※本稿は、西岡壱誠『子どもの地頭が育つ後悔しない子育て』(総合法令)の一部を再編集したものです。
■子どもの未来が狭まる「便利さ」の弊害
昔の子どもたちは、日常のなかで“考える”機会が多くありました。
外で遊ぶといっても、遊び道具は限られています。ボール、縄跳び、木の枝や段ボール、身近な小物を用いて、自分たちで考えて、独自の遊びをつくったり、自分たちのルールで遊びをカスタマイズしたりしていました。
スマートフォンもアプリもないので、電車に乗るにも時刻表を自分で確認し、乗り換えや時間を計画したり、道を歩く際も地図や道路標識を頼りに自分でルートを判断したりしていました。
当時は、家のなか以外でも、小さな計画力や判断力の訓練ができたのです。そのような子ども時代を経験してきた親は多いと思います。
■スマホやSNSで教育格差が拡大
しかし現代では、便利な道具や情報があふれ、日常のなかで試行錯誤する機会は大きく減っています。遊びは、既製のツールに頼ることが多く、完成されたルールのなかで楽しむ。移動もスマートフォンで検索すればルートや時間が一瞬でわかる。便利な環境のなかで、「自分で考える必要」がほとんどなくなってしまっているのです。
それだけでなく、今の子どもたちは進路選択が不自由になっているのではないかともいわれています。
スマートフォンやSNSで情報を簡単に手に入れられる時代において、大学や職業、働き方の情報はいつでも入手可能です。YouTubeを開けば、勉強方法や資格取得方法も、数えきれないほど検索できます。関心さえあれば、すぐに情報が手に入ります。
ところが、今の環境のほうが教育格差は広がっていると指摘されているのです。地域によっては、偏差値上位の大学を目指す人が少なくなり、都会の名門高校ばかりが難関大学の合格を手にしています。
■東京大学合格者の6割超は関東出身者
代々木ゼミナールが発表した東京大学2025年度入試データによると、前期日程合格者のうち関東出身者の割合は62%でした。
一方でそのほかの地域は、過去20年間で48%から38%へと10%も減少しています。地域別の志願者数を見ても、関東は増えているのに対し、九州・中国・四国などは減少傾向にあります。
東北大学や北海道大学のような地域の大学でも、同様の傾向が高まっています。北海道大学では2008年に5割を超えていた道内出身者の比率が、2025年には30%以下に減少しています。その代わりに関東出身者の割合が増加していて、北海道の人が北大を目指すのではなく都会の名門高校の生徒が「後期試験で東大の滑り止め」で行く大学になってしまっているのです。
こうした傾向の裏には、全国どこでも容易に「情報を得られる」環境である一方、その情報をもとに考え、行動を選び努力し、判断する経験そのものが減っている構造があります。
■地方の高校生が難関大に挑戦しない理由
これは、都会に住めばすべてが解決する、という単純な問題ではありません。確かに都市部には進学校や大手予備校が集中し、進学に関する情報や機会に恵まれています。都市部では同じ学校や予備校の仲間が東大や難関大学を目指していることが多く、子どもたちには、「自分も挑戦してみよう」と思いやすい空気感があります。
地方では、そもそも周囲に目指す人が少なく、教師や同級生との会話のなかでも難関大学が具体的な選択肢として出てこないことも多いのです。「挑戦する意識」が芽生えにくい環境に問題があります。
いえ、正確には「ありました」ではないでしょうか。ネット環境が整い、いつでも情報を平等に手に入れられる現在は、SNSや動画などで、進学体験談や勉強法、大学生活の様子など、ほしい情報を視聴できます。地方でも難関大学を目指す同志を見つけることもできます。
■「地方から東大は難しい」という刷り込み
都市部と地方との情報格差はなくなったのです。それなのに、地方の子どもたちが難関大学に挑戦しないのはなぜか。その理由は、「情報」そのものにあります。
スマートフォンで、いつでも、どこでも、世界とつながれるせいで、逆に自分の世界を狭めているのです。
つまり、提示されるのは自分が好む傾向に「近い情報」です。
言い換えれば、驚きや違和感を与える異質なものは意図的に排除されています。その結果、過去に言われていた「地方から東大は難しい」という動画や記事を今読んだ人は、同じような内容の動画や記事が画面上に表示されます。何度も「地方から東大は不利」「都会と比べると難しい」といった情報に触れていると、自分は挑戦してもムダだと考えてしまい、挑戦する意欲が薄れてしまう。意識的ではないにしろ、そのように思い込んでしまいます。情報が豊富にあるどころか豊富すぎるがゆえに、子どもたちの視野はアルゴリズムに囲い込まれ、広がるどころか狭まってしまうのです。
■負の思い込みの強度
同じことは大人にも当てはまります。
同じようなSNSやネット記事、広告を何度も繰り返し見てしまうことで「これが正しい」「これをやらなければ遅れてしまう」と思わされてしまいます。
数年前に流行ったダイエット方法やサプリの情報が、いまだに「効果的」として紹介されていることがあります。それを見た人は、試してみようか迷い、うまくいかないと「自分はダメだ」と落ち込んでしまうこともあります。
過去のトレンドが正しいかのように語られると、自分の判断よりも「みんながやっていること」に従わざるを得ない気持ちになってしまうのです。
さらに、日常生活の小さな選択にも影響します。コンビニで「この商品が人気」と紹介されると、特に味や必要性を考えずに手に取ってしまいます。スーパーでの健康食品や栄養ドリンクも、広告やレビューで「今の流行り」と言われ、買ってしまったことがある人も多いのではないでしょうか。
これらと同じように、子どもも情報に惑わされて、自分の未来の選択肢を狭めてしまうのです。ですので、親自身も誰かの言葉やデータを鵜呑みにせず、子どもに「本当にそうなのか?」と確かめる姿勢を見せることが求められます。
親が情報を整理し、自分の頭で判断する姿は、子どもにとって身近な手本となり、流されずに未来を選ぶ力を育てることになります。
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西岡 壱誠(にしおか・いっせい)
カルペ・ディエム代表
1996年生まれ。偏差値35から東大を目指すものの、2年連続で不合格に。二浪中に開発した独自の勉強術を駆使して東大合格を果たす。2020年に株式会社カルペ・ディエムを設立。全国の高校で高校生に思考法・勉強法を教え、教師に指導法のコンサルティングを行っている。日曜劇場「ドラゴン桜」の監修や漫画「ドラゴン桜2」の編集も担当。
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(カルペ・ディエム代表 西岡 壱誠)

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