定時で帰れる人と帰れない人は、何が違うのか。周囲から“気が利く”と評価される働き方こそが、負担を増やす原因だという。
日本能率協会マネジメントセンター(編)『なぜか余裕がある人のやらない技術』から、仕事を抱え込まないための基準を紹介する――。(第2回)
■「相手の感情に合わせて」動かなくていい
相手が感情的な口調で話してきたとき、必要以上に急いで対応したり、引き受けるつもりのなかった仕事まで抱えたりしてしまった経験はないでしょうか。相手の感情に合わせて動くほど、仕事は増えていきます。あとから振り返ると、「そこまでやる必要はなかった」と感じるのに、相手の感情に押されて動いてしまう場面は少なくありません。
怒りや焦り、不安といった強い感情に触れると、それを和らげようとするのは自然な反応です。相手を気遣うことも大切ですが、その場の感情に引きずられると、本来の役割や優先順位よりも、「相手に配慮すること」が先に来てしまいます。その結果、必要以上の対応を引き受ける流れが生まれます。
たとえば、取引先が強い口調で「早く対応してほしい」と伝えてきた場合。
本来であれば、優先順位やスケジュールを確認してから調整すべき内容でも、相手の焦りに引っ張られて、すぐに対応を約束してしまうことがあります。その結果、ほかの業務を後回しにすることになり、全体の進行は崩れます。相手の感情に応じた判断は、別の負担を生んでいるのです。
社内でも同じです。
上司が苛立っている様子を見て、「とにかく早く終わらせよう」と無理なスケジュールで作業を進める。あるいは、同僚が不安そうにしているのを見て、本来は分担すべき業務まで引き受けてしまう。どちらもその場では関係を保てているように見えますが、役割の境界が曖昧になり、自分の負荷が積み重なっていきます。
■「配慮ができる人」ほど、負荷が増え続ける
日常的にやり取りがある相手ほど、感情の変化に気づきやすく、影響されやすくもなります。また、上下関係がある場合は、相手の感情に逆らいにくいものです。しかし、「相手の感情に応じる」という選択を優先していると、本来の役割を超えた対応が常態化していきます。
相手の感情に敏感に反応し、場を収めることは「配慮ができている」「気が利く」と評価されることもあるかもしれません。しかし実際には、外部の基準によって、自分の役割や優先順位が後回しになり、負荷が増え続けていくのです。
ここで必要になるのは、「相手の感情」と「自分の責任」を切り分けることです。相手が怒っている、焦っている――その事実は受け止めつつも、それに応じて自分の判断まで変える必要があるのかを見極めます。たとえば、「急ぎたい意図は理解しました。ただ、現状の優先順位ではこの時間になります」と、否定せずに感情を受け止めれば、関係を崩さずに負担を抑えることができます。

意識すべきは、相手の感情に巻き込まれず、適度な距離を保つことです。相手の感情に反応して動くのではなく、役割と優先順位に基づいて行動を選ぶと、仕事の量と質は安定していきます。
POINT

・相手の感情に流されるほど負担が増える

・自分の責任と相手の感情を切り分ける
■「優先順位」を他人に握らせない
誰かに頼まれたことを優先しているうちに、最初にやるはずだった仕事が後ろに回っている。作業は着実に片づけているのに、全体としては進んでいない。このずれが起きるとき、仕事の優先順位を他人に握られています。本来仕事の優先順位は、自分が判断軸となるべきものです。
多くの場合、仕事の順番は「重要度」や「締切」で決めるものです。しかし実際の現場では、「誰に頼まれたか」「言われたタイミング」といった要素で順番が入れ替わりやすくなります。声をかけられた仕事を優先して処理していくうちに、予定していた優先順位は崩れていきます。判断の基準が外側にあると、仕事の流れは安定しません。
たとえば、午前中に集中して進める予定だった業務があるにもかかわらず、チャットで届いた依頼に次々と対応してしまうことがあります。一つひとつは短時間で終わる内容でも、その都度手を止めることで、もともとの作業は細かく分断されます。
結果として、優先度の高い仕事が後回しになり、締切直前に慌てる状態になりかねません。
判断を求められる立場になることで、基準が揺らぐこともあります。複数のメンバーから「どれからやればいいですか」と相談を受けるたびに、その場の事情や相手の状況に合わせて判断を変えることもあるでしょう。配慮しているつもりでも、その都度基準を変えていては、全体の優先順位が一貫しなくなっていきます。自分自身の判断軸が曖昧だと、場当たり的に仕事を動かす状態に陥ってしまうのです。こうなっては、チーム全体の進行も不安定になります。
■「この時間に対応します」で関係は保てる
この状態は、関係性が近いほど強まります。頻繁にやり取りする相手や、影響力の強い人からの依頼は、優先度が高く感じられます。一方で、重要度が高くても締切が先の仕事は後回しになりがちで、質が落ちていきます。こうして、目の前の依頼に引きずられる形で、全体のバランスが崩れていきます。
相手の事情を配慮した判断は、「配慮のある柔軟な対応」と言えるかもしれません。しかし、割り込み作業が発生するたびに、思考の負荷が雪だるま式に増えていきます。
さらに、本来進めるべき仕事が遅れることで、重要な仕事の質も担保しにくくなります。
優先順位は「自分の軸で判断する」必要があります。依頼を受けたとき、相手のためにと優先対応するのではなく、今ある優先順位の中にどう組み込むかを考えるのです。すぐに対応しない場合でも、「この時間に対応します」と伝えれば、関係を保ちながら調整できます。基準を守ったまま動くことは、相手を軽視することではありません。
優先順位は状況に応じて変わるものですが、その判断軸は手放さないことがポイントです。主導権を自分に設定することで、仕事は安定して進みます。
POINT

・相手を優先していると優先順位を委ねてしまう

・優先順位の判断軸を握り、流れを守る
■「すみません」と言うほど、責任を引き受けてしまう
その「すみません」、本当に必要でしょうか。「場を荒らしたくない」「相手の機嫌を損ねたくない」という感覚から、ちょっとしたことで「すみません」と口にしてしまうことがあります。自分に非があるわけではなくても、場を和らげるために謝ってしまう。謝ることで関係がスムーズに進む場面もありますが、必要以上の謝罪は仕事の流れを歪めてしまいます。
摩擦を避けるために先に謝ることで、その場の空気は一時的に整います。
ただし、その一言が「自分に責任がある」という前提として受け取られることも少なくありません。謝罪によって、意図せず責任の所在を引き受けてしまう構造が生まれるのです。
たとえば、進行中の案件で相手の確認が遅れている場合でも、「こちらの確認が遅くてすみません」と言ってしまうことがあります。本来は相手の対応待ちであるにもかかわらず、自分の非として処理してしまう。すると、その後の調整やフォローも自分の役割として引き受ける流れになり、作業が増えていきます。何気ない一言で、仕事の分担が変わってしまうのです。
一言謝罪を加えることで、丁寧に対応しているように見えるかもしれませんが、実際には責任の範囲を広げ、仕事を増やしている場合があります。しかも、謝ることで場が収まるため、違和感に気づきにくいのです。その積み重ねが、負担の偏りや関係の歪みにつながっていきます。
■“気遣い”のつもりで謝らなくていい
また、会話の中でも謝罪がマイナスに働くことがあります。意見を伝える場面で、「生意気かもしれませんが」「間違っていたらすみません」と前置きを重ねると、言葉の重みが弱まり、本来伝えるべき論点がぼやけてしまいます。謝罪をクッションにすることで安心感は生まれますが、その分、伝える力は弱まります。

さらに、関係性によっても影響します。上下関係がある場面では特に、関係を保とうとする意識が強く働き、過剰に謝ってしまいがちです。
そうなると、対等に扱うべき内容でも、自分が引き受ける形に寄ってしまうことが起こります。相手の反応を優先しすぎるやり取りが続くと、役割の境界までも曖昧になっていきます。
見直したいのは、「謝るべき場面かどうか」を一度冷静に切り分けることです。自分に原因があるのか、それとも調整や説明で済む内容なのかを整理する。事実としての遅れやミスがあれば謝る。一方で、役割の範囲外であれば、状況をそのまま伝えるだけで十分な場合もあります。感情ではなく、事実と責任の所在で判断することが重要です。
謝罪は本当に必要な場面でだけ使い、それ以外は事実と役割を基準に言葉を選ぶ。不用意に謝らないことで、仕事と関係のバランスを保つことができます。
過剰な謝罪を避けることが、かえって信頼を安定させることにもつながります。
POINT

・謝罪は責任を引き受ける行為でもある

・気遣いでも不用意に謝らない

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日本能率協会マネジメントセンター(にほんのうりつきょうかいまねじめんとせんたー)

1991年、一般社団法人日本能率協会(JMA)から分社独立。JMAグループの中核企業として、「人材育成支援」「手帳」「出版」の3事業を展開し、組織の持続的成長と個人の能力開発を支援している。出版事業では、マネジメント、リーダーシップ、ビジネススキルなどの実務書を中心に、資格試験対策や学習参考書まで幅広く発行。ビジネスパーソンの成長を支える専門性の高い知見を多様なメディアを通じて発信し続けている。

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(日本能率協会マネジメントセンター)
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