※本稿は、橋本之克『チームは「仕組み化」でうまくいく 組織力を高める行動心理学』(祥伝社)の一部を再編集したものです。
■なぜ人は相手の言葉に反発するのか
事例:何を言っても反発してくる部下。上司としてどう指導すればいい?
制作部のマネージャー・花田さんは、部下のデザイナーである笹川さんへの対応に悩んでいる。笹川さんはセンスもよく成果も出しているが、花田さんが出す修正指示や提案に対しては必ず反発してくるからだ。
「こうすれば?」とアドバイスすれば、「でも私はこう思います」「このやり方で過去に結果を出してるんで」と何かしら一言返ってくる。
いずれも一理あるため、花田さんとしては強く否定しづらく、いちいち議論が長引くためストレスもたまる……。
上司が指導のつもりで伝えるアドバイスに、ことごとく反発の態度を見せてくる。この現象は、「心理的リアクタンス」という概念で説明できます。
リアクタンスとは、交流回路における電流を妨げる電気抵抗のこと。心理的リアクタンスとは、自分の選択の自由を脅おびやかされたと感じた人が、その自由を取り戻そうとする反射的な抵抗を意味します。
心理的リアクタンスを伝える上で一番わかりやすいのは、イソップ寓話(ぐうわ)の「北風と太陽」でしょう。
外から力を加えるほど抵抗は強まるが、自ら動きたくなる環境を整えると自発的な行動が生まれる――。この構図は職場の人間関係にもそのまま当てはまります。
■反発の要因は「指導内容」ではなかった
冒頭のケーススタディの場合、上司の「指導」に部下が反発するのは、おそらくそのアドバイスの妥当性だけが問題ではないはずです。それ以上に、「上司の指導」という裏に見え隠れする強制力への反射的な抵抗が、「つい一言返さずにはいられない」という行動につながっているのでしょう。
「よかれ」と思ってのアドバイスであり、実際には役立つプラスの内容であっても、「やらされている」「決め付けられた」と感じた瞬間、人の心には無意識的に抵抗の気持ちが生まれます。「よかれ」との思いから懸命に説得すればするほど、言われた側の反発を招いてしまう。そんな皮肉な構造が社会には潜んでいます。
では、組織のリーダーはどうすれば「北風」役から脱することができるのでしょうか。現時点で有効とされる手段のひとつが、「問いかけ」です。
■「どうすればいいと思う?」の絶大な効果
心理学のある実験では、参加者を2つのグループに分け、アナグラム(文字を並べ替えて別の単語を作るパズル)に取り組む前の「自分への語りかけ方」をそれぞれに変えました。
一方のグループは「自分はこれに取り組むだろうか?」と疑問形で考える。もう一方は、「自分はこれに取り組む」と断定形で考えました。
結果、疑問形で考えたグループの正解数は平均2.60問、断定形は平均1.84問と、疑問形のグループのほうが有意に高い成績を残したのです(注1)。
つまり、「自分はやる」と言い聞かせるより、「自分はやるだろうか?」と自問するほうが、行動意欲は高まったということ。これは、疑問形によって「自分で考え、自分で決める」という感覚が生み出されるからです。
このメカニズムは他者への声かけにも応用できます。
「こうすればいい」「こうしなさい」と最初から押し付けるのではなく「どうすればいいと思う?」と相手に問いかけることで、相手は自ら思考して内発的動機が高まるため、自分ごととして実行に移しやすくなります。
注1:Senay, I., Albarracín, D., & Noguchi, K.(2010)“Motivating goal-directed behavior through introspective self-talk: The role of the interrogative form of simple future tense. Psychological Science, 21(4), 499–504.
■「自分で選んだ」感覚を与える方法
心理的リアクタンスを踏まえると、指導の効果を高めるうえで最も重要なのは「押しつけない設計」です。リーダーが正しいことを言っていても、伝え方が一方的であれば、メンバーは内容以前に「決められた」という感覚に過敏に反応してしまいます。
大切なのは、メンバーが「自分で選んだ」「自分で考えた」と感じられるプロセスを意図的に作ることです。
そのために有効なのが、選択肢を示して選んでもらうアプローチです。
「AとBとC、どれが自分に合いそう?」と3つ程度の選択肢を提示すると、相手は選ぶ主体になれます。
また、「あなたはどうすればよいと思う?」という問いかけは、答えを押しつけずに相手の思考を引き出す効果があります。普段から反発が大きいメンバーほど、まず現状を肯定したうえで問いを投げることが、信頼関係を崩さない指導の起点になります。
■緊張をほどくゆとりが生むメリット
加えて意識したいのが、「説得」より「傾聴」を優先する姿勢です。リアクタンスが強いメンバーほど、頭の中に「自分なりの考え」を持っています。
それを最後まで聞かずにアドバイスをかぶせてしまうと、たとえ内容が正しくても「結局、聞く気はないんだな」と受け取られてしまう。反論や提案は、相手が話し終えたあとで十分です。「まず話を聞いてもらえた」という体験そのものが、メンバーの心を開く最初のスイッチになります。
そしてもうひとつ、対話の場でぜひ取り入れたいのが「ユーモアの活用」です。指導の場が深刻になればなるほど、リアクタンスは強まります。
場の空気が重くなりそうな瞬間に、軽い冗談や自虐を一言交える。それだけで相手の感情は和らぎ、言葉の内容が届きやすくなります。リーダー自身の自然なスタイルで取り入れるのがポイントで、無理に笑わせる必要はありません。
■「問いかけ、選ばせる」コツ
【POINT1】まず現状を肯定してから話す
「こないだのサポート、めっちゃよかったよ」のように、現状を認めることから始める。冒頭で肯定されることで、相手の警戒心が薄れ、その後の言葉を受け取りやすくなる。否定から入る対話は、内容がいくら正しくても届かない。
【POINT2】「どう思う?」と問いかけを起点にする
指示や提案の前に、まず相手に考えさせる問いを投げる。自分で答えを出すプロセスが「自分で決めた」という感覚を生み、行動への納得度が高まる。問いかけは、答えを引き出す道具であると同時に、自由を与えるアクションでもある。
【POINT3】選択肢を3つ程度示して、選んでもらう
「こうしなさい」ではなく「A・B・Cのどれが合いそう?」と提示する。選ぶ主体がメンバー自身になることで、リアクタンスが起きにくくなる。完全な自由ではなく、用意された選択肢から選ぶ構造が、リーダーの意図と本人の主体性を両立させる。
異論や反論で返してくる部下を「扱いにくい人」と決めつけてしまうと、対話は詰まっていくばかりです。
しかし、行動経済学の視点に立てば、反発はむしろ「自分で決めたい」という意欲のサインだとわかるはず。
そのための基本は「押しつけず、問いかけ、選ばせる」の3つ。このシンプルな原則を意識するだけで、チームの空気は少しずつ変わっていくでしょう。
うまくスイッチが入れば、反発していたメンバー自身も自分のやる気を自分でコントロールできるようになるはずです。
----------
橋本 之克(はしもと・ゆきかつ)
マーケティング&ブランディングディレクター
昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。東京工業大学工学部社会工学科卒業後、大手広告代理店を経て1995年、日本総合研究所入社。1998年、アサツーディ・ケイ入社後、戦略プランナーとして金融・不動産・環境エネルギー業界等多様な業界で顧客獲得業務を実施。2019年、独立。現在は行動経済学を活用したマーケティングやブランディング戦略のコンサルタント、企業研修や講演の講師、著述家として活動中。著書に『9割の人間は行動経済学のカモである 非合理な心をつかみ、合理的に顧客を動かす』『9割の損は行動経済学でサケられる 非合理な行動を避け、幸福な人間に変わる』(ともに経済界)、『世界最前線の研究でわかる! スゴい! 行動経済学』(総合法令出版)、『モノは感情に売れ!』(PHP研究所)などがある。
----------
(マーケティング&ブランディングディレクター 橋本 之克)

![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 昼夜兼用立体 ハーブ&ユーカリの香り 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Q-T7qhTGL._SL500_.jpg)
![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 就寝立体タイプ 無香料 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51pV-1+GeGL._SL500_.jpg)







![NHKラジオ ラジオビジネス英語 2024年 9月号 [雑誌] (NHKテキスト)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Ku32P5LhL._SL500_.jpg)
