後悔のない人生を過ごすには何をするといいか。医師の和田秀樹さんは「高齢者はお金を持っているだけでは意味がない。
お金は使うことによって、人から感謝されたり、優しくされたりする。また、奮発して楽しんだ思い出は、自分を支える一生の財産になる」という――。
※本稿は、和田秀樹『認知症でもひとり暮らし』(明日香出版社)の一部を再編集したものです。
■お金の心配をするより「もっと使っておく」
老いて行くことに不安はつきものです。そのうえ、認知症と診断されたら、もっと不安になってしまうと思います。ただ、結論からいうと、お金についての心配はしなくても大丈夫です。
いろいろと問題のある日本ですが、福祉制度は比較的しっかりしています。ご存じないかたのほうが多いかと思いますが、認知症の場合は、症状が重くなるほどに、患者さんの経済的な負担が軽くなるようになっているのです。
症状が重度になって、たとえばコストの低い特別養護老人ホームに入れば、月々の負担は10~15万円で済みます。認知症は重くなるほどに活動しなくなるので、ホームに入る頃には、それ以上のお金は必要なくなると思っていいでしょう。
持ち家のかたは、その家を売却すれば、有料老人ホームに入居して、悠々と暮らし続けることもできます。逆に、持ち家がなければ、生活保護が受けやすくなるという利点が出てきます。
生活保護を受けていても、特別養護老人ホームに入ることはできるので、実質的には、無料で利用できることになるのです。
私の経験からいえば、お金の心配は、一番しなくていいことだと思います。それよりも、患者さんが死ぬ前に後悔していたことは「お金をもっと使っておけばよかった」のほうなのです。
■他人のためにお金を使うと強い充足感を得る
人間は、体が弱ってきたり、認知症が重くなってきたりすると、意外とお金が使えません。旅行やグルメを楽しむ体力も気力もなくなりますし、老人ホームの費用も、たいがいは厚生年金の範囲で収まります。そして、皆さん、一所懸命に節約して貯金しなくてもよかったんだ、もっと使っておけばよかったと後悔するわけです。
人生も終わり間際になって、後悔に歯噛みして毎日を過ごすなんて、私はまっぴらです。体も心も元気で、頭もしっかりしているうちに、お金をどんどん使って人生を楽しむべきです。
お金を使うことによって、人から感謝されたり、優しくされたりするのは事実です。買い物をすれば、お店の人もよくしてくれます。そういった周りからの反応によって機嫌よく過ごせるのであれば、そうしたほうがいいのです。
高齢になってからのお金はそのためにあるといってもいいでしょう。
お金は持っているよりも、使ってこそ価値があります。いまこそ、考えかたを改めるときです。
まずは、自分の楽しみにお金を使うこと、余裕があれば、他人のためにも使うことで、強い充足感が生まれます。
それが、心の健康や免疫力アップにつながり、老いを遅らせることにつながります。
■奮発して楽しんだ思い出は一生の財産に
実はお金を「何に使おうか」と考えるだけでも、前頭葉は働きます。ちょっと奮発して欲しかったものを買ったときに、気分がガッと上がり「明日から、また頑張るぞ!」とやる気が湧いてきた経験があると思います。これが、前頭葉が刺激されている証拠です。
質素倹約を心掛けている人でも、たまには贅沢したほうがいい。たまの贅沢で、前頭葉は刺激され、心も豊かになります。
私は、贅沢な経験が支えになったことがあります。その話をさせて下さい。
ワインが好きなので、仕事で頑張ったなと思えると、いいワインを飲む習慣があります。
お金はかかりますが、美味しいワインを飲んでいるときは、私にとって至福のときなのです。
そんな私も、コロナ禍でワインどころではなくなりました。
代表を務めている通信教育の会社のお客さんが激減してしまったのです。同時に、講演などの依頼もどんどんなくなり、毎月のマンションのローンが払えない状況にまで陥りました。そのため、借金もつくりましたし、いつか大事なときに飲もうと思っていたワインを泣く泣く売りにも出しました。
でも、そのとき「高いワインを買って贅沢をしなければよかった」などというはまったくしませんでした。「美味しいワインを飲む」という経験ができたことに満たされていましたし、このまま貧乏になったとしても、あのときの経験を糧に生きて行けるとさえ思ったのです。
幸い、コロナ禍が終わって、どうにかなったのですが、あのときの経験から「奮発して楽しんだ思い出は、自分を支える一生の財産になる」と気づかされました。
実際、ホームに入っている高齢者のかたたちも「若い頃、こんなすごい経験をした」「あのときは大金をスッてすっからかんになったけど、あんなに愉快だったことはない」などと、お金を使ったときのことを、楽しい思い出として語るのです。その姿は、いつも生き生きとしています。
寝たきりになったとしても、そういう輝く思い出こそが、その後の人生を支えてくれます。これこそ、生きたお金の使いかたといえるでしょう。

■日頃から「財産は遺さない」と明言する
「子供のために少しでも財産を遺したい」と考える人も多いようですが、先のことを考えてみて下さい。
仮に90歳で自分が死ぬとすると、25歳でもうけた子供は、すでに65歳になっています。これは一般的に定年退職を迎える年代です。子供のほうの人生も終盤で、自分のお金を自由に使えるようになっているはずです。
そんな年齢になってまで、親の金をあてにする人間でいるのはまずい。子供の金銭面の面倒を見っぱなしで、お金を遺すことばかり考えていたら、子供は「60代のニート」になってしまいます。子供の依存心をはねのけるためにも、日頃から「財産は遺さない」と明言しておくことも必要なことなのです。
結局のところ、死ぬ間際まで残るものはお金ではありません。「思い出」ですよ。

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和田 秀樹(わだ・ひでき)

精神科医

1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。
東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。幸齢党党首。立命館大学生命科学部特任教授、一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、40年にわたり高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)、『60歳を過ぎたらやめるが勝ち 年をとるほどに幸せになる「しなくていい」暮らし』(主婦と生活社)など著書多数。

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(精神科医 和田 秀樹)
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