ビートインクは〈Warp〉や〈Brainfeeder〉をはじめとした海外レーベルの国内流通やプロモーションに携わるだけでなく、エレクトロニック・ミュージックの来日公演や重要フェスの企画制作を手掛けてきたことでも知られる。
2000年に立ち上がり、2013年まで続いた「Electraglide」は、海外の最先端アーティストを日本に紹介するだけでなく、テクノ、エレクトロニカ、IDMなどを織り交ぜた屋内型のレイヴパーティーをロックフェスと同じような規模で提供し、日本のフェス文化の発展にも貢献した。また2011~2013年には、バルセロナ発の音楽とメディア・アートの祭典「Sonar」の日本版として開催された「SonarSound Tokyo」のプロデュースも手掛けている。
さらに2010年からは、フライング・ロータス率いるレーベル〈Brainfeeder〉のショーケース・イベントを日本で開催。フライング・ロータス、ティーブス、デイデラスといったレーベルの中核を担うプロデューサーに加え、サンダーキャットやオースティン・ペラルタらが出演し、ジャズとLAビートシーンが融合する刺激的な音楽体験を届けた。
真鍋大度とビートインクがタッグを組み、高輪ゲートウェイシティに作られたミュージアム「MoN Takanawa」で開催される「Future Frequencies Festival 2026」の第一報を見たとき、多くの人が当時の活況を思い出したのではないだろうか。
特に初日は、UKダンスミュージックを長年牽引してきたジョイ・オービソンがヘッドライナーを務めるほか、「Electraglide」に幾度となく出演してきた故アンドリュー・ウェザーオールが率いたセイバーズ・オブ・パラダイスが1995年以来の再来日を果たし、「Electraglide」でもコラボステージを披露してきたノサッジ・シングと真鍋大度の再共演も実現。IDMを更新するニュー・アルバム『Detached From the Rest of You』も好評だったロレイン・ジェイムスといった顔ぶれにも、「Electraglide」を想起せずにはいられない。
かたや二日目のノワー(KNOWER)、カッサ・オーバーオール、長谷川白紙という並びには、「Electraglide」から〈Brainfeeder〉へと受け継がれていったビートインクらしさの現在地が反映されているように思う。
それこそ「Electraglide」も後期になると、〈Warp〉が送り出した!!!やバトルスといったバンド勢や、ベーシストでもあるスクエアプッシャーも出演するようになっていた。〈Brainfeeder〉主宰のフライング・ロータスも2012年に登場している。屋内レイヴがバンドや生演奏を取り込んでいく流れを継承し、生演奏とプログラミングが交差する2010年代の音楽シーンをいち早く捉えたのが〈Brainfeeder〉のショーケースだった。
左上から時計回り:KNOWER、カッサ・オーバーオール、松丸契、長谷川白紙
KNOWER、カッサ・オーバーオール、長谷川白紙、松丸契が集結
〈Brainfeeder〉からのリリースでもお馴染みのルイス・コールとジェネヴィーヴ・アルターディが、2000年代の終わりに結成したノワーは、ジャズやファンクのみならず、ゲーム音楽やエレクトロニック・ミュージックからの影響も公言するプロジェクトだ。LAシーン屈指のドラマーでもあるルイスが、スクリレックスなどの影響を消化した独特な音楽を奏で、ジェネヴィーヴが魅惑的な歌声を響かせる。LAのジャズ界隈にはエキセントリックな音楽を奏でる奇才が何人もいるが、ノワーは奇妙さとポップさを同居させた音楽性によって屈指のオリジナリティを誇っている。
今回はフルバンドでの来日。2024年に実現した前回のフルバンド編成では、のちに〈Blue Note〉 からデビューを果たす鍵盤奏者のポール・コーニッシュなど、それぞれがリーダー作をリリースしているLAの敏腕たちを引き連れ、最高のライブを聴かせてくれた。今回も素晴らしいステージになることは間違いないはずだ。
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そこにカッサ・オーバーオールが並ぶのが興味深い。ジェリ・アレンやヴィジェイ・アイヤーとも共演するドラマーでありながら、自身の演奏をセルフサンプリングし、自在にエディットしてみせるプロデューサーでもあり、現在は〈Warp〉に所属している。ジャズとヒップホップを過激なやり方で融合させた〈Warp〉からの初作となる2023年の『Animals』は、ジャンルを超えて広く評価された。
カッサがすごいのは、作品を重ねるたびに変化し続けていることだ。2025年の『CREAM』では、ヒップホップの名作をジャズど真ん中のアレンジでカバーするという異色のアプローチを披露。
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そこへさらに、長谷川白紙が今回唯一の〈Brainfeeder〉所属アーティストとして登場する。2023年のアルバム『魔法学校』では、J-POP、現代音楽、ジャズ、エレクトロニカ、ボーカロイドが入り混じる音楽性に磨きをかけ、KID FRESINO、サム・ウィルクス、挾間美帆、馬場智章らを迎えていた。活動初期には〈Maltine Records〉からリリースしていたこともあり、日本独自のインターネット・カルチャーの要素も色濃く、この国からしか生まれ得ない音楽を生み出しているのが彼の特徴だろう。〈Brainfeeder〉が長谷川に魅了された背景として、フライング・ロータスやサンダーキャットのように日本文化から多大な影響を受けてきたレーベルが、その現代版とも言うべき存在を迎え入れたかったという思いもあったのではないかと想像する。この2日目のラインナップに最もふさわしい日本アーティストであることは間違いない。
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さらに日本屈指のサックス奏者であり、その唯一無二の表現によって石橋英子やジョーディ・グリープ、betcover!!、長谷川白紙の「THE FIRST TAKE」パフォーマンスにまで起用されてきた松丸契も出演する。2022年の2ndアルバム『The Moon, Its Recollections Abstracted』は、驚異的なクオリティで日本のジャズ界を驚かせ、アジカン後藤正文が設立した「APPLE VINEGAR -Music Award-」の大賞にも選出された。近年はサックスでのソロ・パフォーマンスを追求しており、その成果を『Dokusō, YūYū』として発表。それと並行してサックスとエレクトロニクスを組み合わせた実験的なプロジェクトも行っており、エクスペリメンタル/インプロヴィゼーションの領域でも才能をいかんなく発揮している彼が、このフェスに加わる。
この二日目のラインナップには、エレクトロニック・ミュージック、ジャズ、もちろんそれ以外のジャンルにも親和性の高い音楽が並んでいる。それはビートインクが「Electraglide」と〈Brainfeeder〉で提示してきたダンス・ミュージック/エレクトロニック・ミュージックの拡張と確実に呼応している。そこにカンファレンス、パネルディスカッション、ワークショップ、作品展示、コラボレーション・パフォーマンスなどが加わり、音楽だけの枠組みを乗り越えることで、それらは2020年代の現在性を帯びる。長年、日本に新たな音楽の楽しみ方を提示してきたビートインクが、2020年代に送る新たなプレゼンテーションを見逃すわけにはいかない。
「FUTURE FREQUENCIES FESTIVAL 2026」
2026年7月11日(土)・12日(日)
MoN Takanawa「Box1000」「Box300」
東京都港区三田3-16-1
・JR東日本高輪ゲートウェイ駅直結(北改札口から徒歩6分)
・都営地下鉄浅草線泉岳寺駅(A4出口から徒歩3分)
チケット購入:https://linktr.ee/fff_tokyo
イベント詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=15808
■出演者
DAY1
・Joy Orbison
・The Sabres Of Paradise
・Nosaj Thing × 真鍋大度
・Loraine James
・原 摩利彦
・Mount XLR
DAY2
・KNOWER
・Kassa Overall
・長谷川白紙
・YPY
・松丸契
◾️料金
1日券
DAY1:1万2000円
DAY2:1万4000円
2日通し券:Standing:2万3000円
主催・企画制作:Studio Daito Manabe / Beatink / FIL
共催:MoN Takanawa: The Museum of Narratives
協力:Arts Council Tokyo


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