「財布を忘れた」デート代を払わせて音信不通になった男性
ニューヨークでは、マッチングアプリに代わって注目されているのが、意外にも「ランニング・クラブ」だ。参加費がほとんどかからず、走りながら自然に異性と知り合えるからだという。
一方、日本ではいまだに「デート代は男がおごるべきか、割り勘か」という“奢り奢られ論争”がSNSを騒がせる。ところがアメリカでは、それ以前に「そもそもデート代を払えない」という問題が若者の恋愛を直撃している。
そんな事情を象徴するような出来事に、筆者もニューヨークで遭遇した。
先日、スーパーのレジで働く女性と仲良くなった。気が利くおしゃべり好きのアルバイト大学生だ。先日、道端でばったり会ったら「ねえ、聞いて。頭に来ちゃう」と話しかけてきた。
友人の知り合いだというイケメン会社員とデートしたが、財布を持って来るのを忘れたと言われ、その日のデート代を全額支払った。
アメリカでも「デート代は男性がおごるべきだ」という考え方は一般的だ。女性にとってみれば「一時的な救済」のつもりでデート代を全額支払ったのに、なぜ女性である自分がおごるはめになるのかと憤慨している。さりとて、デートして相手が気に入らなければ、二度と会わないというのは、当たり前のこと。自分も何度もそうしているとの自覚はある。デート代は折半しなければならないという法律があるわけでもなく、強制的に取り立てることもできない。
「男の風上にもおけない野郎だな。でも、つきまとわれるよりましだよ」と励ましにもならない言葉を返すしかなかったが、スーパーに行くたびによくしてくれる女性なので、気の毒でならなかった。
その数日後、ニューヨーク・タイムズを読んでいたら、同じような体験談が掲載されていた。
相手の男性が財布を忘れたと言い、後で必ず返すと誓ったのに、それきり男性から連絡が来ることはなかった、という。この女性は「ここ(ニューヨーク)のデート事情は最悪よ。本当にひどい」と話し、この体験だけでなく、デートがしにくくなった世の中に怒りをぶつけている。
アメリカ人の知人の家に食事に呼ばれて行った際、大学生の長男がいたのでこのことを尋ねてみると「マッチングアプリなんかで知り合って、初めてのデートで会った瞬間、タイプじゃないなと思ったら『財布を忘れた』と言うようにしているヤツはけっこういる。男だって費用対効果を考えないとね。何をするにも高いから」とのことだった。どうやら、「財布を忘れた」は手口として広がっているようだ。
デートする上での最大の障壁は「資金不足」
冒頭で触れたように、大手金融グループBMOによると、アメリカでの1回あたりのデート費用(デート前の身支度やガソリン代などを含む)は約189ドル(約3万円)で、前年比で12.5%増加した。同期間のアメリカのインフレ率が2.7%であることを考えると「デート・インフレーション」のすさまじさがわかる。
費用高騰でデートをするアメリカ人の過去1年間の平均デート回数は12となり、前年の14回から減少した。
特定の彼女や彼がおらず、相手探しをしている若者の場合、費用の負担感が特に重くのしかかっており、47%が「デートは金銭的に見合うものではない」と回答している。今の20代を中心とする「Z世代」では50%が「デート費用が経済的な目標達成の妨げになっている」と回答するなど、デートは楽しいものではなく、人生の苦痛に分類されている。
ニューヨークに住む別の知人の1人息子が就職を機に1人暮らしを始めたいと実家を出たが、家賃が高すぎて、仲間2人とともにルームシェアすることにした。マンハッタンではとても暮らすことができず、ブルックリンで部屋を見つけた。若者に人気のブッシュウィックという地域は、少々治安に難があるが、家賃や物価が比較的安く、ここ数年、住む場所としても、デートする場所としても、ニューヨークの若者の間でホットな場所になった。
しかし、この1人息子は住んでみて、恐ろしい勢いで環境が変化していることに気付いた。「家賃や物価が安くて若者や芸術家が移り住んできた所は、これから開発されるおしゃれな地域という評判が立ち、不動産業者や投資家が雪崩を打ってやってくる。カネに任せて物件を買いあさるから、あっという間に家賃相場がつり上がる。こうやって若者が住んだり、デートをする場所がニューヨークからなくなっていくんだ」
それを聞いて確かにそうだと思った。生活のためにニューヨークのハイヤーの運転手もしているが、この夏だけで3回、ブッシュウィックに外国人投資家を案内した。
カラオケ、スーパー銭湯……割安なデート天国の東京
その「Z世代」にとって「最も住みやすい都市」として選ばれたのが東京だった。タウン情報誌「タイムアウト」によるランキングだ。カラオケで歌いまくり、スーパー銭湯でくつろぎ、ボウリングや卓球、ダーツなどで夜を楽しめると評価された。円安で割安感があるところも大きな魅力だ。
ニューヨークの若者からすれば東京は「デート天国」。スーパーの女性も東京にいたらデート相手に「財布を忘れた」などと言われなかっただろう。
【谷中太郎】
ニューヨークを拠点に活動するフリージャーナリスト。
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