■「ユニクロが今日あるのは鈴木さんのお蔭」
ユニクロが地方の一チェーンだったころから、わたしは鈴木敏文さんの経営について書かれた書籍を読み、そこから多くを学び、自らの経営に活かしてきました。その意味で、ユニクロが今日あるのは、鈴木さんのお陰と言っていいかもしれません。
鈴木さんご本人と初めてお会いしたのはいつだったか。わたしは鈴木さんを経営者としてずっと尊敬し、それとともに、やや口幅ったいようではありますが、鈴木さんにもわれわれの経営を高く評価していただいた。年齢こそ一回り以上違いますが、同じチェーン展開を行う企業の経営者同士、互いに刺激し合い、学び合ってきたという思いが今も強くあります。
わたしは以前、セブン‐イレブンに代表されるコンビニエンスストアの弁当も、ユニクロのTシャツも同じであると発言したことがあります。セブン‐イレブンとユニクロ、どちらにも共通するのは、人々の暮らしに根づいた社会インフラであるということです。
アパレル業界では、自分たちの商品を芸術品のように捉えるところがありますが、われわれはそうは考えません。服を通じてあらゆる人の生活をよりよくする。創業以来の使命を“MADE FOR ALL”というコンセプトで表し、ユニクロの商品を“LifeWear”と呼びました。
■アウトサイダーだから出来た新しいシステム
コンビニ業界で、社会インフラという位置づけを明確に打ち出したのがセブン‐イレブンの創業者である鈴木さんでした。公共料金の店頭での収納代理業務をいち早く開始したのも、社会の公器という自覚があったからでしょう。
それまでの小売業は、どちらかといえば、売り手の都合で商品を売って利益を得るという“売らんかな”的な商業主義の色合いがありました。鈴木さんの最大の功績は、日本初の本格的コンビニエンスストアチェーンであるセブン‐イレブンという、従来の小売業とは異なる、まったく新しいシステムをつくり上げたことにあると思います。
もともと小売業出身ではなく、出版業界から転じた鈴木さんは、既存の業界の常識にとらわれない超合理的・超客観的な思考の持ち主でした。小さな店舗で、どのような商品アイテムを、どれだけ提供すればいいのか。お客様がどんなときに、どんな商品を、どれほど要望するかという情報を重視し、その情報に沿った商品を提供する。
ファーストリテイリングも「情報製造小売業」を掲げ、顧客ニーズや購買データを素早く的確に捉え、お客様が本当に要望する商品を企画・生産・販売するビジネスモデルを展開し、情報の商品化に取り組んでいます。
■突出していた仮説・検証による「単品管理」
この情報の重要性を、半世紀前のセブン‐イレブンの創業時から早くも認識していたのが鈴木さんでした。
その経営手腕として突出していたのは、情報の商品化の仕組みとして「単品管理」という独自の手法を生み出したことでしょう。
この単品管理を徹底するには、すべてをお客様の視点で捉えるお客様第一主義でなければなりません。お客様第一主義を標榜はしていても、実行がともなっていない企業が少なからず存在するなかで、鈴木さんはお客様第一主義を全組織をあげて一貫して追求しました。トップとして「常にお客様の立場で考える」ことを全社員、全店舗に求め、「変化への対応と基本の徹底」という経営の原理原則を唱え続けました。
■大会社にならないように腐心
鈴木さんの経営の特質は、トップとしてのメッセージを発し続けるとともに、それを徹底させるため、事業の細部にもこだわり、常に現場に目を向けたことでしょう。
企業は大会社になるほど、経営が現場から遠ざかり、トップも組織の上に乗っているのがトップであるかのように思いがちです。それに対し、セブン‐イレブンの企業規模がどんどん拡大しても、鈴木さんはいわゆる大会社にならないように腐心していたように思えます。
加盟店の経営をサポートする現場の第一線の社員を本部に集めて、フェイス・トゥ・フェイスのダイレクト・コミュニケーションで経営の基本を繰り返し語っていました。また、本部主導の画一的なチェーンストアの店舗運営ではなく、個々の加盟店が地域に密着した個店経営を目指すように推進したのも、本部と現場の加盟店が対等な立場であること明確にし、自社が大会社にならないように意図していたのではないでしょうか。
■現場、商品すべてはお客様に伝えるため
細部へのこだわりは、商品への強いこだわりにも表れていました。1つひとつの商品に強い関心を持ち、その商品の価値を理解し、商品をつくるだけでなく、その価値がお客様に伝わるようにしなければならない。
小売業では、概して、サプライチェーンはメーカーや問屋の領域であると捉えがちです。それに対し、鈴木さんはお客様に評価される商品を提供するため、セブン‐イレブン専用工場を店舗の近くに配置できるようにするなど、川上から川下へ至るサプライチェーン全体にわたるセブン‐イレブンならではの独自のシステムを構築しました。
細部、現場、商品への強いこだわり。それは、セブン‐イレブンの生命線がどこにあるか、トップとして確信していたからでしょう。
プライベートブランドも、流通企業では低価格訴求が一般的だったなかで、品質を追求していました。ファストフード類も、品質がお客様に評価されないと判断すれば、即断即決で店頭から撤去したり、商品を廃棄したりといった逸話が残ります。それも、品質はセブン‐イレブンの生命線であり、そこから外れた商品を提供することによるブランドへのマイナスは、撤去や廃棄によるさまざまなロスよりはるかに大きいと判断したからでしょう。
■オンリーワン イズ ナンバーワン
トップとして即断即決し、即実行する。それができるのは、自社の生命線について、常に考えているからです。
実行や実務を重視し、理論をもとに実行するのではなく、自身の実行をもとに理論をつくることのできる数少ない経営者でもありました。
Only One Is Number One.――という言葉があります。他と違う唯一無二を目指し、その違いによって圧倒的なトップに立つ。それを流通・小売業において実現したのが鈴木さんの率いたセブン‐イレブンだった。そして、企業がOnly One Is Number One.であり続けるためには、トップの役割はどうあるべきか、わたしをはじめ後進たちに範を示したのが鈴木敏文という稀代の経営者でした。改めてお礼の言葉を捧げたいと思います。
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勝見 明(かつみ・あきら)
ジャーナリスト
1952年生まれ。東京大学教養学部教養学科中退後、フリージャーナリストとして、経済・経営分野を中心に執筆を続ける。著書に『』『』ほか多数。最新刊に『』(野中郁次郎氏との共著)。
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(ジャーナリスト 勝見 明 インタビュー・構成=勝見明)

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