高カロリーなど罪悪感のあるものをあえて楽しむ「ギルティ消費」が広がるなか、サントリーの「ギルティ炭酸NOPE」が大ヒットしている。発売50日で5500万本を売り上げた理由はどこにあるのか。
サントリービバレッジ&フードの大槻拓海氏に取材した――。
■サントリー炭酸飲料で「令和史上最速」
「ギルティ消費」という市場をご存じだろうか。
あえて高カロリーなど罪悪感を感じるものを食べて、日頃のダイエットなどのストレスを解消したいというニーズが、広い世代で高まっているのだという。
そのニーズを捉えて大ヒットした商品がある。2026年3月にサントリービバレッジ&フードから発売された「ギルティ炭酸NOPE」だ。発売50日で5500万本を出荷、4週連続で炭酸カテゴリにおける店頭販売数1位を獲得したという。いわく、サントリー炭酸飲料市場で「令和史上最速」の売れ行きだそうだ。
そして興味深いことに、購入者数の約3分の1が40代以上の男性、しかも週に3本以上購入するヘビーユーザー率が、30代、40代で約17%、50代、60代で約19%と、年齢が上がるほどにヘビー層が増えているというのだ。
食の好みはどちらかといえば女性よりは男性、若い人よりは高年齢の人ほど、保守的になる傾向がある。
■「有糖炭酸」は新顔が売れにくい
新しい飲料が、これほど中高年男性に受けているのは現象として興味深い。
炭酸飲料における新ジャンル、ギルティ炭酸はどのように生まれ、なぜここまで売れているのか。誕生の裏側を、仕掛け人であるサントリービバレッジ&フードの大槻拓海氏に聞いた。

サントリーの飲料開発において近年の課題となっていたのが「有糖炭酸」ジャンルの伸び悩みだった。有糖炭酸とは、ペプシコーラやC.C.レモンといった、糖分を含む甘い炭酸飲料のこと。決して売れていないわけではないが、30年以上続くようなロングセラーの飲料が強く、新しいブランドが出ても大きなヒットになりにくい。成熟している反面、「成長しない市場」だったのだ。
有糖炭酸飲料の市場について、大槻氏は次のように説明する。
「有糖炭酸飲料は購買層の7~8割が男性で、メインは40~60代。構成比が長年変わらず、過去と比べて若い層が買わなくなっている傾向にあります。そしてこのままでは市場が成長しないどころか、縮小していきます」
■「ギルティ消費」で風穴をあける
そもそも人口が縮小していく中で、飲料の市場全体が大きく拡大することは難しい。そのため高付加価値、高価格商品を増やす動きもある。カフェインを高配合したサントリーの「ZONe ENERGY」などはその一例だ。しかし有糖炭酸飲料で目指すのは難しかった。価格が高くなれば購買者の絶対数が減少してしまうからだ。
市場を活性化させるには、若い世代にアピールしつつ、さらに広い世代に飲まれる必要がある。
「停滞した状況に風穴をあけるような商品が是非とも必要でした。若い世代に強くアピールし、成長のドライバーとなり得る新たなブランドです」
そこで大槻氏が着目したのが、主に食の分野で盛り上がっていた「ギルティ消費」だった。
■ギルティフードを食べながらダラダラする
「『これを有糖炭酸飲料でやったら面白いのでは?』という思いつきがきっかけでした。若者の生活を調べてみると、休みの日には一人でギルティフードを食べながら、ストリーミングサービスを見てダラダラする。それがストレス解消になると。またギルティフードの市場が健康市場の拡大と比例して伸びていることも決め手となりました。ギルティなものを求めるのは一部の層の限られたニーズではなく、万人が持っている気持ちということです」
つまり、ギルティ消費が高まってきた理由の一つとしては、コロナ禍をきっかけとした健康意識の高まりがある。普段は食を節制するが、そればかりではストレスが溜まってしまう。ときどきは好きなものを好きなように食べたい。これが、あえて高カロリーで味付けも濃いもの、ギルティフードのニーズへと繋がったわけだ。
ただ問題は、ギルティな炭酸飲料を誰もイメージできないことだ。
食品なら、ラーメン、ハンバーガー、スナック菓子などいくらでも思いつく。そして飲料なら、アルコール度数の高いチューハイなどがまず思い浮かぶ。
アルコールも入っていないのに罪深さを感じてしまうギルティ炭酸とは、どんな味なのだろうか。
■はっきり特定できない不思議な味
実際にNOPEを味わってみると、ペプシコーラのようでいて、フルーツの味も感じ取れるような、なんとも不思議な味。そして炭酸が強めなので爽快感がある。かなり甘いが、それだけではなくスパイシーな香りがあるので、甘いものが苦手な筆者でも飲み進めることができた。
ペットボトル入りは600mlと多めの容量。スナック菓子と一緒に映画鑑賞のお供にすれば、2本ぐらいは見られそうだ。カロリーは1本でなんと336kcalに上る。それだけでもう間違いなくギルティである。
大槻氏が開発にあたりコンセプトとしたのは「欲望の肯定」。飲むとだらけてしまうような味を追求した結果、甘くて濃い味わい、そして陶酔感をもたらすような豊かな香り、という方向性にまとまった。

実際にはマンゴーや完熟した桃などのフレーバーや、シナモン、カルダモンなどの香り成分が配合されているが、飲んでみて「○○の味」とはっきり特定できない。
■今までにないからこそ懸念もあった
これは1、ベース(糖分と旨み成分)→2、フルーツの成分→3、スパイス→4、香り成分と、4段階で設計することにより、複雑な味わいが生まれているためだ。
「既存の飲料でフルーツ系もコーラ系も多くの飲料が販売されています。何かのフルーツなり味わいなりを強調すると、すでにあるそれらと比較されてしまいます。まったく新しい『ギルティ炭酸』というカテゴリを生み出すために、味わいのうえで評価軸を作らないよう、どの商品とも異なる複雑な味わいを目指しました」
このように市場分析、コンセプト決めと万全の備えをしたうえで商品開発にあたった大槻氏。自信はあったものの、反面、「全然売れない可能性」も頭の隅から去らなかった。
というのも、社内では「大丈夫か」という懸念の声も挙がっていたように、「ギルティ」というマイナスイメージの強いワードを使うこと自体、ある意味、逆張りの発想だからだ。
「実際には冒頭に挙げた通りの反響を得たわけですが、売り出しまではヒヤヒヤしましたし、胃の痛みを堪えていました」
■発売2週間で認知率がグングン上昇
50日で5500万本販売という、炭酸飲料としては記録的な売れ行きとなったギルティ炭酸。では、「炭酸飲料の市場に風穴をあける」という狙いを果たすことはできたのだろうか。
大槻氏によると、CMやSNSによる販売促進に一番先に反応したのが10~30代。そこからまもなく、40~50代にも認知されるようになったという。認知率の調査では、発売後2週間の時点で、「年に1回以上炭酸飲料を購入する全世代の2人に1人が知っている」という結果が得られている。

つまり、若い世代に強く訴求し、それだけで終わらず広い世代に飲んでもらえる商品という、最初の狙いについてはある程度の成功を得られたということだ。
ギルティ炭酸というこれまでになかったジャンルの飲料。失敗する可能性もあったが、成功の理由はどこにあるのだろうか。
まずは、インパクトのあるデザインやプロモーションが挙げられる。
■一度見ただけで記憶に残るデザイン
黒字に紫ピンク(色名はマゼンタ)のロゴのデザインは単純に目立つだけでなく、覚えてもらいやすい。
「毎週いくつもの新商品が出るため、普通はなかなか覚えてもらえません。NOPEについては一度見ただけで記憶に残ります。そして一度見た後、他のところに置いてあったら『最近よく見る商品』に昇格し、話題にしてもらいやすいんです」
またいかにも「飲んだらダメ」そうなバッテン目のフェイスマークはちょっとパンキッシュで、若者だけでなく40~50代にもカッコいいと思わせるデザインだ。
プロモーションでは、サントリー自動販売機に描かれたBOSSマークの上にNOPEのシールを貼り付ける「自販機ジャック」も行われ、休憩時間にコーヒーを飲む40~50代ビジネスパーソンに訴求したのでは、という分析もあるという。
成功の理由として2つ目に挙げられるのが、「大人舌を納得させる風味」だ。
■40~60代を意識して加えた物とは
甘みやフルーツの風味、爽快感のある強炭酸だけでも、十分にストレスを溶解させるような味わいは表現できた。ここに何種類ものスパイスを加えたのは40~60代を意識してのことだという。

確かに、食べ物でもさまざまな香りがブレンドされていると味わいに奥行きが生まれ、凝った料理に感じる。NOPEにおいても、多くの味を経験してきている大人が飽きずに飲み進められるよう、香りに工夫を凝らしたわけだ。
またスパイスの他にも、バニラやチョコレートにも含まれる香り成分や余韻を残す独自設計の「ギルティアロマオイル」を配合することにより、一度飲んだらまた欲しくなる、クセになる風味を実現させている。これらは大槻氏が表現するところでは「報酬性がある」香りとのこと。満たされるような感覚や心地よい高揚感を引き出す狙いがあるという。
3つ目としては、ギルティ消費というニーズが意外に奥深く、さまざまな年代や特性の人の共感を呼んだことが挙げられる。
「調査でも、ギルティ消費の中にグラデーションがあることがわかってきました。ダイエットする人にとってのチートデーもそうですが、それだけでなく、家族が寝静まった後にこっそりと食べるアイス、飲み会後のシメのラーメンも、ギルティの一つですよね。誰もがさまざまな色合いや大きさのストレスを抱いていて、それを溶かしてくれるものを求めている、ということだと思います」
■オフの時間帯に購入者数が増えている
時間帯別の購入者数を調べたデータでは、12時、17~18時に購入者数が増える傾向にあることがわかった。オンとオフでいえばオンの時間帯に受けたストレスをオフの時間帯に解消したい心理、と見ることができる。また、残業前の気付け代わりになる、という声もあるようだ。
最後に、今回のNOPE誕生の評価と今後について聞いた。
「生まれたばかりのブランドなのでまだ分かりませんが、現時点での成果としては、有糖炭酸飲料の市場を変えつつあると言えるのではと感じています。今後フレーバー展開をどうするかについては、夏場が一番売れる期間ですので、ここでの反響を見ながら判断していきます。すでにユーザーからアルコールを割ったり、お茶と混ぜたりと、いろいろな飲み方のアイデアも発信されていますし、さまざまな可能性が考えられます。長い目で見てブランドを伸ばしていきたいと思っています」
個人的に気になるのが、他社から類似の商品が発売されるのだろうか、ということだ。実現したら、「ギルティドリンク」という新ジャンルが生まれることになる。そこまでの潜在ニーズがあるのか否か、注視していきたい。

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圓岡 志麻(まるおか・しま)

フリーライター

東京都立大学人文学部史学科卒業後、トラック・物流の専門誌の業界出版社勤務を経てフリーに。健康・ビジネス関連を両輪に幅広く執筆する中でも、飲食に関わる業界動向・企業戦略の分野で経験を蓄積。保護猫2匹と暮らすことから、保護猫活動にも関心を抱いている。

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(フリーライター 圓岡 志麻)
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