「財布を忘れた」デート代を払わせて音信不通になった男性

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デート1回3万円で「アプリ離れ」…米Z世代で激変する恋愛事情、無料の“ランニングクラブ”が人気の理由
マンハッタンの公園で談笑する若いカップル(撮影=筆者)
物価高が続くアメリカでは、いまZ世代を中心に“デート離れ”が進んでいる。食事に酒、移動費、デート前の身支度まで含めれば、1回の費用は約189ドル(約3万円)。「恋人は欲しい。
でも、デートにそんなお金は使えない」。そんな若者たちが増えた結果、出会いの場所にも異変が起きている。

ニューヨークでは、マッチングアプリに代わって注目されているのが、意外にも「ランニング・クラブ」だ。参加費がほとんどかからず、走りながら自然に異性と知り合えるからだという。

一方、日本ではいまだに「デート代は男がおごるべきか、割り勘か」という“奢り奢られ論争”がSNSを騒がせる。ところがアメリカでは、それ以前に「そもそもデート代を払えない」という問題が若者の恋愛を直撃している。

そんな事情を象徴するような出来事に、筆者もニューヨークで遭遇した。

先日、スーパーのレジで働く女性と仲良くなった。気が利くおしゃべり好きのアルバイト大学生だ。先日、道端でばったり会ったら「ねえ、聞いて。頭に来ちゃう」と話しかけてきた。

友人の知り合いだというイケメン会社員とデートしたが、財布を持って来るのを忘れたと言われ、その日のデート代を全額支払った。
好みのタイプでもあり、話も弾んでいたので、次に会った際に半額は返してもらえるだろうと思っていたが、その後、男性からは連絡がない。教えてもらった電話番号にかけてもつながらない。友人に聞いたら「タイプではないので、もう会わない」と話しているようだった。その日のデート代約230ドル(約3万6500円)はどぶに捨てるしかなかった、という。

アメリカでも「デート代は男性がおごるべきだ」という考え方は一般的だ。女性にとってみれば「一時的な救済」のつもりでデート代を全額支払ったのに、なぜ女性である自分がおごるはめになるのかと憤慨している。さりとて、デートして相手が気に入らなければ、二度と会わないというのは、当たり前のこと。自分も何度もそうしているとの自覚はある。デート代は折半しなければならないという法律があるわけでもなく、強制的に取り立てることもできない。

「男の風上にもおけない野郎だな。でも、つきまとわれるよりましだよ」と励ましにもならない言葉を返すしかなかったが、スーパーに行くたびによくしてくれる女性なので、気の毒でならなかった。

その数日後、ニューヨーク・タイムズを読んでいたら、同じような体験談が掲載されていた。
8月3日にアップされた「Z世代には初デートの余裕がない」との見出しの記事の中で、ニューヨーク市内に住む女性が記者に、最近のデートでの出来事を振り返っている。

相手の男性が財布を忘れたと言い、後で必ず返すと誓ったのに、それきり男性から連絡が来ることはなかった、という。この女性は「ここ(ニューヨーク)のデート事情は最悪よ。本当にひどい」と話し、この体験だけでなく、デートがしにくくなった世の中に怒りをぶつけている。

アメリカ人の知人の家に食事に呼ばれて行った際、大学生の長男がいたのでこのことを尋ねてみると「マッチングアプリなんかで知り合って、初めてのデートで会った瞬間、タイプじゃないなと思ったら『財布を忘れた』と言うようにしているヤツはけっこういる。男だって費用対効果を考えないとね。何をするにも高いから」とのことだった。どうやら、「財布を忘れた」は手口として広がっているようだ。

デートする上での最大の障壁は「資金不足」

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ビルの谷間にある小さな公園が若者たちのデート場所として人気(撮影=筆者)
ブリガムヤング大学ウィートリー研究所などの調査によると、アメリカの22~35歳の未婚の若者のうち、1カ月に1回以上デートをしていると答えたのは31%だった。積極的にデートをしているのは3人に1人しかいないということになる。デートする上での最大の障壁として、約52%が「資金不足」を挙げている。

冒頭で触れたように、大手金融グループBMOによると、アメリカでの1回あたりのデート費用(デート前の身支度やガソリン代などを含む)は約189ドル(約3万円)で、前年比で12.5%増加した。同期間のアメリカのインフレ率が2.7%であることを考えると「デート・インフレーション」のすさまじさがわかる。
若者のデート事情が荒廃するのがうなずける数字だ。

費用高騰でデートをするアメリカ人の過去1年間の平均デート回数は12となり、前年の14回から減少した。

特定の彼女や彼がおらず、相手探しをしている若者の場合、費用の負担感が特に重くのしかかっており、47%が「デートは金銭的に見合うものではない」と回答している。今の20代を中心とする「Z世代」では50%が「デート費用が経済的な目標達成の妨げになっている」と回答するなど、デートは楽しいものではなく、人生の苦痛に分類されている。

ニューヨークに住む別の知人の1人息子が就職を機に1人暮らしを始めたいと実家を出たが、家賃が高すぎて、仲間2人とともにルームシェアすることにした。マンハッタンではとても暮らすことができず、ブルックリンで部屋を見つけた。若者に人気のブッシュウィックという地域は、少々治安に難があるが、家賃や物価が比較的安く、ここ数年、住む場所としても、デートする場所としても、ニューヨークの若者の間でホットな場所になった。

しかし、この1人息子は住んでみて、恐ろしい勢いで環境が変化していることに気付いた。「家賃や物価が安くて若者や芸術家が移り住んできた所は、これから開発されるおしゃれな地域という評判が立ち、不動産業者や投資家が雪崩を打ってやってくる。カネに任せて物件を買いあさるから、あっという間に家賃相場がつり上がる。こうやって若者が住んだり、デートをする場所がニューヨークからなくなっていくんだ」

それを聞いて確かにそうだと思った。生活のためにニューヨークのハイヤーの運転手もしているが、この夏だけで3回、ブッシュウィックに外国人投資家を案内した。
不動産ブローカーと投資家の会話には巨大な金額が飛び交い、「即断即決」で買い注文が入っていた。若い世代からデートを奪っている責任は、その上の世代にあった。

カラオケ、スーパー銭湯……割安なデート天国の東京

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若者に人気のブルックリン・ブッシュウィック(撮影=筆者)
この1人息子のデートは、マンハッタンのビルの合間にある何の変哲もない公園でおしゃべりすることだという。今の恋人と出会ったのは「ランニング・クラブ」だった。ニューヨークではカネがかからずに異性と巡り合えるとして「ランニング・クラブ」はマッチングアプリを超える存在感になりつつある。

その「Z世代」にとって「最も住みやすい都市」として選ばれたのが東京だった。タウン情報誌「タイムアウト」によるランキングだ。カラオケで歌いまくり、スーパー銭湯でくつろぎ、ボウリングや卓球、ダーツなどで夜を楽しめると評価された。円安で割安感があるところも大きな魅力だ。

ニューヨークの若者からすれば東京は「デート天国」。スーパーの女性も東京にいたらデート相手に「財布を忘れた」などと言われなかっただろう。

【谷中太郎】
ニューヨークを拠点に活動するフリージャーナリスト。
業界紙、地方紙、全国紙、テレビ、雑誌を渡り歩いたたたき上げ。専門は経済だが、事件・事故、政治、行政、スポーツ、文化芸能など守備範囲は幅広い。
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