オンライン上の意見の特徴とは何か。『フィードの中の民主主義 SNS時代の世論と情報の届き方』(朝日新書)を出した立命館大学准教授の谷原つかささんは「自分から『言いたい人』が言った意見であり、それなりに強い思いを伴っていることが推察される」という――。

■世論調査の世論とオンラインの世論
オンライン上の意見について考える際、比較対照となる、新聞社等の世論調査による世論の性質を考えてみましょう。そうすることで、オンライン上の意見の特徴が浮かび上がってきます。このあたりは私の前著でも論じましたが、世論調査の世論、オンラインの世論それぞれの「クセ」を明らかにしておくために、もう一度復習しておきましょう。
世論調査はサンプル調査(日本人全員に質問するのは現実的に不可能なので、数千人程度を抽出してその人たちに質問をすること)ですので、推測統計(サンプルから母集団を推し量ることを目指す統計学の理論)の技術に支えられています。
推測統計を成り立たせるためには、母集団からサンプルを確率的に取り出す必要があります。「確率的に」とは、母集団の全ての人が、原則として同じ確率で調査対象として選ばれうるという状態を言います。少し難しい話をしてしまいましたが、要するに、調査対象の抽出にかなり気を使っているということです。
マスメディアの世論調査は、伝統的にRDD(コンピュータで無作為に数字を組み合わせて番号を生成し、電話をかけて調査する方法)を用いることが多いですが(もっとも近年はインターネット調査+割当法が主流になりつつあります)、電話を受けた方は突然ある政策の賛否について回答を求められ、多くの場合よく知らないと思いながら回答することが想定されます。これはかなり受動的な意見です。
実際に世論調査に従事していた、日経リサーチの鈴木督久氏の著書には、電話調査における典型的なやりとりの例が紹介されていますが、回答者の極めて受動的な態度が見て取れます(*1)。
*1 鈴木督久(2021)『世論調査の真実』日経BP日本経済新聞出版本部,p.2
■聞かれてもいないのに表す“濃い”意見
一方で、オンライン上の意見というのは、「言いたい人が言った意見」です。
この時点で、母集団に対する代表性(意見を聴取した数千人が日本人の縮図となっていること)はありません。
加えて、聞かれてもいないのに自分から公に表明するのですから、それなりに強い思いが伴っていることが推察されます。
つまり能動的、あるいは相対的に「濃い」意見と言えるでしょう。
例えば憲法改正について特に強い意見を持っていない人が、わざわざ反論されるリスクを冒してオンライン上に意見を投稿することが想定しづらい一方、憲法改正について強い意見を持っている人は、オンライン上で意見表明を行う動機を有していると想定されます。
このことはデータで実証されています。国際大学の山口真一氏による実証を図表1に示します(*2)。
図表1は、「憲法改正」について質問した際の、社会調査による意見とSNS上の意見分布の異なりを表したものです。社会調査による意見はインターネット調査によるものなので確率的サンプリングとは言い難く、SNS上の意見分布も自己申告なので測定誤差(実際の値と自己申告された値がずれること)の影響を免れられませんが、顕著な傾向を示しています。
*2 山口真一(2020)『正義を振りかざす「極端な人」の正体』光文社,p.46
■両極意見「46%」対「13%」の濃淡現象
社会調査による意見分布は正規分布(山の形をした分布)に近い形になっている一方で、SNSの意見分布は逆の傾向を示しています。社会調査における世論では最も少ない「非常に賛成である」と「絶対に反対である」が多数派を形成しており、この二つで46%を占めます。しかしこの二つの意見を持った層は、社会調査の結果では13%を占めるのみです。
さらに、筆者が2022年に実施したオンライン調査の結果から、自民党への感情別のXへの投稿状況(政治的・社会的出来事に関する投稿)を図表2に示します。
※棒グラフにかかっている傍線は「エラーバー」と呼ばれるもので、データが全量ではなくサンプルであることに伴う「誤差の範囲」を示します。

やはり非確率サンプルであることと、Xへの投稿が自己申告であり測定誤差があるという制約はあります。それを踏まえたうえでご覧いただきたいのですが、やはり緩やかにU字になっています。
自民党に対してポジティブであるにせよネガティブであるにせよ強い感情を持っている人が投稿をしがちであることが示唆されます。
■“濃い民意”を持つ人がする行為
また、政治的態度とX投稿(政治的・社会的出来事に関する投稿)の関係を分析したのが図表3です。リベラル度上位10.5%のグループ、リベラル度が下位11.1%のグループ、及び平均的なスコアのグループを作成し、ポストを行った人の割合を比較しました。
その結果、リベラル度上位のグループは13.0%、リベラル度下位のグループは13.2%の人がポストを行っていたのに対して、平均的なスコアのグループは6.9%の人がポストを行っていたのみでした。先ほどと同様、この結果からも強い思いを持った人がポストを行っていることがうかがえます。
以上のように、「ネット世論」と呼ばれるものがあるとすれば、それはセレクションバイアス(*3)が働いた強い意見の集合体であるということになります。
*3 セレクションバイアス(selection bias)とは、調査や分析に入ってくる人・データがランダムではなく偏って選ばれることで、結果がゆがむことを指します。
■ブルデューによる世論調査批判
しかしそれでは、厳密な確率サンプリングによる新聞社の世論調査のほうがより「良い」民意かというと必ずしもそうではありません。
フランスの社会学者ピエール・ブルデューは、次のように世論調査を批判しています。
私は世論調査が暗黙のうちにかかわっている三つの公準を問題にしてみようと思います。

第一の公準は、どんな世論調査でも、誰もが何らかの意見をもちうるということを前提にしている、つまり言い方を換えれば、だれでもそうしようと思えば簡単に意見を作ることができるということを前提としていることです。私は素朴な民主主義的感情を逆なでするのを覚悟の上で、まずこの公準に異議を申し立てようと思います。
第二の公準は、すべての意見はどれも優劣がない等価なものだと考えられていることです。そんなことはないのであって、同じような、現実的な力をまったくもたない意見をいくら積み重ねても意味を欠いた人工物を作り出すだけだ、ということは証明できると思います。
第三の公準は、暗黙のうちに認められているものです。それは、誰に対しても同じ質問をするという単純な事柄のなかには、それらの問題に関して何らかの合意が存在する、言い方を換えれば、それらの問題は質問されて当然だとする同意があるという仮説が含まれていることです。
これら三つの公準があるために、方法論的厳密さの一切の条件がデータの収集と分析のなかで満たされているときでさえ、いつのまにかさまざまな歪みが次々に生じてしまうのです。私にはそう思えてなりません(*4)。

*4 Bourdieu, P(. 1980/1991)安田尚ほか(訳)『社会学の社会学』藤原書店, pp.287-288
■厳密な世論調査にも潜む難点
第一の点は、世論調査の回答者が受動的に回答していることを問題視しています。つまり「誰もが何らかの意見をもちうる」わけではないのであり、意見がない人はない人として扱うべきであるということを示唆しています。
世論調査では、無回答バイアス(回答してくれた人の意見のみを集計することによって生じるバイアス)を避けるため、答えを渋っている人に対してもかなり食い下がって回答を求めます。そうしてひねり出された回答が果たして参照すべき意見なのかということです。

第二の点は、全ての回答を等価に扱うことの不合理性を指摘しています。例えば障害者福祉関連施策において、障害当事者やその家族、あるいは障害者福祉施設の職員等、施策の影響を直接的に被る方の意見と、障害者福祉に全く関わりのない人の意見を等価に扱うことは不合理であるように思われます。
第三の点は少し解釈が難しいですが、質問設定の恣意性を指摘したいのかもしれません。
ここでブルデューの批判を長々と引用したのは、厳密に実施された世論調査も、ひとクセあるということを強調しておきたかったからです。
これはもちろん何を尋ねるかによります。インフレ対策や基幹税制等、多くの国民が利害関係を持っている事項はそうした世論調査が適しているでしょうが、一定の領域固有知識が必要な個別分野の施策になると、必ずしも世論調査が適切とは言えない場面もあるのです。

----------

谷原 つかさ(たにはら・つかさ)

立命館大学産業社会学部准教授

1986年生まれ。立命館大学産業社会学部准教授。国際大学GLOCOM客員研究員。大学卒業後中央官庁勤務を経て、2022年慶應義塾大学大学院より博士号(社会学)を取得。計算社会科学会大会優秀賞、社会情報学会論文奨励賞など、学会賞の受賞多数。メディア等にも多数寄稿・出演。
著書に『「ネット世論」の社会学 データ分析が解き明かす「偏り」の正体』(NHK出版新書)など。

----------

(立命館大学産業社会学部准教授 谷原 つかさ)
編集部おすすめ