※本稿は、池田智昭『ゆで太郎の儲かる仕組み 22年連続黒字を支えるがっちり経営術』(ワニブックス)の一部を再編集したものです。
■1日の売り上げを支える「かき揚げそば」
ゆで太郎の強みは、朝・昼・夜と、1日を通して売り上げが立つことです。
立ち食いそばは本来、朝と昼の商売です。一方、町のそば屋は昼と夜が中心で、夜はお酒も提供します。ゆで太郎は、その両方を組み合わせた業態です。だから朝食にも昼食にも夕食にも対応でき、店舗によっては深夜まで対応しています。
私の感覚では、九州の資(すけ)さんうどんが最も近い存在です。ライバルというより、九州へ行くと必ず立ち寄るファンのような存在ですね。ロードサイドにあり、家族でも、一人でも利用できる。朝食から夕食まで幅広い需要を取り込んでいる点は、とても参考になります。
その1日を通した営業を支えているのが、実は「かき揚げそば」です。
■「定番」として選ばれる3つの理由
かき揚げは、もともと立ち食いそば文化を代表する商品ですが、それを町のそば屋のスタイルにも取り入れました。派手な看板商品ではありませんし、単品ランキングでも常に1位というわけではありません。しかし、定番天ぷらとしては圧倒的な存在です。クーポンの対象にもなっています。
人気の理由はシンプルです。価格が手頃で、ボリュームがあり、満足感が高い。ラーメンにトッピングして食べる人までいるほど、多くの人に受け入れられている食材です。
ただし、私たちは意図的に「かき揚げそば」を売り込もうとは考えていません。
もりそば、かけそば、朝そば、そしてかき揚げそば。この4つは、ゆで太郎の入口になる商品です。今後値上げが必要になったとしても、最後まで守りたい価格帯だと思っています。
もちろん、980円の大海老天そばのような少し贅沢な商品も人気があります。
しかし、その一方で、「今日は軽く済ませたい」「少し小腹を満たしたい」という時にも選ばれる商品が必要です。その役割を担っているのが、かき揚げそばなのです。
■店内で仕込み、揚げているから安い
かき揚げを安く提供できるのは、工場で揚げたものを仕入れているからではありません。
むしろ逆で、店舗で野菜を切り、衣を付け、揚げる技術を磨きながら品質を高めているからこそ、この価格を実現できています。工程には手間がかかりますが、美味しさと価格を両立させるためには欠かせない投資なのです。
時間帯によって、お客様が求める商品は変わります。その中でも、かき揚げそばは最も間口が広く、どの時間帯にも自然に選ばれる商品です。
どの時間帯でも売れる商品があるから、朝も昼も夜も売り上げが安定する。
ゆで太郎にとって、かき揚げそばは単なる人気商品ではなく、1日の売り上げを支える土台なのです。
まとめ
定番がある店は売り上げがブレにくい
■日本人も好きな「トッピング自由」文化
ゆで太郎の名物の一つが、提供カウンター横にある薬味コーナーです。
一味、七味、紅生姜、福神漬け、柚子粉、揚げ玉、ソース、醤油、マヨネーズ、ラー油、おろしなど、自由に使える調味料や薬味を数多く用意しています。
もちろん、最初からこれだけ揃っていたわけではありません。お客様の声を聞きながら、少しずつ増やしてきました。
この発想のきっかけになったのは、フレッシュネスバーガーです。ケチャップやマスタードを自分好みに加えられるスタイルを見て、「これは面白い」と感じました。
アメリカやヨーロッパでは、ベースの商品を提供し、お客様自身が好みに合わせて完成させる文化があります。日本人も実はそういう楽しみ方が好きなんですね。
私は、食べ方に正解はないと思っています。カレーには紅生姜が好きな人もいれば、福神漬けが好きな人もいる。一味が好きな人も、七味が好きな人もいる。それなら両方置けばいい。冷たいラーメンに酢が欲しいという声があれば、酢も置く。
そんな積み重ねで、今の薬味コーナーができました。
その中でも象徴的なのが揚げ玉です。もともとは朝メニューのサービスとして、かけそばに自由に入れていただくために置き始めました。
■「稼ぎどころ」の揚げ玉を無料にしたら…
ところが、その結果、たぬきそばが売れなくなってしまったのです。現在、ゆで太郎にはたぬきそばもきつねそばもありません。
町のそば屋では、ベースのそばにトッピングを加えて単価を上げるのが一般的です。しかし、ゆで太郎では揚げ玉を無料にしたことで、その商売が成立しなくなりました。
利益だけを考えれば、揚げ玉は有料にした方がいいのかもしれません。それでも無料にしている理由は、お客様に食べる楽しさを提供したいからです。
カレーにマヨネーズをかける人もいれば、コロッケにソースとマヨネーズをかける人もいます。朝ラーメンにニンニクを追加する人もいる。自分だけの食べ方を見つけられること自体が、来店する楽しみになっているのです。
もちろん、そのためには補充や清掃など、店舗の手間も増えます。
「揚げ玉入れ放題」というサービスは、原価だけ見れば大した金額ではありません。それで「太っ腹な店だな」と感じてもらえれば、これほど効率のいい投資はないでしょう。
無料だからこそ、お客様は気軽に楽しめる。薬味コーナーは利益を生む設備ではなく、満足度を高めるための仕組みなのです。
たぬきそばはメニューから消えました。しかし、その代わりに、お客様は自分好みの一杯を自由に作れるという、もっと大きな価値を手に入れたのです。
まとめ
利益よりも、お客様が自由に楽しめる体験を優先する
■「数量限定」にはすごい価値がある
「売り切れごめん」を崩さないことも、私たちの経営方針の一つです。
飲食店では、品切れによる機会損失を恐れて在庫を多く持とうと考えがちですが、私はそうは考えません。数量限定だからこそ生まれる期待感や特別感には、それ以上の価値があると思っています。
夏の人気商品といえば、うなぎです。うな丼セットは1100円、海老天を付けると1200円。
2026年も値上げはせず、昨年と同じ価格で販売します。さらに7月は金曜日の「得ランチ」に採用し、よりお得な価格で提供しました。
■「売り切れごめん」覚悟で仕入れをする
実は、勝負は販売前から始まっています。うなぎは2月の段階で仕入れを決めます。桜海老も約6トンをシーズン前にまとめて確保します。売れなければ、そのまま在庫リスクになります。
それでも、私たちは売り切れを恐れて大量に追加生産することはしません。最初から「数量限定」「売り切れごめん」とお伝えしています。一昨年までは土用の丑の日に売り切れる店舗もありましたが、それはそば屋だからできることです。うなぎ専門店なら大きな問題になるでしょうが、私たちにとってうなぎは、日頃の感謝を込めた季節限定のサービスでもあります。
■「今日はまだ残っていた」で得る満足感
こうした商品は原価率だけを見ると決して優秀ではありません。しかし、経営は原価率だけで判断するものではありません。
飲食業で本当に見るべき数字は、粗利益高です。
原価率は高くても、1杯あたりに残る利益額は十分に確保できます。最終的に人件費や家賃、光熱費をまかなって会社が利益を残せるのであれば、それでいい。一品ごとの原価率だけで良し悪しを判断するものではないのです。
今回の得ランチに向けては、うなぎをさらに4トン追加で仕入れました。それでも「売り切れごめん」という考え方は変えません。
いつ行っても必ずある商品より、「今日はまだ残っていた」という体験の方が、お客様の満足につながることがあります。限定だから食べたくなる。売り切れる可能性があるからこそ価値を感じる。その期待感まで含めて商品なのです。
機会損失を恐れて在庫を積み上げるより、期待値を高める仕組みをつくる。その方が、お客様にとっても、私たちにとっても、長く愛される商売になると信じています。
まとめ
機会損失よりも、お客様の期待値を高める
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池田 智昭(いけだ・ともあき)
ゆで太郎システム社長
1957年生まれ、東京都出身。明治大学文学部卒業後、1980年にほっかほっか亭FCオーナーとして独立。1984年にFC店オーナーを辞め、ほっかほっか亭入社。フランチャイズ本部の社員になると、スーパーバイザーとして手腕を発揮。多くのオーナーを支援してきた。2004年ゆで太郎システム設立。「カンブリア宮殿」(テレビ東京系)「がっちりマンデー‼」(TBS系)出演でも話題。
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(ゆで太郎システム社長 池田 智昭)

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