。
さらに、その海域では別の移動式掘削船の活動も確認されている。この動きには、習近平が主導してきた中国の海洋政策そのものが表れているといっていい。
■中国軍は西太平洋を目指している
前提として、中国にとって東シナ海は天然ガスや漁業資源を有する海域であると同時に、中国沿岸部と西太平洋を結ぶ海上交通路だ。中国海軍や中国空軍が西太平洋へ展開する際の出入口に位置づけられる。
中国は日本列島から南西諸島、台湾、フィリピンへ連なる島嶼線を「第一列島線」と定め、これを越えた西太平洋でも安定して行動できる能力の獲得を目指してきた。そのために大型補給艦を配備して洋上補給能力を向上させ、空中給油機を増勢して戦闘機や爆撃機の行動半径も拡大した。海軍と空軍による統合訓練も増え、遠方の海空域で運用を続ける態勢を整えている。
結果として近年、中国海軍艦艇が宮古海峡や対馬海峡を通過して西太平洋へ進出する機会が増加。中国軍機も沖縄本島と宮古島の間を繰り返し飛行し、爆撃機、戦闘機、情報収集機などが長距離飛行を実施するようになった。
■国家目標としての「海洋強国建設」
背景にあるのは、中国共産党が掲げる「海洋強国建設」という国家目標だ。習近平政権も海洋権益の拡大を重点政策として進めてきた。
海上を舞台に強化してきた能力は、軍事力だけに留まらない。
中国海警局(日本の海上保安庁に相当する)では1万トン級巡視船の配備が進み、尖閣諸島周辺でも長時間の巡視が可能となった。海洋調査船や測量船による海底地形・海底資源の調査も進んでいる。
これらの動きは一見、バラバラのように見える。主体を担うのも中国海軍、海警局、海洋調査機関、国有企業など、別々の組織だ。だがいずれも独立した政策ではなく、それぞれが役割を分担しながら相互に補完しあい、中国の海洋利用能力全体を高めている。
南シナ海を例に取るとわかりやすい。中国は南シナ海で、漁業活動、海洋調査、行政管理、人工島の造成、港湾や飛行場の整備を段階的に進めながら、海域で利用できる拠点を増やしてきた。それぞれの施策は異なる主体が担うが、長期間にわたって複合的に継続された結果、海域での影響力拡大につながっている。
今回の掘削船の新たな追加も、こうした一連の政策の中に位置づけられる。
■継続的に活動できる土台はすでに整っている
東シナ海を取り巻く環境は南シナ海とは異なる。日本が尖閣諸島を実効支配し、日米同盟も抑止力として機能している。中国が大規模な軍事行動を起こせば、日本との衝突だけでなく米国との対立へ発展する危険も伴う。
南シナ海と同じような速度や規模で施策を展開するのは容易ではない。
だからこそ東シナ海においては、平時に実施できる施策の継続が重要になる。ガス田開発事業は、エネルギー資源の確保のみならず、この意味においても大きな役割を担っている。
前述の通り、今回の掘削船は追加で投入され、既存の海洋施設や掘削設備と連携しながら運用されるとみられる。設備を維持し、必要に応じて船舶を入れ替えながら事業を続けるには、人員、資機材、補給、保守などを継続的に支える体制が必要だ。今回の一件は、その体制がすでに構築され、実際に機能していることを示している。
東シナ海でのガス田開発が途切れることなく続けば、海警船による巡視、海洋調査なども展開され、中国企業や行政機関が同海域で活動する機会は増える。軍事衝突の危険を抑えながら、平時の運用実績を蓄積することで、海域でのプレゼンスは高まっていく。これこそが中国の狙いだ。
■全体像の把握に努めなければならない
日本政府は今回、中国側へ抗議した。外交上、適切な対応である。その上で、日本が継続的に把握すべきなのは、中国の海洋政策がどのような方向へ進んでいるかという点だ。

例えば、中国海警局の船舶はどの海域で航行日数を増やしているのか。海洋調査はどこまで範囲を広げているのか。資源開発関連船舶は、どの海域でどれだけの期間展開しているのか。
こうした変化を継続して観察しつつ、一つ一つの出来事を相互に関連付けながら分析する視点が欠かせない。資源開発、海洋調査、海警船の運用、中国軍機や中国海軍艦艇の動向を総合的に捉えることで、中国が重点を置く海域や政策の優先順位を読み取れる。
今年に入ってから、中国側が東シナ海に新たな構造物を設置する動きはすでに2度確認されている。ペースを上げて進むガス田開発に慣れてしまうことなく、注視し続けなければならない。

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宮田 敦司(みやた・あつし)

元航空自衛官、ジャーナリスト

1969年、愛知県生まれ。1987年航空自衛隊入隊。陸上自衛隊調査学校(現・情報学校)修了。中国・北朝鮮を担当。2008年、日本大学大学院総合社会情報研究科博士後期課程修了。
博士(総合社会文化)。著書に『北朝鮮恐るべき特殊機関 金正恩が最も信頼するテロ組織』(潮書房光人新社)、『中国の海洋戦略』(批評社)などがある。

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(元航空自衛官、ジャーナリスト 宮田 敦司)
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