A型とB型、O型、そしてAB型の違いは何か。科学教養系YouTuberの九和律さんは「赤血球の外側についているタンパク質が違う。
この違いによって、O型はすべての血液型に輸血できる無害な血になった」という――。
※本稿は、九和律(9割が知らない雑学)著、齋藤勝裕監修『生命・地球・植物・動物・宇宙をめぐる46億年の物語 科学の教養大全』(Gakken)の一部を再編集したものです。
■A型からO型に輸血するとどうなる?
突然ですが、皆様は血液が薬として扱われていることをご存じでしょうか?
人体から出た瞬間に、血液は組織ではなく、薬として扱われます。だからこそ、古来より血は売買されていました。まあ、金銭欲しさに過度に売血する人が問題になり、血の売買は日本政府により終了しました。そうして、現在の献血制度になったのです。
さて輸血に関して、皆様はこんなことを聞いたことがないでしょうか? 「O型の血液型は、すべての人へ輸血出来る」と。逆にO型は、O型からしか輸血出来ません。
こういった事情から、O型は万能供血者(ユニバーサルドナー)と呼ばれ、O型は思いやりに優れるなど、根拠不明なことが性格診断で言われたりしています。
これは一見もっともらしく聞こえますが、考えてみればかなりおかしな話です。O型の血液をA型に輸血するのも、A型の血液をO型に輸血するのも、結局体内ではAとOが混ざるのですから一緒のはずです。にもかかわらず、O→AはOKで、A→Oがダメなのは、なぜなのでしょうか? 異なる血液型の血液を混ぜたら、一体、体内ではどうなるのでしょうか?
■アメリカ初代大統領は「瀉血」で死んだ
歴史上初の輸血は1667年に行われました。
フランスのジャン=バティスト・ドニという医師が、アントワーヌ・モロワという精神病患者へ羊の血を輸血したのです。彼の症状が改善することを期待してのことでした。ドニいわく「羊の穏やかな血が、モロワの血のほとぼりを緩和させるだろう」とのことです。さすが中世ヨーロッパの治療法、随分と迷走しています。
その他にも「瀉血(しゃけつ)」という、輸血とは逆に、血を抜く治療法もありました。毒を抜くように、血を抜けばすべて治ると信じられていたのです。
アメリカの初代大統領、ジョージ・ワシントンはある晩に発熱し、主治医たちは瀉血という当時の治療法を試みました。しかし血を抜いても抜いても症状は改善されず、ついにはワシントンは亡くなりました。本末転倒。死因は大量出血による失血死とされています。
と、まあこのように、当時は病気のすべては「血が原因」と考えられていたわけです。
正常な血を入れて病気を治そうとする治療法が生まれるのも当然でしょう。

ところで、羊の血を輸血された彼はどうなったのでしょう。
■「輸血ギャンブル」を終わらせた発見
驚くべきことに、モロワは死にませんでした。それどころか彼の精神状態は良くなったように見えました。これに気を良くしたドニ医師は、2度目の輸血を実施しました。すると状態は一変し、モロワは発熱し、腰に激しい痛みと腕に強烈な熱感が生じ、尿は濃い黒色をしており、ほどなくして彼は亡くなりました。ドニは殺人罪、毒殺の容疑で告発されました。まあ、羊の血ですからね……。
その後、200年以上、人々は輸血を試みてきましたが、そのほとんどは成功しませんでした。輸血は常に死と隣り合わせのギャンブルだったのです。しかし、成功したものもあるのです。
すべて失敗するのならともかく、なぜ成功する輸血もあるのか。これに目をつけたのは1900年、オーストリアの化学者カール・ラントシュタイナーでした。
彼は同僚22人から血液を集め、それぞれの血を混ぜ合わせてみました。すると、互いの赤血球を破壊するパターン別で3タイプに分けられることが分かったのです。こうして血液にはA型、B型、O型があることが分かりました。
■赤血球の外側のタンパク質に違いがある
ちなみに、当時O型はC型と呼ばれていました。しかしこの血液型はA、Bどちらとも反応しないので、分かりやすいよう「0(ゼロ)型」と命名し直され、後に0とOが間違えられ、O(オー)型として広まったのです。
その翌年、すべての血液型に輸血出来ないのに、自らにはすべての血液型を輸血出来る血液型が見つかりました。これがAB型と名付けられ、この世紀の発見により、ラントシュタイナーはノーベル医学賞を受賞します。
AとかBとか、一体何が違うのでしょうか。これは、血液の中の赤血球の外側についているタンパク質が違うのです。A型の人は「N-アセチルガラクトサミン」という物質が、B型の人には「ガラクトース」という物質がついています。
AB型はどちらもついており、O型はどちらもついていません。2種類の物質の組み合わせで4パターンあるわけです。

なぜ人によって赤血球にこんな違いが生まれるのでしょう。
■血がなくても血液型は特定できる
血液型の違いは突然変異由来だと言われています。
元々の祖先はO型もしくはA型に近い形でしたが、突然変異により赤血球に余計なものをつける酵素が生まれたことで分離しました。つまり、血液型がA型だとかB型だとか言うのは、本当は遺伝子が違うわけです。遺伝子の違いが、たまたま血液の赤血球の違いにも表れているに過ぎません。だからA型とB型は、別に赤血球だけでなく唾液や胃や腸の粘液も違うのです。
単に最初に、血液で遺伝子の違いを見つけたから「血液型」と名付けられているだけなのです。
刑事ドラマでも、犯人の捨てたタバコに付着した唾液から血液型を判定していたことがありましたが、あれは唾液からでも血液型が判定出来るからだったのですね。血液型の特定に必ずしも血は必要ではないのです。
■異なる血液型は「混ぜるなキケン」
一般に、誤った血液型を50ml(大体おちょこ1杯分)輸血されただけで、人は死ぬとされています。これは人体の免疫反応が原因です。免疫とは、たとえばウイルスなどの病原体が体内に入ってきた時、その病原体を攻撃することで病気になることを防ぎます。

このアタッカーのことを「抗体」と言います。これがウイルスや細菌だけでなく、輸血にも起こってしまうのです。A型の人体からすると、B型の赤血球の外についているB型タンパク質が、ウイルスに構造が似ているためです。
じゃあ逆に、なぜ同じ血液型の血は輸血出来るのでしょう。A型からしても、A型の赤血球外側のA型タンパク質は、ウイルスに似ているのではないでしょうか。
人体は、なんでもかんでも免疫が反応するわけではありません。生まれた時からすでに自分の中にある細菌やウイルスには抗体を持っておらず、攻撃することがありません。そんなのを持っていたら自滅するだけですからね。つまり、免疫とは「異物」に反応するわけです。免疫はヤンキーと一緒です。他人に厳しく、身内に甘い。
赤血球の可否は、赤血球の外側に何がついているのかで、決まります。
図としてまとめてみましょう(図表2)。
たとえばA型は、自身の赤血球の外側にA型タンパク質がついているので、B型のタンパク質がついているB型とAB型の血液を受け入れることが出来ません。B型も同様に、A型とAB型の輸血が出来ません。
AB型は、自身の赤血球の外側にA型とB型のタンパク質がついているので、A型もB型も受け入れられるため、すべての血液型の血液を受け入れられます。
逆にO型は、自身の赤血球の外側にA型もB型も何もついていないので、A型もB型もAB型もすべて異物です。ただし、O型は自分の赤血球がまっさらなため、すべての血液型に輸血出来る無害な血となるのです。
■「赤血球と抗体の大きさ」がカギになる
とまぁ確かにもっともらしい説明ですが、以上のシミュレーションは「赤血球だけ」輸血した場合です。
実際は血を丸ごと輸血するのですから、A型にはO型の血液を輸血出来て、O型にはA型を輸血出来ないのはおかしいはずです。どちらも最終的には、体内ではA型とO型が混ざっているのですから。A型に輸血したO型の血液からすれば、A型の血液成分はすべて異物なのですから、輸血したO型の血液が固まってもおかしくないはずです。
まぁ実際は技術が進歩した近年は赤血球だけを抽出して成分輸血することが可能ですが、昔は血丸ごとの輸血しかありませんでした。しかし、この場合でも輸血は出来るのです。
A型にO型の血液を輸血すれば、O型の血液に含まれている抗体が、元あったA型の血液に過剰反応して固まると思いますよね。
答えは、赤血球と抗体の大きさの差にあります。赤血球は抗体の1000倍以上の大きさがあり、全身を高速でめぐる血管中の血液では、分子レベルの抗体は素早く拡散されますが、赤血球はそれが出来ないのです。確かに大きくて重いものは溜まりますし、小さなものは激流で拡散されそうです。
■「O型であれば万能」とは限らない
したがって、O型の人にA型の血液を輸血すると、あとから入ってきたA型の赤血球に、その場で抗体がどんどんくっついて大きな塊のようになってしまいます。一方、A型の人にO型の血液を輸血した場合、後から入ってきた抗体は素早く散らばり薄くなるために、A型の赤血球とくっついても大きな塊になることはないのです。
とはいえ、大量に輸血した場合には、何かが起こるかもしれません。なので現代では基本的に同じ血液型の血液が輸血されています。O型は他の血液型に輸血出来る、というのは間違ってはいませんが、手放しでやって良いものでもありません。
では輸血の際は、このA・B・O・ABの血液型にさえ気をつければOKなのでしょうか?
実は人類と輸血の戦いはまだ終わりません。ラントシュタイナーがABO型血液型の発見でノーベル賞を受賞した9年後の1939年。O型の夫からO型の妻へ輸血した際、なんと異常な反応が起きた事例が報告されました。しかも驚くべきことに、1度目の輸血はなんともなかったのに、2度目で副作用が発生したのです。
■アナフィラキシー・ショックの仕組み
ラントシュタイナーが注目したのは、これが「2度目の輸血」だったことです。先ほど説明したABO型の血液は、別の血液型に対して最初から人体が抗体を持っていました。だからこそ、A型をB型に輸血すれば最初から免疫システムが稼働します。
ここで彼らが考えたのは「抗体を持っていない有害物質が体内に入り込んできた時は、人体はどうするのか?」ということでした。人体がいかに優れているといっても、森羅万象すべての有害物質に対し、最初から抗体を持っているわけがありませんからね。
これの答えは「1度目の侵入の際に抗体を作る」というものです。有名な「ハチに2度刺されると危険」というのはまさにこれです。
1度目に体内に毒が入った際に人体で抗体が出来てしまい、1度目の毒は対処されます。ここまでは良いですが、以降時間が経つにつれ、体内で抗体がどんどん増殖します。2度目にはその多量の抗体が過剰反応し、重篤な症状を引き起こすのです(アナフィラキシー・ショック)。
■「Rh+」→「Rh-」の輸血はアウト
このようなショックを引き起こすタンパク質が血中に発見されました。医者たちはこの実験を、人間と似たアカゲザル(Rhesus Monkey)の血液で実験したことから、この新しい血液区分を最初の2文字をとって「Rh」と名付けました。
ショックを引き起こすタンパク質を生まれながらに持つ血液型を「Rh+」、持たない血液型を「Rh-(マイナス)」と言います。皆様も一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。O型Rh-とか。
先ほどの夫婦の輸血も、夫がRh+、妻がRh-でした。1度目の輸血でRh+タンパク質が妻の体内に入り抗体が作られ、2度目の輸血で過剰反応してしまったわけです。
逆にRh+の人は、生まれつきRh+タンパク質があるからRh+同士の輸血なら問題ありません。+から-への輸血がダメなのです。輸血の際はABO以外に、Rhにも気をつけないといけません。
しかし、人類の戦いはまだ終わりません。この夫婦にさらなる悲劇が訪れます。なんと子どもを死産したのです。なぜ子どもが関係するのでしょう?
■母と子の血液型が違っても問題ないが…
たとえば、遺伝子AAのA型の夫と、遺伝子OOのO型の妻が子どもを作るとします。すると子どもの遺伝子はAOでA型となります。これは一見困ります。O型の体内にA型の子ども(血)がいるのですからね。母体では胎盤(たいばん)とかへその緒を通して赤ちゃんと栄養をやり取りするから、混ざっちゃいそうですよね。このような妊娠を「血液型不適合妊娠」と言います。
しかし結論から言えば、ABO血液型の違いで子どもに重篤な症状が起こることは、非常に稀です。そもそも赤ちゃんと母親の血液は混ざらないようになっており、加えて胎盤には強力なフィルターがついています。A型やB型の抗体が万が一入り込もうとしても、通過出来ないのです。そもそも、母と子の血液型が違う親子なんてありふれています。
■悲劇を繰り返さないための現代技術
しかしRh型は違います。母がRh-で子がRh+の場合に、1度目の出産の際で赤ちゃんの血液が母親の血液に混ざったとします。現代でも、出産は出血を伴うほど危険ですからね。この場合、母親の体内にRh+の抗体が出来ます。この母が再度子どもを身ごもると問題が発生します。
なんとRh+の抗体は、胎盤のフィルターを通過するのです。Rh+の抗体は、ABO型の抗体よりもさらに小さいからです。この場合、赤ちゃんの赤血球を抗体が破壊してしまい、取り返しがつきません。
昔はこのタイプの妊娠は非常に厄介な問題でしたが、今では完璧な対策が講じられています。Rh+の赤ちゃんを出産した時点で、母親の方に抗体を作らないように中和する注射を打つのです。
こうして現代では運を天に預ける輸血から、医者たちの血のにじむ努力によって、安全な輸血になったのです。

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九和 律(くわ・りつ)

科学教養系YouTuber

科学の魅力や知識を伝えるYouTubeチャンネル「9割が知らない雑学」を運営。「言われなければ不思議にも思わなかった、当たり前の事実」を面白おかしく動画で紹介。わずか120本ほどの動画で、総再生回数は1億回を超えている。

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齋藤 勝裕(さいとう・かつひろ)

名古屋工業大学名誉教授

1945年生まれ。1974年、東北大学大学院理学研究科博士課程修了。理学博士。おもな著書に「絶対わかる化学シリーズ」(講談社)、「わかる化学シリーズ」(東京化学同人)、「わかる×わかった! 化学シリーズ」(オーム社)、『料理の科学』(SBクリエイティブ)、『「発酵」のことが一冊でまるごとわかる』『「原子力」のことが一冊でまるごとわかる』『身のまわりの「危険物の科学」が一冊でまるごとわかる』(ベレ出版)ほか多数。

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(科学教養系YouTuber 九和 律、名古屋工業大学名誉教授 齋藤 勝裕)
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