風邪を引く人と引かない人の違いは何か。日本医科大学名誉教授の太田成男さんは「免疫力の土台となるミトコンドリアの働きは年齢とともに低下していくが、年を取ったからといって手遅れでは決してない。
ミトコンドリアの働きを助けて感染症に強い体をつくるために効果的な栄養素がある」という――。
※本稿は、太田成男『弱った体ががらりと変わる 本当の「解毒力」』(祥伝社)の一部を再編集したものです。
■「風邪をひく人、ひかない人」の決定的な差
同じ職場や家庭で生活していても、毎年のように風邪をひく人がいる一方で、ほとんど風邪をひかない「元気な人」がいます。
感染症の流行期に周囲が次々と体調を崩しても、なぜか平然としている人を見ると、「体が強いから」「生まれつき免疫力が高いから」「ウイルスに接触していなかったから」などと説明されがちです。
でも、本当にそうなのでしょうか?
まず大事な事実として知っておきたいのは、風邪の原因となるウイルスは、誰の体にも日常的に侵入しているということです。
鼻や口を通じてもウイルスや細菌と接触しており、私たちは呼吸をするたびに空気中の病原体を吸い込んでいます。つまり、「元気な人はウイルスに触れていないから風邪をひかない」のではありません。
元気な人が風邪をひかないように見えるのは、体内に入ってきた異物を、速く、静かに、きれいに片づける力が保たれているからなのです。
つまり、風邪をひくか、ひかないかの要因は、「ウイルスが体内に入ったかどうか」ではなく、入ったウイルスに対して体がどう反応し、どう処理できたかにあります。
風邪をひくという現象は、ウイルスそのものによる直接的な被害というよりも、ウイルスに反応した免疫の働きによって起こる側面が大きいのです。
発熱、喉の痛み、鼻水、倦怠感といった症状は、体が異物を排除しようとする過程で生じます。
■症状が出ることは「悪い」わけではない
ここで重要になるのが「自然免疫」です。

自然免疫とは、私たちが生まれながらに持っている、異物を素早く見分け、処理する仕組みのことです。自然免疫がうまく働いている場合、ウイルスが体内に入っても、初期段階で処理され、強い炎症反応を起こさずに済みます。その結果、本人は「何も起きなかった」「風邪をひかなかった」と感じるわけです。
一方で、自然免疫が過剰になったりすると、炎症が広がり、風邪などの症状として自覚されるようになります。ここで誤解してはいけないのは、症状が出ること自体が「悪い」わけではないという点です。
問題なのは、反応が必要以上に強くなり、長引いてしまうこと。つまり、風邪の症状が出るかどうかは、免疫が働いたかどうかではなく、免疫反応がどの程度まで広がったか、長引いたかによって決まります。
では、自然免疫がうまく働く人と、そうでない人の違いは何でしょうか。その大きなカギを握っているのが、ミトコンドリアの状態です。
免疫細胞は、異物を見つけ、動き、処理するために大量のエネルギーを必要とします。そのエネルギーを生み出しているのがミトコンドリアなのです。
■元気な人は風邪をひかないように見える理由
免疫細胞だけではなく、感染した細胞のミトコンドリアが元気かどうかも重要です。
ミトコンドリアが元気で十分に機能している免疫細胞は、感染した細胞に対し、必要に応じて素早く反応し、役目を終えたら速やかに沈静化します。
結果として、ウイルスは早期に処理され、炎症も最小限で済みます。これが「元気な人は風邪をひかない」ように見える正体です。
逆に、ミトコンドリアの働きが低下していると、免疫反応は鈍くなり、異物処理が遅れます。
その遅れを取り戻そうとして炎症が過剰になり、結果として症状が強く出たり、回復に時間がかかったりするのです。これは「免疫力が弱い」というより、「免疫の運用効率が悪い状態」といったほうが正確でしょう。
つまり、もともとの免疫力だけで健康状態は決まらない、ということなのです。
■ワクチンは自然免疫の代わりにはならない
「免疫力を高める」という言葉は広く使われていますが、その中身が具体的に語られることはあまり多くありません。その結果、免疫に関してしばしば異なる仕組みが一緒くたに語られ、誤解が生じてきました。とくに混同されやすいのが、「自然免疫」と「獲得免疫」です。
このふたつは、どちらも私たちの体を守る重要な仕組みですが、役割も性質も、働き方もまったく異なります。
では、自然免疫とは一体何なのでしょうか。

自然免疫は、私たちが生まれながらに持っている防御の第一線です。体内に異物が入ってくると、その正体が何であれ、「自分ではないもの」として素早く認識し、即座に反応します。反応の速さが最大の特徴で、数分から数時間以内に働き始めます。
自然免疫の目的は、異物を素早く処理し、大事に至らせないこと。ですから、実は炎症や発熱も、自然免疫が異物を排除するための正当な反応なのです。つまり、自然免疫は、あくまでその場をすぐに片づける役割を担っています。
一方、獲得免疫はまったく性質が異なります。
獲得免疫は、自然免疫が対応しきれなかった場合や、繰り返し侵入してくる異物に対して働く、後方支援型の免疫です。反応が始まるまでに7~15日の時間がかかりますが、その代わり、特定の異物を正確に識別し、「抗体」をつくり、「記憶」するという特徴を持っています。
■「免疫力=抗体の量」は大間違い
獲得免疫の強みは、過去と同じ異物が再び入ってきたときに、より効率よく対応できること。その反面、即応性に乏しく、体のエネルギー消費も大きいという側面もあるのです。
ところが一般には、「免疫=抗体」「免疫力=抗体の量」というイメージが強いのではないでしょうか。
その結果、獲得免疫ばかりが注目され、自然免疫の重要性がないがしろにされがちなのです。
とりわけワクチンの話題になると、この傾向が顕著になります。
ワクチンは、獲得免疫を人工的に刺激し、抗体をつくらせるという仕組みです。
これは感染症対策として有効な側面を持ちますが、自然免疫の代わりになるわけではありません。自然免疫がうまく機能していない状態で、獲得免疫だけを強く刺激すると、免疫全体のバランスが崩れやすくなってしまうのです。
「免疫力を高める」というのは、獲得免疫をやみくもに刺激することではありません。まず整えるべきは、自然免疫が正しく働ける環境なのです。自然免疫が安定していれば、獲得免疫は必要な範囲で静かに働きます。
自然免疫と獲得免疫をごちゃ混ぜで考えてしまうと、「抗体が多い=健康」「免疫が強い=安全」という単純な発想に陥りがちです。しかし、免疫の本質は量ではなく、役割分担と切り替えの巧みさにあるのです。
■免疫力の土台となるミトコンドリアの役割
自然免疫と獲得免疫は、別々に働いているのではなく、連携しながら体を守っています。
ミトコンドリアは、細胞のなかでエネルギーを生み出す小器官で、「細胞の発電所」と呼ばれることも多く、生命活動に欠かせない存在です。

しかし、ミトコンドリアの役割は、単にエネルギーをつくるだけではありません。実は、自然免疫と獲得免疫のふたつの免疫を左右する司令塔でもあるのです。
ウイルスが体内に侵入すると、細胞はその異常を感知して免疫システムのスイッチを入れます。この「スイッチ」を入れるために重要なのが、元気で正常に働くミトコンドリアです。
ミトコンドリアは、ウイルスを感知した細胞内シグナルを伝える「MAVS」というタンパク質の足場として働きます。これによりI型インターフェロン(IFN-α、IFN-β)やTNF-α、IL-6などのサイトカイン産生が促され、自然免疫による抗ウイルス応答が開始されます。
また、ミトコンドリアは体温の調節にもかかわっています。
体温が少し高い状態で免疫細胞が活発に働くことが知られており、ミトコンドリアが生み出す熱は免疫力を高める重要な要素となっているのです。
さらに、ウイルスに感染した細胞を安全に処理する「アポトーシス(細胞の自滅)」も、ミトコンドリアがコントロールしています。ウイルスに感染した細胞は自ら“死”を選び、ウイルスが体内で増殖するのを止める働きがあります。この仕組みによって、ウイルスが周囲に広がるのを防ぐことができるのです。
■ミトコンドリアを助ける栄養素の種類
そのうえで、獲得免疫の働きも見てみましょう。

獲得免疫においては、B細胞と呼ばれるリンパ球が、以前に感染した細菌やウイルスを認識する抗体(異物に対抗する物質)をつくり、感染の拡大を防ぎます。
具体的には、体内には、はるか昔に感染したウイルスや細菌を覚えている記憶(メモリー)B細胞が、ほんの少し保存してあります。感染を知らされると、この記憶B細胞はバージョンアップして抗体をつくれるようになるのです。
細胞の分化、つまりバージョンアップのためにはミトコンドリアが必要となります。また、抗体を多量につくり出すためには、B細胞が急速に増殖しなければなりません。そのためには、大量のエネルギーが必要になります。そのエネルギーを供給しているのもミトコンドリアなのです。
つまり、ミトコンドリアが元気でなければ、十分な抗体をつくることができません。そうなると、過去に感染した細菌やウイルスへの抵抗力が弱いままになります。
ミトコンドリアの働きは年齢とともに低下していきます。ただし、覚えておいてほしいのは、「年を取るともう手遅れ」では決してないということ。
実は、ミトコンドリアは運動によって増やすことができます。ややきついと感じる程度の早歩きや、早歩きとゆっくり歩きを繰り返すといった運動を続けることで、ミトコンドリアは活性化するのです。
さらに、ミトコンドリアの働きを助ける栄養素もあります。還元型コエンザイムQ10という補酵素やビタミンB群、アミノ酸の一種であるL-カルニチンタウリンなどは、エネルギー産生を支える重要な成分です。
■感染症に強い体をつくる習慣
これらは加齢とともに体内量が減るため、食事や、摂取量については注意が必要ですがサプリメントなどで意識的に補うことが勧められています。
このように、免疫力の土台にはミトコンドリアの健康が欠かせません。日々の運動や栄養を通じてミトコンドリアを元気に保つことが、感染症に強い体をつくり、健康な毎日を支えるカギとなるのです。

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太田 成男(おおた・しげお)

日本医科大学名誉教授

順天堂大学客員教授、薬学博士。1951年、福島県生まれ。74年、東京大学理学部化学科卒業。79年、同大学大学院薬学系研究科博士課程修了。スイス連邦バーゼル大学バイオセンター研究所研究員、自治医科大学講師・助教授などを経て、94年、日本医科大学教授に就任。2007年、医学誌『Nature Medicine』に論文を発表して以来、世界の水素研究をリードする。日本ミトコンドリア学会名誉理事長、日本分子状水素医学生物学会名誉理事長、国際水素医学生物学会名誉理事長など多くの要職を兼任。

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(日本医科大学名誉教授 太田 成男)
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