※本稿は、松本俊彦『希死念慮と自傷のことがよくわかる本』(大和出版)の一部を再編集したものです。
■子供から見た親の「無視」
自傷は、人に見せるためというより、むしろ隠されやすいものです。
だから、家族がわが子の「死にたい」という言動に気づく段階では、本人の状況がかなり切迫している恐れがあります。
親御さんのなかには、より慎重になり、希死念慮や自傷の話題そのものを避けたがる人もいます。
どこかで子どもの話を聞かなければならないとわかっていても、どんな反応をされるのかが怖くなり、話しかけられなくなる人も。
「無視」や「見て見ぬ振り」は、“大人の対応”のように見えるかもしれませんが、じつは親自身の感情を優先した「冷静さを欠いた行為」のひとつだといえます。
子どもからすると「親は気づいているはずなのに、なにも言ってくれない」と、親から見離されたような気持ちになります。深い落胆を招き、どこにも居場所がないような孤立感を覚えるようになるでしょう。
■家庭を「安全の場」にしていく
大切なのは、「気づいている」ということを、落ち着いた態度で子どもに伝えることです。
「最近、傷が増えているね」「なにかあったのかな」、そして「無理にとは言わないけれど、私はあなたが話してくれたらうれしいよ」と、しっかりと言葉にして伝えることが重要です。
こうした言葉をかけておくだけで、子どもからSOSを出しやすいオープンな状況をつくることができます。
子どもが思春期であれば、親子関係がぎくしゃくしてしまう家庭もあるでしょう。すぐに親子でなんでも話せるようになるのは難しいかもしれません。
でも、親が子に向き合い、関わりをもち続ける意思があることをきちんと態度で示していけば、少しずつ信頼が積み重なっていきます。
さらに、家庭が本人にとって「安全の場」として機能できれば、状況は変化します。「ここなら話してもいい」「つらくなったら戻ってこられる」。そう感じられたら、生きる力をとり戻すことができるはずです。
困ったときにSOSを出せる関係を築くことそのものが、状況改善や自殺予防にダイレクトにつながっていくのです。
■親は「支えを必要とする側」でもある
子どもの自傷に向き合うとき、家族だけで子どもを支えようとすることには限界があります。
ある研究では、自傷のある子を支える親は、ショックや不安、無力感、罪悪感、孤立を経験しやすく、そのことが子どもを支える力にも影響しうるとされています(※)。だから親は「支える側」であると同時に、「支えを必要とする側」でもあるのです。
家族は本人との距離が近いため、どうしても感情的な反応が起こりやすくなります。
批判や過干渉、あるいは無視といった関わりは、本人に「理解されない」という感覚を与え、苦しさを強めてしまいます。こうした状況を防ぐためにも、家族が専門家とつながることは重要です。
医療機関や相談機関とつながることは、治療を受けるためだけではありません。
第三者の視点を得て、いまなにが起きているのかを整理し、家族がどのように関わればよいかを学ぶ機会にもなります。それにより親子関係が安定し、結果的に子どもの状態がよくなることもあります。
※ Arbuthnott AE, Lewis SP. Parents of youth who self-injure: a review of the literature and implications for mental health professionals. 2015
■親自身の危機に陥った際に頼るべき機関
また、親自身が不眠や抑うつ、強い不安におちいることは珍しくありません。親の心身の不調を整えることは、家庭の雰囲気を安定させ、子どもへの対応を安定させることにもつながります。精神科・心療内科・かかりつけ医などに相談することも検討して下さい。
自傷のある子の親は、ケアによる疲弊が起こりやすいことが知られています。親の調子が崩れてしまうと、家庭の雰囲気がわるくなり、子どもに安定的な対応ができなくなります。
厚生労働省の「まもろうよこころ」には、電話・SNS相談窓口がまとまっています。これは、親自身の危機にも使うことができるので、チェックしてみてください。
■学校が原因なら本人同意で相談を
学校との連携が必要かどうかは、まず学校が苦しさの原因に関わっているか、そして学校が支えになりうるかを見極めることからはじまります。
学校の外におもな原因があり、本人にとって学校が安心できる場になっているなら、学校側に自傷のことを知らせる必要はないでしょう。
けれども、いじめ、友人関係、教師との関係、学業や部活動など、学校生活が苦しさに関わっているなら、学校を外したままにはできません。学校でのつながりや居場所は、10代の自殺念慮や自傷のリスクを下げる保護因子でもあるからです。
ただし、学校への相談は、できるだけ本人の同意を得て進めます。思春期の子どもは、自傷や「死にたい」という気持ちを大人に知られること自体を強く恐れていることがあります。
本人に無断で話を進めると、「裏切られた」「もう話せない」という不信感を強めてしまうことがあります。まずは本人と話し合い、「なにを、だれに、どこまで伝えるか」を決めましょう。
必要なのは、学校に知らせることそのものではありません。本人が安心して自分の気持ちを話せるようにするための連携をつくることです。
相談先は、最初から広くする必要はありません。担任、養護教諭、スクールカウンセラーなどから、本人が話しやすい人を窓口にすればよいでしょう。
■子どもと家族を支える公的窓口
専門家とつながりたいなら 精神保健福祉センター
各都道府県に設置されている、心の問題の専門相談窓口。精神科の医師をはじめ、保健師、看護師、精神保健福祉士、公認心理師、作業療法士、精神保健福祉相談員などの専門職が常駐している。「精神保健福祉センター+地域名」で検索すると見つかる。電話相談が基本で、匿名相談ができることも多く、予約による面談相談を行っているところも。思春期のこころの相談(自傷・希死念慮を含む)に対応し、現在の状態の見立て、受診の必要性の相談、適切な医療機関の紹介、家族からの相談にも応じている。
まずだれかに相談したいとき 保健所・保健センター
地域の保健相談の入口となる公的な窓口。市区町村役場に電話で問い合わせるか、自治体のホームページで「保健所」「保健センター+地域名」と検索すると見つかる。電話相談や来所相談ができることが多く、相談は無料で、秘密も守られる。心の健康相談のほか、子どもや家庭に関する相談にも応じており、必要に応じて精神保健福祉センターや医療機関など、次の相談先につないでもらうことができる。受診すべきか迷うときの最初の相談先としても使いやすい。
家庭全体の問題を支えてほしいとき こども家庭センター
市町村が設置を進めている、こどもと家庭への一体的な相談支援を担う窓口。
学校に問題があるかもと思ったら 教育センター・学校の相談窓口
いじめ、不登校、友人関係、学業の不安など、学校に関係する悩みを相談しやすい公的な窓口。都道府県や市区町村の教育センターのほか、学校では担任、養護教諭、スクールカウンセラーなどが相談先になる。文部科学省は、24時間子供SOSダイヤル(0120‐0‐78310)を案内しており、子ども本人だけでなく保護者も相談できる。学校生活のなかで起きていることを整理したり、学校との連携のきっかけをつくったりする際に役立つ。
つらくて切羽詰まったとき こころの健康相談統一ダイヤル
TEL:0570‐064‐556
こころの不調について相談できる公的な電話窓口。都道府県ごとの相談機関につながるしくみで、対応する曜日や時間は地域によって異なる。
自分に合う相談先を探したいとき 厚生労働省「まもろうよ こころ」
地域別・悩み別に相談窓口を検索することもできる。親自身がつらくなっているときや、どこに相談したらよいかわからないときの入口として利用しやすい。
URL:https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/
子どもの自殺は社会全体で考えるべき問題です。公的な機関に専門家が派遣されています。
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松本 俊彦(まつもと・としひこ)
精神科医、国立精神・神経医療研究センター(NCNP)精神保健研究所薬物依存研究部部長、同センター病院薬物依存症センターセンター長
1993年佐賀医科大学医学部卒業。2003年横浜市立大学医学部精神医学教室医局長。2004年国立精神・神経センター精神保健研究所司法精神医学研究部専門医療・社会復帰研究室長、同研究所自殺予防総合対策センター副センター長を経て現職。2017年より国立精神・神経医療研究センター病院薬物依存症センターセンター長を兼務。自傷・自殺予防、若年のオーバードーズ(OD)、依存症の診療・研究の第一人者。日本精神神経学会 精神科専門医・指導医/精神保健指定医・判定医。依存症治療プログラムの普及、自傷行為や自殺に関する臨床研究にとり組む。著書に『自傷行為の理解と援助』(日本評論社)、『誰がために医師はいる』(みすず書房)、『身近な薬物のはなし』(岩波書店)など。横道誠との共著に『酒をやめられない文学研究者とタバコをやめられない精神科医が本気で語り明かした依存症の話』(太田出版)など。監修書多数。
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(精神科医、国立精神・神経医療研究センター(NCNP)精神保健研究所薬物依存研究部部長、同センター病院薬物依存症センターセンター長 松本 俊彦)

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