※本稿は、小林弘幸『メンタルは肉体が9割』(宝島社)の一部を再編集したものです。
■「履く靴」はメンタルにも影響する
普段、革靴やパンプス、ヒールの高い靴で通勤している人は、週に1回だけでも「スニーカー通勤」の日をつくってみてください。
靴が変わるだけで、体の動きは大きく変わります。歩幅が少し広がり、足裏が地面をとらえやすくなる。階段の上り下りが楽になる。駅までの道を、いつもより少し遠回りしてみようという気持ちが出てくる。こうした小さな変化が、心にも影響していきます。
メンタルを整えるうえで、歩くことはとても大切です。歩くと、ふくらはぎや太もももなどの大きな筋肉が動き、全身の血流が増加します。血液が全身を巡れば、脳にも酸素や栄養が届きやすくなり、頭がすっきりして、気分もリフレッシュできるものです。
ところが、歩きにくい靴を履いていると、歩くことそのものが負担になってしまいます。足が痛い。
おのずとエスカレーターを選び、近い出口を探し、それでもすぐに疲れを感じてしまうでしょう。つまり、体が動きにくい状態になると、運動量がどんどん減っていくわけです。
かといって、毎日スニーカーで通勤できる人ばかりではないはずです。職場や仕事の内容によっては、革靴やパンプスが必要な日もあるでしょう。だからこそ、まずは週に1回で十分です。外回りが少ない日、服装の自由が利きそうな日を選び、「今日はスニーカーの日」と決めてみてください。
■通勤を運動に変える「スニーカー通勤」
その日は、駅では階段を使ってみたり、ひと駅手前で降りてみたり、帰り道に少し遠回りしたりなど、歩く機会を増やしてみましょう。無理に長い距離を歩く必要はありません。歩きやすい靴を履くことで、「いつもより動いてみよう」という意欲が少しでも湧いてくることが大切です。
スニーカー通勤のよさは、運動を特別な時間として切り出さなくても、日常の中で歩く時間を増やせることです。忙しい人ほど、運動のためにまとまった時間をつくるのは難しいものです。しかし、通勤は多くの人が毎日行っています。その一部を歩きやすくするだけで、体を動かす機会を自然に増やすことができます。
最近では、革靴そのままの見た目ながら、スニーカーのように歩きやすいビジネスシューズも市販されていますので、スーツスタイルのビジネスパーソンにおすすめです。
■ネガティブ思考を一掃する呼吸法
呼吸は自律神経の働きに大きく関わっています。緊張したときには呼吸が浅くなっていて、ゆっくりと深い呼吸をすることで、副交感神経が働きやすくなる。これは、心を整えるうえでとても重要な体のしくみです。
ここでご紹介したいのは、それを実践しやすくした「1:2の呼吸法」です。
やり方はシンプルです。鼻から3~4秒かけて息を吸い、口をすぼめて6~8秒かけて、ゆっくり長く息を吐きます。吸う時間を「1」としたら、吐く時間を「2」にする。
ポイントは、吸うことよりも、吐くことにあります。不安や焦りが強いとき、人は無意識に息を吸おうとします。けれども、体が緊張している状態で無理に息を吸おうとしても、胸や肩に力が入り、かえって苦しくなることがあります。まずは、今、体の中にある息を、ゆっくりと吐き出しましょう。
長く吐くと、体は自然に次の息を吸おうとします。無理に深く吸い込もうとしなくても、吐き切ったあとには必要な分の空気が入ってきます。この「吐く時間を長くする」という動作が、副交感神経の働きを高め、過剰に高まった交感神経の働きを落ち着かせるきっかけになります。
■意識を「呼吸」にフォーカスすると…
もう一つ、この呼吸法には大きな利点があります。それは、「意識の向き」が変わることです。ネガティブな考えが止まらないとき、意識は頭の中に閉じ込められています。「どうしよう」「また失敗するかもしれない」と、同じ場所を堂々巡りしています。
そういうときは、思い切って意識のフォーカスをずらすことが大切です。
3秒吸って、6秒吐く。4秒吸って、8秒吐く。数を数え、吐く息の長さに意識を向けると、頭の中を堂々巡りしていた思考から、いったん距離を取ることができるのです。
1:2の呼吸法は、朝や寝る前などの習慣にしてもよいのですが、いつでもどこでも実践できます。会議の前、苦手な人に会う前、怒りを感じたとき。人前で大きく深呼吸をするのが難しい場面であっても、口をすぼめて静かに長く吐くだけなら、自然に取り入れられます。
ちなみに、心に余裕があるときの呼吸数は1分間に15~20回程度ですが、緊張しているときは20回以上に増えます。年齢によっても異なりますが、「呼吸が速くなっていないか」をチェックする一つの目安にしてください。
■「ソファに倒れ込む」は休息になる?
一日の仕事を終えて家に帰ったら、できるだけ早く休みたい。そう思うのは自然なことです。靴を脱いだ瞬間にソファに倒れ込み、そのままスマートフォンを見たり、テレビをつけたりして、しばらく動けなくなる。
しかし、体を休ませることと、いきなり動きを止めることは、同じではありません。
外で仕事をしている間、体は活動モードに入っています。交感神経が働き、頭も体も緊張し、周囲の刺激にすぐさま反応できる状態になっています。そこから家に帰った瞬間、急に何もしない状態へ落ち込むと、自律神経の切り替えがうまくいかないことがあります。
車でいえば、高速道路を走っていた車を、いきなり急停止させるようなものです。急に止まると、体は休息モードに入ったように見えても、体内ではまだ緊張状態が続いています。頭は仕事のことを考え続け、肩や首には力が入り、呼吸も浅いままです。その状態でソファに座り込むと、「安静にしているのに休まらない」ということが起こるのです。
■5分の「慣らし運転」で休息モードへ
さらに、そこでスマートフォンを見始めたりすると、休んでいるつもりでも脳は刺激を受け続けます。ニュース、動画、SNS、メッセージ。次々に情報が入ってくることで、交感神経の高ぶりはなかなか下がりません。
そこで大切なのは、家に着いたら、いきなり完全停止するのではなく、休息に入るための「慣らし運転」をすることです。
帰宅したら、まず荷物を決まった場所に置く。部屋着に着替える。洗濯物の整理や軽い掃除をする。食器を片づける。明日の準備を少しだけする。こうした小さな用事を、急がず、ゆっくり行います。
ポイントは、頑張って家事をこなすことではありません。活動モードから休息モードへ移るためのつなぎとして、体を少しだけ動かすことです。
体をゆっくり動かしているうちに、呼吸が整い、血流もよくなり、張りつめていた緊張感がゆっくりやわらいでいきます。
慣らし運転は、5分程度で十分です。「これだけやったら休む」と決めて、小さな行動を一つ終える。その区切りが、体に「もう休んでいいんだよ」というサインになります。
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小林 弘幸(こばやし・ひろゆき)
順天堂大学医学部特任教授
1960年、埼玉県生まれ。順天堂大学医学部卒業後、同大学大学院医学研究科修了。ロンドン大学付属英国王立小児病院外科、トリニティ大学付属小児研究センター、アイルランド国立小児病院外科での勤務を経て、順天堂大学医学部小児外科講師・助教授などを歴任。自律神経研究の第一人者として、トップアスリートやアーティスト、文化人のコンディショニング、パフォーマンス向上指導にも携わる。順天堂大学に日本初の便秘外来を開設した“腸のスペシャリスト”としても有名。近著に『結局、自律神経がすべて解決してくれる』(アスコム)、『名医が実践! 心と体の免疫力を高める最強習慣』『腸内環境と自律神経を整えれば病気知らず 免疫力が10割』(ともにプレジデント社)『眠れなくなるほど面白い 図解 自律神経の話』(日本文芸社)。新型コロナウイルス感染症への適切な対応をサポートするために、感染・重症化リスクを判定する検査をエムスリー社と開発。
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(順天堂大学医学部特任教授 小林 弘幸)

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