健康を維持するために、すぐにできて効果的な運動とは何か。順天堂大学医学部教授で自律神経研究の第一人者・小林弘幸氏は「ランニングは呼吸が浅く速くなり、副交感神経を下げてしまう。
自律神経を整えるために効果的なのは、夕食後のウォーキングだ」という――。
※本稿は、小林弘幸『科学的に証明された 自律神経を整える習慣』(アスコム)の一部を抜粋・再編集したものです。
■交感神経優位だと呼吸は浅く速くなる
私たちは、1日で2万回もの呼吸をしています。呼吸はまさに自律神経によって動いていますから、ほとんどの人は普段、意識すらしていないでしょう。
以前は私も呼吸についてなど強く意識したことはありませんでしたが、50代のなかごろに、急に喉頭蓋が腫れ、咳が止まらず、呼吸ができなくなってしまったことがありました。たった数十秒でしたが、大げさではなく死を意識したことで、呼吸の大切さを痛感しました。
呼吸は、交感神経優位だと浅く・速くなります。もしも1分間で20回を超える呼吸をしているのなら、交感神経が上がりすぎているサインです。取り込んでいる酸素量が不足して、自律神経にも悪影響を与えかねません。
そこで私は、毎日1分程度、意識しながら行なうだけでよい呼吸の習慣ができる「長生き呼吸法」を考案しました。ここではその概要をご紹介しましょう。
■1日1分で始められる「長生き呼吸法」習慣
自律神経を整える「長生き呼吸法」の基本は、「鼻から3秒吸い、口から6秒吐く」という、「1:2」のリズムです。
この呼吸法を覚えたら、次のような動作とともに行ないます。
(1)足を肩幅程度に開き、まっすぐ立つ。肩の力を抜き、両手を脇腹に当てて、肋骨の下を軽くつかむ。
(2)3秒間、鼻から息を吸いながら、上体をそらして両手の力を緩める。
(3)6秒間、口からゆっくり吐きながら、上体を前に倒し、両手で脇腹の肉をおへその側に集め、腸に痛くない範囲で、適度な刺激を与える。

以上で1セットです。1日1分程度でもいいですし、何度やってもOKです。
さらには夜寝る前、副交感神経を優位にして、睡眠の助けになる呼吸法も紹介しておきましょう。
(1)足を肩幅程度に開き、まっすぐ立つ。両手を上に伸ばして手首をクロスさせ、鼻から3秒息を吸う。
(2)一気に力を抜いて両手を下げ、口から6秒息を吐く。

これを繰り返すことで、全身からほどよく力が抜けます。
睡眠前の習慣に取り入れておくといいでしょう。
■加齢と共に副交感神経は低下する
「免疫力」という言葉は、新型コロナウイルス感染症の流行以降、それまでに増してよく語られるようになりました。免疫力がなぜ重要なのかといえば、病気にかかりにくく、そしてかかっても回復をスムーズにするためです。
ところで、人間が病気になってしまう原因には、大きくはこの「免疫系」にトラブルがあるか、「血管系」にトラブルがある場合に分けられます。血管と聞いてピンと来た方は優秀です。結局、どちらにも自律神経の乱れが深く関わっています。自律神経が乱れていれば両方悪化し、整っていれば両方よくなるわけです。
つまりは、免疫力を上げたいなら、自律神経のバランスをよくすることをおすすめします。男性は30代、女性は40代にさしかかると副交感神経が低下する傾向にあり、自律神経のバランスは乱れてきます。それに伴い免疫力も下がり、血管も老化して、病気にかかりやすくなっていってしまうのです。
ということは、そのくらいの年齢になったら、意識的に副交感神経を上げるための行動をとるといいことになります。自律神経のバランスが整いやすい運動をうまく取り入れて、健康的に体力の維持を目指せるといいでしょう。

■夕食後の軽いウォーキングがちょうどいい
とはいえ、忙しい毎日のなかで、運動にあまり時間を割くことも、無理な強度で行なうことも現実的ではありません。では、どの程度の運動が効率的で、自律神経にちょうどいいのでしょうか。
手軽に始められるのでランニングは人気ですが、自律神経を整えるうえでは少し刺激が強いと考えます。呼吸法でも説明しましたが、走るとどうしても呼吸は浅く、速くなります。これは結果として、カロリーは消費できても、副交感神経を下げてしまうことになるのです。
また、起床後間もない時間に走るのも、あまりおすすめしません。場合によっては心筋梗塞などを起こしかねないからです。
おすすめは夕食後のウォーキングです。強度が低いと感じるかもしれませんが、むしろそれが副交感神経によいのです。強度のレベルはギリギリ会話ができるかどうか。息が上がってしまう場合はペースの上げすぎと考えるようにしましょう。
時間も1日30分~1時間で充分です。
寝る3時間前に夕食をすませてから始めるとちょうどいいでしょう。ぜひ習慣化してみてください。
■「なんとなくモヤモヤ」にも呼吸法
世の中のあり方が大きく変わった昨今。その変化のせいもあって、不安な気持ちが晴れなかったり、なかなかポジティブな気持ちになれなかったりする人も少なくないのではないでしょうか。
こうした、「べつに心身のどこにも異常はないはずなのに、なんとなく不安だ」と感じるような状態は、じつはストレスにさらされている状態なのです。
ストレスのもとがわかれば対処のしようもありますが、私が診てきた症例のなかには、とくに大きな問題はなさそうでも、モヤモヤ感だけが極端に強いパターンがあります。アーティストやアスリートなどにも、意外と多い症例です。
これは、副交感神経の働きが弱まっているからだと解釈できます。何か直接的な不安の原因があるわけではなく、副交感神経が低下していることが、漠然とした不安感や倦怠感を引き起こしてしまっているのです。
思い当たる節がある方は、「鼻から3秒吸い、口から6秒吐く」1:2の呼吸法である「長生き呼吸法」を試してみましょう。漠然とした不安や緊張は、自律神経のバランスを整えることで解消されます。
■アスリートも実践するリラックス方法
また、ここでは大事な面接やプレゼンなど、とくに緊張を強いられる場面で有効な「ドキドキ解消呼吸法」をお教えしましょう。
アスリートやアーティストなどに指導する場合にもベースにしている方法で、リラックス効果があります。
【姿勢】

(1)椅子に座る

(2)背筋を伸ばす

(3)両手で体を包むように腕組みする(目は閉じても、開いてもよい)
【呼吸】

(1)両腕で体を抱きしめながら、3秒、鼻から息を吸う

(2)続いて6秒、口からゆっくり息を吐く

この動作を10回程度繰り返してみてください。時間にして2分程度です。副交感神経を高めることで、緊張や不安が解消されやすくなるでしょう。

----------

小林 弘幸(こばやし・ひろゆき)

順天堂大学医学部特任教授

1960年、埼玉県生まれ。順天堂大学医学部卒業後、同大学大学院医学研究科修了。ロンドン大学付属英国王立小児病院外科、トリニティ大学付属小児研究センター、アイルランド国立小児病院外科での勤務を経て、順天堂大学医学部小児外科講師・助教授などを歴任。自律神経研究の第一人者として、トップアスリートやアーティスト、文化人のコンディショニング、パフォーマンス向上指導にも携わる。順天堂大学に日本初の便秘外来を開設した“腸のスペシャリスト”としても有名。近著に『結局、自律神経がすべて解決してくれる』(アスコム)、『名医が実践! 心と体の免疫力を高める最強習慣』『腸内環境と自律神経を整えれば病気知らず 免疫力が10割』(ともにプレジデント社)『眠れなくなるほど面白い 図解 自律神経の話』(日本文芸社)。新型コロナウイルス感染症への適切な対応をサポートするために、感染・重症化リスクを判定する検査をエムスリー社と開発。

----------

(順天堂大学医学部特任教授 小林 弘幸)
編集部おすすめ